クリスマスデートにいざ出陣!


「アサヒー、トワくんが来たわよー!」



 そろそろ出ようとバッグを持ったところで母さんに声をかけられ、俺は慌てて部屋を飛び出した。


 転がる勢いで階段を下りてみれば、確かに玄関には北大路きたおおじがいる。



「どうしたんだよ? コンビニで待ち合わせてたよな? 何で家に来たんだ?」


「え、うん、まあ……」



 北大路が歯切れの悪い返事をする。私服も大分見慣れたけど、今日は髪までセットしてるからいつもに増して美青年度が高い。


 すげーな……こいつのイケメンレベルは無限大かよ。どこまで上げられるのか、逆に見てみたいわ。


 時計を確認してみるも、遅刻したってわけじゃない。まあちょっと予定より早くなったけど、出かけるか!


 母さんに晩ごはんはいらないと伝えて、俺は北大路と一緒に家を出た。



 で、どうして待ち合わせしてたのに、わざわざ家に来たのかと北大路に聞いてみたらば。



「楽しみすぎて、居ても立っても居られなくなって……」



 だとよ。何だこいつ、イケメンと可愛いのサラブレッドかよ。



 本日は、十二月二十四日。クリスマスイブというやつだ。


 初めての恋人と初めて過ごすクリスマスデート……ってことで、北大路は浮かれているらしい。もちろん、俺もウキウキしているよ! 今日は電車に乗って遠出して、普段行かないようなお店に食べに行く予定だからな!


 ちょっとずついろんなものをたくさん食べるっていうの、やってみたかったんだ。デカ盛りでガッツリもいいけど、未知の美味しいものに出会いたいじゃん?


 そんなわけで俺と北大路は地元を離れて、ちょっと都会の繁華街へと繰り出した。



 いやー、さすがはクリスマス。どこもかしこも人でいっぱい! 予め調べてはおいたんだけど、想像していた以上にクリスマス限定メニューをやってる店が多くて、目移りしまくりだった。


 北大路もとても楽しそうだった。鼻の頭にチョコクリームがくっついた俺を撮影して笑ったり、サンタクロースのはめ込み看板に入った俺を見て笑ったり、プリクラでキラキラのデカ目になった俺をどんな変顔より面白いと言って笑ったり、笑いすぎて腹筋ぶっ壊れるんじゃないかってくらい笑ってた。


 しかしやはり北大路の王子様フェイスは目を引くみたいで、俺と一緒にいるのに逆ナンしてくる女の子とか、ストリートスナップの撮影をしていたメンズファッション誌の人とか、さらにはモデルのスカウトとか芸能事務所のマネージャーさんだとか、様々な人達に声をかけられた。その時ばかりは北大路も子どもみたいに無邪気な笑顔を引っ込めて、無の表情で冷ややかに対応していた。


 うーん、北大路がモデルやると様になるに決まってるし、俺も見てみたいと思ったんだけどなぁ。名刺すら受け取らずにスルーしたのは、ちょっともったいなかった気がする。



「モデルになんかならないよ。俺、将来の夢はもう決めてるから」



 俺がモデルの話をすると、北大路はさらっと答えて手にしていたクレープを齧った。


 その整った横顔を、明滅する光が彩る。地元に帰ろうとしたら、駅近くの公園でイルミネーションフェスタをやっていると聞いて、せっかくだからとやって来たのである。



「え、そうなの? でもまあ、モデルってそんなに長く働けなさそうだもんな……収入もバラつきありそうだし」


「それね、そこ大事。モデルになったとしてもすぐに干されて、みなみくんのヒモに落ち着く未来しか見えない」


「勝手に落ち着いてんじゃねーよ。働かざる者食うべからずだろーが!」



 そう言って俺は、べしんと奴の肩に張り手を食らわせた。



「いったいなー、突き出し押し出し寄り切りは禁止ね? 養ってもらえても、鉄砲柱代わりにされるのは勘弁してほしいな」


「このやろー! また力士扱いしやがって! 稽古つけてやろうか、ああん!?」


「遠慮しまーす! ほら、とっととイルミネーション見に行くでごわすよ。この後はみなみあさひ部屋のちゃんこじゃなくて、レストラン北大路でディナー食べる予定なんだからさ」



 ケラケラ笑いながら、北大路は食べ終わったクレープの包み紙を捨てて俺の手を引いた。



 それから俺達は二人で、公園内のイルミネーションを見て回った。光のトンネルとか、デコレーションツリーとか、どこもかしこもキラキラしててロマンチックだった……んだけど、カップル達があちこちでイチャついてて、それを見ないようにするのが大変だったよ。ま、まぁ、クリスマスだもんな。


 後で花火もやるとアナウンスがあったけれど、俺達はそれを見ずに帰った。二人揃ってお腹が空いたからだ。

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