第14話
『ウバイーヌ』を突如として襲った不幸。
それは蜂に刺されたケガを治そうとしての、ささいな手違いがキッカケからであった。
その手違いは雪ダルマ式に膨れ上がっていき、とうとう取り返しのつかない大事故へと発展。
『ウバイーヌ』のアジトが瓦礫の山と化すほどの大損害を与える。
これらはすべて『
この
『ウバイーヌ』のアジトは山奥にあったのだが、爆発があたりに燃え広がり山火事と化す。
盗賊たちは炎にまかれなかがら、命からがらで麓まで逃げのびたのだが、そこに待っていたのは……。
法の番人……!
『ウバイーヌ』のアジトは山火事でバレてしまい、待ち構えていた衛兵たちによって一網打尽にされてしまう。
そのとき、盗賊たちに寝返った『ハテサイの村』の者たちも一緒になって捕まってしまった。
彼らはずっと、無実を叫んでいたという。
しかし、その訴えは聞き入れられることなく……。
仲良く、投獄っ……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日の夕方ごろに、ミニダイコンはびんぼう村に戻ってきた。
山道をとてててと元気に駆け上がってくる。
ダイコンが「おかえりなさい」と、しゃがみこんで迎えると、ぴょーんと飛びついていた。
ミニダイコンはダイコンの肩によじ登り、こしょこしょと耳打ちする
ちっちゃいダイコンを肩に乗せたまま、おおきいダイコンが俺に報告してくれた。
「旦那様、『ウバイーヌ』のみなさんは捕まったそうです」
その報告はかなり端的で、経緯がだいぶ端折られているような気もするが、なんにしてもよかった。
「そうか、ならしばらくはこの村も安全だな。ご苦労だったな、ミニダイコン」
俺が褒めてやると、ミニダイコンはぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。
そして、またしてもダイコンになにかを耳打ちする。
「どうした?」と尋ねると、ダイコンがもじもじしながら答えた。
「はい。あの、旦那様……。この子が、抱っこしてほしいそうです」
「なんだ、そんなことか。そのくらいお安い御用だ」
俺が手を差し伸べると、ミニダイコンは肩から跳躍して、俺の手のひらに着地した。
そして俺に向かって「ニコー」と口だけで笑む。
前髪で顔が隠れているので定かではないが、このミニダイコンはダイコンに比べて表情豊かで無邪気のようだ。
もしかしたらダイコンの子供の頃が、こんなだったのかもしれないな。
いずれにしてもかわいい。
俺は胸に抱きしめてやった。
するとミニダイコンは、「ピャー」と嬉しそうに鳴く。
「まるで子猫みたいだな」
とダイコンを見ると、ダイコンは俺の胸元を凝視していた。
口の端からヨダレを垂らし、「い……いいなー」と顔に書いてあるかと思えるほどの表情。
これほどまでに物欲しそうというか、羨ましがっている仕草を俺は知らない。
「そういえば、お前にもご褒美をあげなくちゃな。来いよ」
手を広げて胸を開けてやると、ダイコンはパアッと顔を明るくする。
しかしハッと我に返ると、慌てて顔と手をパタパタ振っていた。
「い、いいえ! わたしのような若輩者がご褒美など、とんでもありません!」
「いいから来いって」
抱き寄せると、「きゃっ」といつものかわいい悲鳴とともに飛び込んでくるダイコン。
嫌かというとそうではないようで、さっそく白いつむじが見下ろせるほどに、俺の胸に顔を埋めていた。
「あ、ありがとうございます、旦那様……。
旦那様の胸、ひろくておおきくてあったかくて、わたし、大好きです……」
「そうか」
俺の胸に頬ずりしながら、幸せそうな吐息を漏らすダイコン。
ミニダイコンはちゃっかりダイコンの頭上に移動していて、ダイコンの頭を踏み台代わりに俺の頬にスリスリしていた。
俺は身体と顔、まさに全身でダイコンを感じる。
そして、心でも。
ふと、俺の腹の底からあたたかいものが湧き上がってきたかと思うと、俺とダイコンのまわりから黒いオーラがたちのぼった。
するとダイコンはハッとした様子で、俺を見上げる。
まだ自分でも信じていないような口調で、
「だ、旦那様……。レベルアップ、しちゃいました……!」
「ああ、
たしか貧乏神は、他人を貧乏にすると経験値が得られるんだよな。
「そうか、『
「はい。そうです……!」と上目遣いに答えるダイコン。
なぜかその声はかすれていて、瞳はうるうると潤みきっていた。
ダイコンは三日経っても慣れないほどの美少女なので、いまだに目が合うだけでもドキッすることがある。
それなのにこんな表情を見せられると、心臓が暴れ出しそうになってしまう。
俺は緊張を表に出さないように、ダイコンに尋ねた。
「どうしたんだ? そんな泣きそうな顔して」
「わ、わたし、初めてなんです……。レベルアップしたの……」
「レベルアップってのは、喜ばしいことなんだろ?」
「はい……! わたしにとっては信じられないくらいに、嬉しいことです……!
わたしのような貧乏神がレベルアップすることなんて、一生ないと思っておりましたから……!」
「そうか、よかったな」
「はっ、はい……! ありがとうございます……ありがとうございます……!
わたし、ほんとうに幸せです……!」
頭を撫でてやると、ダイコンの瞳の端から、真珠のように美しい光の粒がぽろぽろと溢れ出る。
ダイコンは泣き顔を隠すように、ふたたび俺の胸に顔を埋めた。
「ごっ……! ごめんなさい、ごめんなさい……!
生きていてこんなに嬉しいことが、あるだなんて……!」
「なんだ、そんなにレベルアップしたかったのか」
「いっ、いいえ……! レベルアップも嬉しいのですが……!
わたしのような貧乏神が、旦那様のような素晴らしいお方と一緒にいられることが、嬉しいのです……!」
「そうか、よかったな」
すると、ダイコンはまるでひとつになるのを望んでいるかのように、ぎゅうっ……! と俺にしがみついてくる。
「わたしは身も心も、旦那様から離れることができなくなってしまいました……!
ですからお願いです、ずっとおそばに置いてください……!
なんでもしますから、わたしを捨てないでください……!
旦那様に捨てられてしまったら、わたし、わたし……!」
「まったく……。お前は相変わらず、被害妄想のカタマリだな。
何度も言わせるなよ、お前もう、俺のもんだ」
「ううっ……! 旦那様……! 旦那様ぁ! うっ……! ううっ……! うううっ……!」
ちいさな肩を振るわせ、声を殺して嗚咽を漏らすダイコン。
俺はその健気な頭を、いつまでもいつまでも撫でてやった。
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