王子様は注目を浴びるのがとても苦手!


「…………これって、一人一つなのかな?」



 頭を抱えて苦悩していると、北大路きたおおじがやや上半身を屈めて、店内にいたリコさんに初めて視線と声を向けた。


 するとリコさんはしばし呆然とし――たかと思ったら、すぐに猛然と飛び出してきて、坂井さかいに掴み掛かった。



「ちょっと、すごいイケメンじゃない!? まさかあんたの知り合いじゃないでしょうね!?」


「あ、ああ……俺らの連れだけど? そこのマシュマロボーイな|南と仲良くしてっから、一緒に誘ったんだ。ってリコ、お前、何で顔赤いの?」


「赤くもなるわよ! こんなイケメンがいきなり現れたら、そりゃ舞い上がるわよ! ああー、眼福じゃー! 眼福じゃ眼福じゃーー!!」



 リコさんも、イケメンには弱いらしい。北大路に視線を固定したまま、坂井を掴んだ状態で、歓声を上げてはピョンピョン跳ねている。リコさんはボーイッシュな雰囲気だし坂井という幼馴染から昇格した彼氏もいるし、俺達にもサバサバ対応だったから、あまり男子には興味ないタイプだと思ってたよ……。


 でも、ここまでストレートだと逆に清々しい気がする。ウチのクラスの女子もひっそりキャーキャーしてたみたいけど、本人の前ではおとなしくて声もかけられないって状態だったもんな。


 そっと隣を見ると、北大路は完全に無の表情になっていた。


 前は何を考えているのかさっぱりだったけれど、今ならわかる。こいつ、こんなふうに注目を浴びるのがすごく嫌なんだ。だからこういう時は、空気になったみたいに自分で自分の存在を消して、現実逃避するんだよな。ケーキバイキングに行った時も、デカ盛りスイーツの店に行った時も、そういう女の子が多い場所ではいつもこんな感じだった。


 北大路は内向的すぎる性格ばかりじゃなく、注目を集める自分の顔も嫌ってる。ただでさえ人付き合いがまるでダメだったのに、父親の件があって、特に自分に近付いてくる女性が苦手になったらしい。そのせいで告白してくる女子には、必要以上に冷たく対応しちゃうんだそうな。



「北大路、何を聞こうとしたんだー? もしかしてお前、俺が一つじゃ足りないだろうとか思って、倍の量にしてもらおうとしたんじゃないだろうなー?」



 なので俺は和ませるべく、肘で北大路の腹をうりうりと突っついて茶化した。



「ちょっと、やめてよー。南くん、ぽよぽよだけど肘だけは固いんだからさー……でもまあ、二倍にできないかって聞こうとしたのは、間違ってないかな」



 たちまち北大路は笑顔になって、軽口を叩き返してきた。


 肘だけとは何だ、失礼な。他にも硬いところあるわ。膝とか踵とかも固いわ。それに頭突きなら負けなしの石頭なんだぞ、このやろー!



「え、二倍にすんの?」

「マジか、南! お前、すげーな!」



 しかし北大路の冗談に、高野たかの上尾かみおが乗ってきたもんだからたまらない。


 おいおい、そもそも俺はやるなんてまだ一言も言ってねーぞ!?



「いやいやいや! それはこいつが勝手に」

「二倍の量を、二人で食べるっていうのはできる?」



 俺の言葉を遮り、北大路はリコさんに尋ねた。二人で……って、ええ!?



「お、おい、北大路? まさかお前も挑戦しようってのか?」



 俺が驚いて固まっている間に、坂井が恐る恐るといった調子で問い返す。



「うん、南くんと二人でもいいならやってみようかなって。坂井くんはやらないんだよね? 高野くんと上尾くんは? 一緒にやる?」



 北大路は坂井にしれっと答えて、高野と上尾にまで声をかけた。もちろん二人共、揃ってぶんぶんと首を横に振る。



「ええっと……二人で二人前っていうのはいいけど、その、大丈夫、なの?」



 リコさんが恐る恐る北大路に再確認する。



「大丈夫だよ。俺、そこそこ食べるから。ね、南くん?」



 そこそこどころじゃないとツッコミたかったし、他にも言いたいことは山ほどある。しかしぽむぽむと肩を叩かれ、キラキラの王子様スマイルを向けられては、もう頷くしかできなかった。

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