口は悪くても優しい親友に、心から感謝!
週が明けると、クラスメイト達は早速返ってきた期末テストの結果で一喜一憂したり、もうすぐやって来る冬休みの話で盛り上がったりと、皆それぞれ忙しそうだった。
俺? 初めて赤点取って、すげー落ち込んだよ……薄々はわかってたけど、やっぱり数字で見るとくるものがあるよなぁ。
だけど高野は、メンタルが強いだけじゃない。
「なー
昼食の時にいきなりそんなことを言われたもんだから、俺は口にしていた栄養補助食品のゼリーを危うく吐き出しかけた。
「な、何で……そんなんいねーし」
噎せながら否定するも、高野は納得してくれなかった。
「だってさー、先週から昼飯そんなショボいのばっかりじゃん。急に痩せたし、おまけに元気ないし。
さすがは小学校からの親友、俺の変化にちゃんと気付いてくれていたらしい。おまけに坂井と上尾にも心配かけてたのか……何だか申し訳ない。
「こういうこと言ったら怒るかもだけどさ……そんなに無理しなきゃ付き合えない相手なんて、やめた方がいいと思う」
俺はゼリーの飲み口をくわえたまま、軽く息を飲んだ。高野が、これまで見たことないくらい真剣な顔をしていたからだ。
「俺、お前が嬉しそうに飯食う顔、嫌いじゃねーよ。むしろ、そこがお前のいいとこじゃん。俺、デブデブってよくいじるけどさ、バカにしてんじゃねーんだよ。お前の個性だと思うからいじってんだよ」
「個性いじりぃ? ただのデブいじめだと思ってたんですけどぉー?」
ちょっと気恥ずかしくなってきたので、俺はツッコミを入れて空気を紛らわせようとした。だけど高野は笑わず、小さく溜息をついて続けた。
「俺は人の欠点を笑いものにするような鬼畜じゃねーわ。それにお前だって、デブだってことをコンプに思ってなかったろ? そこを理解してのいじりじゃん。俺、お前が傷付いてることがわかんねーほど鈍くねーぞ。何年ダチやってると思ってんだよ、バーカ」
高野の言葉に、俺ははっとした。
そうだ、高野の言う通りだ。多少悩んだことはあったけど、俺は自分がデブだからダメなんだなんて考えたことはなかった。デブだけど、デブなりの幸せがあって、デブでも胸を張って笑っていられた。
なのにどうして俺は、外見さえ良くなれば自信がつくなんて思ったんだろう?
きっと今のままじゃ、十キロ痩せたって二十キロ痩せたって自信なんて持てない。まず、自信って何なんだ? 俺は何に対して自信をつけたかったんだ? 確か、ミツキちゃんの隣に並んでも恥ずかしくない男になりたいっていうのがきっかけで……。
高野の背の向こうに、そっと目を向ける。
窓際の一番後ろの席。そこでは
ここに来て良かったと北大路に思ってもらいたい――――視線の先には、そう願った光景が叶っていた。
「高野……サンキューな」
改めて親友を見つめ、俺はまずお礼を告げた。
「俺、ダイエットやめるわ。お前のおかげで、目が覚めた。背伸びしたって、届かないもんは届かないんだよな。俺は俺のまんまでいいや」
にかっと笑ってみせると、高野もやっといつもの調子でへらっと笑い返してくれた。そしてマナちゃんの作ってくれたお弁当から箸でタコさんウインナーを摘み出し、俺に向ける。
「よーし、じゃデブに戻る決意をした勇者アサヒには、この宝をくれてやろう」
「まじで!? ユウ、愛してるー!」
「おいてめぇ、ふざけんな! 俺をユウって呼んでいいのはマナちゃんだけだ!」
「えぇー? ユウ、マナちゃんよりアサヒのことが好きでしょ? 巨乳だしぃ? ねえ、あーんしてぇ? アサヒにユウのお宝、食べさせてぇ〜?」
「このデブ、マジでしばくぞ! お前の胸は乳じゃなくて、ただの贅肉だろーが! 俺のお宝を食わせろとか紛らわしい言い方すんな! お前なんかと浮気してるなんて誤解されたら、生きてけねーよ!」
悪ノリして裏声で迫ったのが良くなかったらしく、怒った高野はタコさんウインナーのお宝を自分で食べてしまった。
タコさんウインナーはくれなかったけれど、高野と友達で良かったと思った。
高野はアホだしバカだし、お調子者のくせに空気は読めないし、何事にもルーズでマイペースすぎてついていけない時もあるし、本当にどうしようもない奴だ。それでも、俺を友達として大事にしてくれる。俺のことを理解しようとしてくれる。俺の味方でいてくれる。俺が間違ったことをすれば、ちゃんと指摘してくれる。
こんな良き友に恵まれて、俺は本当に幸せだと心から感謝した。
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