妹にはバレてしまったが、あんな事はもう二度と無いだろ。だから、安心して、静かに陰キャをenjoyするぜ。

第76話 普通の高校生活?




あれから、1ヶ月が過ぎた。

特に何事もなく、時間ばかりが過ぎていく。




特に変わったことと言えば、モデルから歌手に仕事の幅を広げられそうな事ぐらいだ。

何故か分からないが、最近、歌の仕事が多い。




最初は、写真集の宣伝で参加した、

バラエティー番組の余興みたいな時間、MCの無茶振りから始まった。

この場所で、嫌だとは言えない。

俺は、大分手抜きに歌った。




音痴でへなちょこで、以後ブレイクなんてするはずがない。

そう思っていたのだが....。




「矢々葉くん、歌、上手いねー。」

「心が洗われる、そんな澄んだ歌声だよ。」

と、皆、拍手喝采の大絶賛。





大批評で、あわよくば、モデルもクビ、を期待していた俺にとって、予想外の展開だった。




で、歌の依頼が殺到。





マジで、マネージャーが乗り気でさ、振り回されっぱなしというか.....。

俺は、モデルであって、歌手では無いのだが....。





むしろ、そのモデルも早く辞めたい。

俺の仕事、早く無くならないかなぁ....。




てか、CDとか発売するってなったらどうなると思う?

円盤の中に、永久的に俺の声が残るんだ。

絶対に、ダメだ。







いっそ、声帯でも潰せば?

と、鳴神に言われているが、流石にそれだけは、勘弁。




まぁ、捕らぬ狸の皮算用と笑えられたらそれで良いはずなのだが、少し心配な案件一つだ。







後は、変わらず、コソコソと伊世早の仕事を手伝ったりしている。

グループは、あの事件の影響を一つも受けず、更に業績を伸ばしていっている。

将来、この会社俺が貰いたいぐらいだ。



まぁ、目立つから嫌だけど。




そのぐらい、経営は安定している。











あ、それだけじゃ無かった。






「では、糸谷くん。

今日の放課後、学級委員の招集がかかってますので、忘れずに参加してくださいね!」



あと、この名簿をまとめて、職員室へ運んでください!!





てとてとと、望月先生が俺に仕事を与えてくる。






そう。

仕田原理子の抜けた穴は大きかった。

学級長で、常にクラスを引っ張っていた彼女が居ない。

そうなると、当然、副長の俺に全ての仕事が押し付けられる。

授業の号令。

決め事の先導。

先生の雑用。







人前で何かをするという事を避けたい俺にとって、真逆の行動をしているとしか言いようがない。










ただ、まだ、俺の事を深く知る奴は、数少ない。

出来れば、このまま、ひっそりと卒業出来れば...。

と、願うばかりだ。





「......はい。」

俺は、なんてことに巻き込まれているんだと、色んな意味で悔やみながら、小さく返事をした。










そんな俺の暗い気分を少し、和らげてくれるのがこいつらだ。





「糸谷くん。

お仕事、おつかれ様です。

名簿、まとめるの手伝いますよ。」


そう言って、後ろを向いてくれる美優。






ピロン、ピロン。

『お兄ちゃん!

お昼には学校行けそうです。

一緒にお昼食べよう!』



連続テレビドラマの仕事で忙しい時期なのに、定期的に連絡をくれる桜。






欲を言えば、ここらで会話は、終わりたかった。



「桜さんですか?」


「ああ。昼には来れるってさ。」



「そうですか。」

少し、眉を伏せる。





「ん?嬉しくないのか?」

「だって、糸谷くんを独り占め出来なくなるんですもの。」



横の髪をいじりながら、拗ねたようにしている。





「そ、そうか。」





俺は、なんとも言えない返事をしてしまった。











ゴホン。

大きな咳払いが教室に響く。





「鳴神ちゃん。風邪?」

「大丈夫?」



「ううん。

むせちゃっただけ。

心配してくれてありがとう。」


そう笑顔で返す鳴神がいた。

目が笑ってない。

怖い......。











俺は、そう思って、耳をすませる。



「おい。

何で、あのメガネが伊世早嬢と普通に会話してるんだ?」


「最近、桜姫とも親しげだよな。」



「あいつ、何者?」




そう言った声が聞こえる。







いけない。










俺は、望月先生に言われた資料を手早くまとめると、席をたった。

「じゃ、伊世早さん。

職員室に行くから。」








「では、私もお手伝い致します。」

お兄様?


こそっと、耳元で囁くのは反則だ。






「い、いや、いいから。」










「うわ。

あのメガネ、お嬢の親切心を踏みにじった!」

「ありえなーい!何様?」










「........。」


美優は、綺麗な瞳で、俺の返事を待っている。







美優....。

俺、ひっそりと生きたいって言ったよな?








そこに座って、大人しくしとけ。








嫌です。

だって、昼から桜さんが来るのですから。

今だけは、お兄様のお近くにいたいです。









いつも、二人一緒に俺にくっついてくるだろ?

誰もこない屋上。

わざわざ、ピッキングして鍵開けて、屋上で昼飯も一緒に食べてるんだ。

今ぐらい、大人しく......。





嫌です。

「ううー。」

終いに、目に涙をためはじめる。










「うわ。

メガネ、伊世早さん泣かせたぞ!」

「いったい、どんな酷い言葉を浴びせられたんだ?」









はぁ。

職員室に行きたいだけが、とんだ注目を浴びる。








「.......。じゃ、一緒に行くか......。」

俺は、周りからの被害を最小限にするため、彼女の要求をのんだ。





「はい!」

結局、可憐な花が咲いたのだった。







職員室へ、ただ資料を提出しに......。







「うわ。メガネがお嬢様をどっか連れてくぞ?」


「脅迫、強迫、強拍!!」

クラスがざわめく。

廊下を歩くたび、更に視線が集中する。





「あれ誰?」

「メガネが、伊世早さんを?」






どちらの選択肢を選んでも、注目の的からは逃れることが出来ない糸谷であった。










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