Colorful—カラフル—

五味千里

第1話

 温い白湯のような一年だった。心地の良い劣等と、浸れるほどの優越ばかりが雑然と漂っていた。浪人。ただそのレッテルを剥がすためだけに、有象無象が凌ぎを削る。仄暗いけれど、ちらちらとした蛍のような輝きがそこにはあった。

 彼女も、その蛍のうちの一人だったと思う。人と違った色を微かに灯らせていた。鮮烈なまでの紅、身が凍るほど青、柑橘の香りを纏ったようなオレンジと、黒より暗いグレー。そういう鮮やかなカラフルが、彼女の色だった。僕はその色にどうしようもなく惹かれた。


 あの日、僕は彼女に訊いた。何て訊いたのかは覚えていないのだけれど、その返事だけは覚えている。


「私、大学に入ったら死ぬの」


 陽射しを浴びたマロンのような髪色が良く映えて、僕は見惚れた。美しいとはまた別の、純粋な何かを垣間見た。彼女といたい、心の底からそう思った。いつも着ていた水色のパーカーが、宝石のような玉虫色に感じた。


 結局、彼女は死んだ。街頭照らす暗闇の、僅かに浮遊するかすみのひとつとなった。目を凝らさねばわからぬほどの、細かな砂塵のひとつとなった。

 暗い部屋で悶々と考えていると、彼女のことで頭が覆われる。冷気に晒された吐息も、物言わぬコンクリートの内壁も、彼女が僕に見せた鮮やかなキャンパスの一色に思える。

 僕は彼女に魅せられた。今でも、彼女という存在が僕の中で溶け合って、僕の血肉となっている。嬉しいけれど、やるせない。

 だから僕は、この感情そのままに、彼女のことを綴ろうと思う。書き殴って、書き殴って、彼女をここに残すことこそが、僕の残す唯一の使命だと信じている。

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