第77話 まぁ、普通の高校生活?

キーンコーンカーンコーン。

昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴る。






俺は、そのチャイムと同時に、席をたった。


多目的棟の東廊下。

屋上へと続く階段を上る。



この場所はいい。

人があまり通らない。




俺は、ポケットからピッキングツールを取り出し、屋上扉の鍵窓に差し込んだ。




カチャリ。


俺は、ドアノブを回し、外へ出る。






涼しい風が、吹き抜ける。

空もすっかり夏の雲だ。

あと1ヶ月もしないうちに、夏休みがくる。

そう言えば、今日の放課後、学級委員の集まりがあったな。




俺は、何のまとまりのない、話題を次から次に引っ張り出してみる。





コンクリートの地面に腰を下ろし、ゆっくりと心を落ち着かせたいた。




俺の心が休まる貴重な時間....。

で、あったのは、1ヶ月前までの事だった。








ガチャ。

パタン。









遅れて、2人分の人影が屋上扉のすりガラスにうつった。







「お兄ちゃん!」

躊躇なく、俺の胸元に飛び込んできたのは桜だった。



「おぉう。早く着けたみたいだな。」

俺は、毎度に事に戸惑いながらも、声をかける。






「えへへ。

お兄ちゃんに早く会いたいから、全部ファーストテイクでオッケーもらっちゃった。」

桜、頑張りました!




えっへん。と、少し、自分の頑張りを知って欲しいように胸を張って言った。









「そ、そうか。」

俺に早く会いたい。

何故か、くすぐったさを覚えた。








「桜さん。

お兄様に少しくっつきすぎなのでは?

離れてください。」




「イヤ。」

美優ちゃん、朝からお兄ちゃんと一緒だったもん。

反抗してか、さらに強くぎゅっとしてきた。






白くて細い腕が、夏服に衣替えしたせいか、余計に強く感じられる。

半袖からはみ出る俺の腕に小さな手が絡みつく。





「じゃぁ、今日、私が持ってきたお弁当、桜さんの分はお兄様にあげます。」

お兄様。

沢山作ってきたので、お腹いっぱい召し上がってくださいね。



駄々をこねる桜を羨ましそうに横目で見ながらも、重箱を広げ、取皿と箸を渡してくる美優。








「むー。美優ちゃんのイジワルー。」

渋々、俺から体を離す。









「にしても、今日の弁当も随分豪華っていうか、種類豊富っていうか.....。」






屋上で食べることになった頃から、美優が弁当を作ってくるのが日常になっていた。






「お兄様にお弁当を作ってまいりました。」

最初、大きい包を持ってきたときは驚いたが、それ以上に、美優の料理は絶品だった。





俺は、目の前に並べられた洋中和の料理を順に摘んで口に入れた。







「お味はいかがですか?お兄様。」




「ん。上手い。」






パァーっと彼女の顔に花が咲く。

「お兄様、今日はお兄様のお好きな竹輪の磯辺揚げがあるんです!」

青海苔もふりました。



感覚が庶民なもんで....。

俺は、場違いなところに並べられている竹輪に手を.....。







「ふふ。お兄様、お口を開けてください。」

そう言って、美優の箸が俺の口元に近付く。

「あ!美優ちゃんズルい!」

私もお兄ちゃんに食べさせたい!




そう言って、ミニトマトのヘタを手でつまみ、俺の方へ持ってくる。







俺が、兄だと分かってから、二人がやけに俺に構ってもらおうとしてくる。

俺としても、願ったり叶ったりの状況ではあるが、出来すぎなのではと、戸惑ってしまう。








校内でも会社でもメディアでも、目立つことは控えたいのだから。




校内で、桜と美優の二人と行動を共にするとろくなことが無いのでは?





そんな心配もあるにはあるが、ここは立入禁止の屋上だ。


ここならば、なんとか大丈夫だろう。

そう思って、



「あー。分かった。分かった。


どっちも食べるから、競うな。」





と、内心ワクワクしている自分の心を落ち着かせていた。








はい。あ~ん。

お兄様、お口を開けてください。








俺の静かな昼休みが消えてしまった事に、最初は後悔したが、まぁ、悪くない。

と、妹たちが食べさせてくるおかずに舌鼓をうっていた。








放課後。

俺は、望月先生に言われたように、生徒会室に来ていた。




今日は、専門委員会とか、クラス長会議の日では無い。

俺が、いや、1年c組を代表して、個別的な用事で呼び出されているらしい。





いったい、どういった要件なのだろうか。









生徒会から、直々にお呼び出しなど滅多に無いものなんじゃないか?

俺のクラス、何かした?





わりと、平和なクラスだと思っていたんだが。









俺は、そんな事を考えながら、生徒会室の扉をノックした。





コンコンコン。


「どうぞ。」



「失礼します。」


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