第54話 忍び寄る後悔

『はぁー。今日は、楽しかったね。』

前を歩いていた彼女は、手を後で組み、伸びをすると、こちらを振り返った。

夕焼けが、彼女を照らしている。

『ああ。楽しかった。』



『でも、もっと、一緒に居たかったなぁー。ちょっと、寂しい。』

眉を伏せ、悲しそうに笑う彼女に、俺は、何とかしてやりたかった。



『また、また来ればいいだろ。つ、付き合ってるんだから.............。』

そう言うと、彼女の顔は、パッと明るくなる。

『そっか!そうだね!私達、いつでも一緒に来られるね。じゃ、約束の指切り。』

彼女は、小指を突き立て、俺の前に持ってくる。


俺も、それに習う。

『指切り.............。』







!?


彼女は、俺の差し出した手首をつかんで、手を引き寄せてきた。

俺に、顔を近づけるように、背伸びをする。



!!!!?

頬に、クリームが付いた感触。

でも、クリームより暖かい。

人間味のある肌触り。



何事かと思って、彼女を見る。

彼女は、顔をホントに、真っ赤にしながら、こう言った。




『次までに、練習しとくって、約束したもん。』


『下の名前で呼ぶって.............。』


『約束したのに、いっぱい、待たせちゃったから.............。

頑張っちゃいました.............。

好きだよ。ずっと、一緒に居てね。いとせ.............。』



目をそらして、恥ずかしさを紛らわせたい気持ちをグッと堪えるように、うるうるしてくる瞳は、ずっと、俺の目を見ていた。




『っつ。あ、ありがと。さくら。』

俺は、なぜか、俺の方が、恥ずかしくて、腕で顔を隠しながら、ボソッと答えた。








すごく体が熱い。

彼女の演技に、圧倒される。

高揚感が増す。

今なら、何でもできそうだ。




そんな感じにさせてくれる。

さすが、俺の妹はすごいな.............。




「はい。カットー!」

茂木さんの声で、魔法が解ける。



この辺りから、俺の意識は、闇に沈んでいった。




「いとせ君!!」

薄れゆく視界の中で、井勢谷桜の胸のなかに顔を埋めた感触だけは、感じ取れた気がする。











次に、目を覚ますと、見知った顔が二つ。

俺を覗き込むように並んでいた。


「いとせ君!!」

「鳩谷さん!!」



ここから、俺の新しい生活が始まったのだった。


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