外れギフト「貧乏神」のせいで追放された少年 最果ての地で美少女貧乏神といちゃらぶスローライフ!

佐藤謙羊

第1話

 人には誰しも、持って生まれた才能というものがある。

 それは『技能スキル』と呼ばれ、その人の一生を決定づける。


 剣の技能スキルを持った者は修羅の道を往き、エビ剥きの技能スキルを持った者は、一生をエビにまみれて終える。


 しかしその技能スキルが与えられない者というのが、ごくわずかにいる。

 その者は何の役にも立たない人間かというと、そうではない。


 なぜならば彼らには、かわりに『守護神ギフト』が与えられるからだ。

 守護神ギフトというのは、人間に対して神が取り憑くこと。


 剣の守護神ギフトが憑いた者は、剣聖と呼ばれるようになり。

 知恵の守護神ギフトが憑いた者は、賢者と呼ばれるようになる。


 まさに、その道の神と呼ばれる存在になるのだ。


 俺、グリード・ミリオンゴッドは守護神ギフトを与えられた者のひとり。

 幼い頃に父を失い、母とふたりで暮らしていたところを、今のオヤジであるゴッドダディに引き取られた。


 それから暮らし向きはずいんぶんと良くなったんだけど、オフクロはそれまでの心労がたたったのか、そのあと亡くなった。

 俺はオヤジと、俺と同じくオヤジに拾われたという、守護神ギフト持ちの兄弟たちとともに育った。


 守護神ギフトを与えられた者が16歳になると、儀式によって引き出すことができる。

 それを行なう日が、今日なんだ。


 儀式を行なう聖堂の観客席には、何千という人たちが詰めかけていた。

 みな、次世代のヒーローが誕生する瞬間をこの目で見て、媚びへつらおうとする権力者たちである。


 聖堂の中心には、これから儀式を受けるゴッドダディの子供たちが何百人と整列している。

 まるで、学校の卒業式のような光景。


 その列の最前列に、俺はいた。


 目の前にはステージのような高い舞台があって、水晶玉を持つ女神像がふたつ置かれていた。

 壁には大きな水晶板が一面にあって、そこには、


『第60回 守護神降臨の儀式』


 と文字が浮かび上がっている。

 しばらく待っていると、ステージの脇からオヤジが現れ、俺たちを見回しながら声を張り上げた。


「諸君! 今日はキミたちの守護神が明らかになる日である!

 そしてこの日から、キミたちは一人前の大人として認められる!

 守護神を引きつれ、世界へと羽ばたき……!

 我が『ミリオンゴッド帝国』を、さらに強固なものとするのだ!」


 この世界はすべてが『ミリオンゴッド帝国』の傘下にある。

 そう、俺のオヤジは『帝王』なんだ。


 そしてその跡継ぎ候補が、この俺。

 なんたって『最高神』を与えられることが決まっているんだからな。


 『最高神』にはいろいろあるが、どれが当たっても世界を支配するだけの力を得られる。

 一人前の男として認められるということもあって、否が応にも気持ちが昂ぶる。


 ステージ上のオヤジは、俺の気持ちを汲み取ってくれたようだった。


「もっと諸君らに言いたいことがあったのだが、儀式が待ちきれぬようだな!

 それでは挨拶はこれくらいにして、さっそく始めるとしよう!

 ふたりずつ名前を呼ぶので、呼ばれた者は登壇し、女神像の水晶に手を置くのだ!

 そうすれば、諸君らの守護神が、水晶板の中から降臨する!


 オヤジと俺の喉が、ごくりと同時に鳴った気がした。


「それではいくぞ!

 最初は……我がいちばんの息子、グリード! そして、役立たずのエンヴィー!」


 俺に対する歓声と、エンヴィーに対する嘲笑が一斉におこる。

 エンヴィーは俺たち兄弟のなかでも、いちばんの落ちこぼれだ。


 俺はさっそうと階段を駆け上がり、みなに手を振った。

 そして、もう帝王のつもりで宣言する。


「みんな! この儀式が終わったら俺は一人前の男として認められる!

 ようやく、すべてを手に入れられる日が来た!

