第21話 鳩谷正也の誕生秘話④

マジ?

自分の知っている話題で、会話をリードしようとしたことが、裏目に出た。


どうも、あの人は、今月と来月の予定を間違っていたらしい。




あのやろう。

帰ってきたら、絞めよう。





ただ、このままだと、屋敷に忍び込んだことがバレてしまう。


「えーっと......、ですね。そう!」

俺は、思い出した。

『お前は、7・8歳は老けられる。』

これは、昔、父が俺に言ってた、言葉だ。


これで、あることを閃く。



「これは、申し遅れました。

私は、先日から、旦那様の身の回りのお世話を担当しております。

鳩谷正也と申します。

ご挨拶が遅れて申し訳ありません。

沖縄旅行のことは、その時に、旦那様から、こっそりと伺ってしまいました。

旅行の日にちまでは、把握してなかったものでして。

軽率な言動になってしまったこと、どうか、お許し下さい。」



俺は、さっき、急いで着替えた、黒の燕尾服に、白い手袋を胸にあてて、答えた。




もう、どうにでもなれ。

そして、口から、スラスラ出る、嘘に、体を預けた。





「そうなんですね。

先ほどは、不審に思い、大変失礼致しました。」



必死に、考えた嘘、今度は、すんなり、彼女の心を捕らえた。

まあ、妹は、まだ、怪訝な顔をしていたが。





「私は、伊世早グループ、社長。

伊世早浩介の長女。伊世早美優と申します。こちらは、妹の、雪。」



姉は、ゆっくり、優雅に話す。

紹介されると、妹も、小さく頭を下げる。




「急遽、旦那様の元で、働くことになって、こちらも、バタバタしておりました。

これから、どうぞ、よろしくお願いいたします。」



何、よろしく、してんだよ!!

そーじゃねーだろ!


と、思うが、思考と行動が釣り合わない。



「ええ。

父をよろしくお願いしますね。鳩谷さん。」







そう言って、長い黒髪の長女は、恭しく、微笑んだのであった。







そんなこんなで、俺、使用人、鳩谷正也が誕生した。

一応、年齢は18歳ってことにした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る