第31話
翌日の昼過ぎ、僕らはG高校に潜り込んだ。G高校は電停から急な勾配の先にあって、閑散とした住宅街の一部を占有している。地方の高校と思えないほど校庭は狭く、体育館も武道館と二階建てになって限られた土地をなるべく活用しようという意識が見られる。また校舎が多く三学年分にしては教室が余るように思う。秋さん曰く、こんな土地に中高一貫校を作ったせいでこんな窮屈な構築になったという。
裏手には山があり墓地がある。山へは高校の敷地内から長い石階段がある。茂った木々の狭間を血脈のように石階段はくねり上がる。ラケットを引っ提げた男子がそこを軽い足取りで行き来していた。
墓地は校舎に隣接するかたちで柵に囲われている。ただ墓地といってもそれぞれの墓石の間隔が随分開いている。墓によっては献花がいくつも供えられたりする。偉人か何かの墓なのかもしれない。献花を捧げる婦人もいれば墓地の端っこで叫び声を挙げながら木刀で古杖を叩く爺さんもいる。今度ここにきたらあの爺さんと話しましょう、と秋さんは興奮して言っていた。
「やっぱり、ここは僕の高校と違うね」
「そうね。私の高校とも違う」
「何となく高校っていうのはどこも一緒だと思ってたんだけど」
「ここが特別変わってる可能性もあるわ」
僕らは校舎を練り歩きながらそう語り合った。十九歳といっても高校三年生とひとつしか変わらないのだからジャージ姿で歩いたらいよいよ何も言われない。教師が来たら立ち止まりきっちりと挨拶すればそれでいい。周りからは違和感ない男女だけれど僕らからは違和感ばかりの場所、それが奇妙な感覚をもたらした。
三階の教室から校庭を眺めた。皇帝にはいくつもの人の塊ができて、その集団ごとに体格や格好、髪型が違う。高校生が仕分けられその結果がこの校庭のような気がした。
「ねえ、あれ、陸上部ね」
秋さんは、そのなかの特に脚が長く男女入り混じった短パンの人たちを指した。彼らはレーンの直線部分を前傾姿勢で行ったり来たりしている。それでもスピードは僕から見ても遅い。
「まだアップの段階ね」と秋さんは言った。
「詳しいんだね」
「高校のとき陸上部だったの」
知ってる、と僕はよっぽど言いたかった。和明が陸上部だったから。でもそれを言ってしまえばすべてがおじゃんになると思った。僕らは互いに知っていて、けれども互いに知りすぎていないからこの旅ができている、そんな気がする。
空の快晴の具合がちくりと胸を刺してくる。空が青く、日が照って、陸上部はアップをこなし、きつい練習を終え夕暮れ時に帰るだろう。そして秋さんは和明と各々の自転車を押しながら、寄り道したりするのだろう。その光景が少し、心に痛い。
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