 お前たちはもう……俺のものだっ!!」


 すると万雷の拍手とともに、男たちの雄叫びと、女たちの嬌声が返ってくる。


「おおっ! グリード様! 俺たちは一生、グリード様についていくぞ!」


「キャーッ! グリード様ぁ! 私たちをグリード様のハーレムに入れてぇ!」


 そう、俺はすべてを手に入れる。

 オヤジにそう教え込まれたからだ。


 そして手に入れたものは、一生大事にする。

 オフクロにそう教え込まれたからだ。


 しばらくして、まわりから小突かれながら出てきたエンヴィーが登壇した。

 当然のようにブーイングがおこる。


「おいっ! エンヴィー! グリード様を待たせるんじゃない!」


「あなたみたいな落ちこぼれ、どうせゴミ守護神ギフトなんでしょう!?」


 俺が苦笑していると、オヤジがそっと囁きかけてきた。


「グリードよ、お前のデビューをより最高のものとするために、エンヴィーをあてがっておいた。

 エンヴィーの守護神ギフトなどどうせ役立たずだろうから、この儀式が終わったらこの帝国から追放するつもりだ。

 その時に、お前の守護神ギフトで、ヤツの守護神ギフトも『追放』してやるがいい。

 私の跡継ぎとしての、最高のパフォーマンスになるぞ……!」


 『追放』というのは、他者の守護神ギフトを力を持って追い払うことだ。

 『追放』された守護神ギフトは消え去り、二度と返ってくることはない。


 もちろん相手は神様なので簡単には『追放』できないが、俺の最高神なら簡単だろう。

 といっても、そんなことをするつもりは毛頭ない。


 エンヴィーは血は繋がっていないとはいえ俺の兄弟同然で、いじめられている所を何度もかばってやったことがある。


 それに、これからいっしょに歩んでいく仲間でもあるんだ。

 彼の守護神がどんなものであれ、彼といっしょに大切にしてやるつもりだ。


 オヤジの期待に初めて背くことになるが、俺も大人になったんだから、そのくらいはいいだろう。

 俺のそんな気持ちも知らず、オヤジは満を持したように叫んでいた。


「それではグリード、エンヴィーの両名! 女神の水晶玉に手を置くのだ!

 さすれば、お前たちの守護神ギフトが降臨しよう!」


 俺とエンヴィーは同時に、ステージにある水晶球に手を置いた。


 すると、壁の水晶板がまばゆい光をはなち、聖堂中を輝きで満たす。

 観客たちは思わず目を覆っていた。


「うわっ!? まぶしい!?」


「こんなすごい降臨、初めて見たぞ!?」


「きっと、最高神だ! 最高神が降臨なさるに違いない!」


 神々しい光を放ちながら、水晶板の中から白い人影が現れた。


 それは美しい羽衣をまとい、後光を従えた精悍なる顔つきの男。

 背にした水晶板には、その男の名である『太陽神オムニ』と文字が浮かび上がっている。


「あ……あれは……!?」


「太陽神……オムニ様だって!?」


「すごい! 最高神中の最高神じゃないか! さすがはグリード様……!」


 俺への羨望は、すぐに消え去った。

 なぜならば、現れたオムニがなんと、エンヴィーの元へと寄り添ったからだ。


「ええええっ!? エンヴィーの守護神が、太陽神オムニ!? なんでっ!?」


「な、なら、グリード様の守護神は、もっと凄いに違いないぞ!」


 誰もがそう信じて疑わなかった。

 もちろん俺も。


 しかし、太陽神の登場によってそれまでは美しい光に満たされた聖堂内は、一転して闇に包まれる。


「う……うわっ!? なんだ!? 今度は急に暗くなったぞ!?」


「こ、こんな不吉な降臨、初めてだっ!?」


 真っ暗闇の中に、うすぼんやりと光る水晶板。

 そこには砂嵐のようなノイズが走っていた。


 不意に、


 ……ずろりっ。


 とゾンビのような動きで、這い出る黒い影が。


 それは、顔すら見えないほどに長い黒髪で覆われた、不気味な女だった。

 ツギハギだらけの白装束は、もはや神というよりも、亡者と呼ぶに相応しい。


 聖堂内は一気にパニックに陥る。


「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!? なにアレ、なにアレぇぇぇぇぇーーーー!?!?」


 水晶板の文字には、その亡者の名があった。


 『貧乏神ダイコンテン』と……!


「びっ……びんぼう神ぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 そう叫んだのは俺だったのか、それともオヤジだったのか……。

 はたまたその場にいる全員だったかもしれない。

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