困った時のデブ頼みは勘弁願いたい!


 坂井さかいの彼女のクラスは、校舎に近い場所でお好み焼きのお店をやっているという。


 豚玉かイカ玉か、トッピングはどんな種類があるんだろう、焼きそばもあるといいなと期待に胸を膨らませて行ってみたらば。



「ショウ! 来てくれたんだね!」



 お店の中から、ショートカットの活発そうな女の子がこちらに笑顔を向ける。



「おう、来てやったぞ。リコが料理するところなんて、滅多に見られねーからな。あ、あの見るからにガサツ丸出しなのが俺の彼女のリコ。他に貰い手なさそうだから、俺が付き合ってやってんだ」



 すると坂井はニヤニヤと意地悪く笑いながら、彼女を紹介してくれた。



「あー皆にも紹介するねぇ? これ、彼氏のショウ。見たまんまバカでアホで気配りも気遣いもできないダメ男だから、仕方なくあたしが付き合ってあげてるの。よろしくしなくていいからね。こいつのお好み焼きだけ、肉入れなくていいよ。野菜も抜きで」


「ちょおま、ふざけんな! 俺だって一応は客だぞ!? いくら何でもそれはねーだろ!」


「情けでソースはかけてあげるわ。一応お客様だそうですからねー?」



 だがしかし、リコさんも負けていない。むしろ坂井ショウ、倍返しを食らっている!


 坂井と彼女は家が隣同士の幼馴染で、今年になってやっと付き合い始めたと聞いていたけれど、既に熟年夫婦みたいだ。母さんと父さんを見ているような安心感がある。



「ねえみなみくん、これ」



 二人のやり取りにほっこりしていると、北大路きたおおじが俺のマフラーをちょいちょいと引っ張った。


 促された方向に目をやると、店先にぶら下げられたメニューに『巨大特大お好み焼き 三十分以内に完食できたら無料!』という文字が大きく描かれている。



「……良かったら、挑戦してみませんか?」



 声をかけられて振り向くと、制服姿の女の子が俺の背後に立っていた。


 その可愛さに、俺は息を飲んだ。


 黒髪のさらさらストレートロングに垂れ目がちの大きな瞳……まさに清楚なお嬢様といった雰囲気の美少女! こんな美少女がこの世に存在していたなんて!


 高野たかの上尾かみおも彼女に気付いたようで、いそいそとこちらに寄ってきた。



「巨大特大って、どんくらいの量? 何人くらい挑戦したのかな? 食べ切った人はいる? あ、俺、高野ユウセイ。よろしくね!」


「たくさん注文する人がいたら、材料が足りなくなりそうだけど大丈夫? 俺は上尾ヨシキ。可愛い可愛い年下の彼女がいる高野と違ってフリーだよ。連絡先交換しよ?」


「えっと、私は今休憩から帰ってきたところなんですけれど、その間に誰も成功していないなら、まだ完食できた人はいないと思います。材料のことなら、問題ありません。先生が注文の量を間違っちゃったせいで、余りすぎて大変なことになってて……あの、連絡先はちょっと、ごめんなさい!」



 馴れ馴れしさ炸裂の二人に戸惑った顔をしつつも、彼女は尋ねられたことに一つ一つきちんと答えた。すごく一生懸命な感じが、すごくすごく可愛い。ますますポイント高いぞ!



「ミツキ、いちいち相手にしなくていいよ。そいつら、このバカの連れだから」



 さらに高野達が押そうとした空気を察したようで、リコさんが鋭く牽制の言葉を放つ。


 ったく、高野と上尾のせいで俺までバカの同類にされちゃったじゃないか。いや、元をただせば、バカ呼ばわりされてる坂井のせいか。



「まあミツキが言った通り、この催しは先生の発注ミスをどうにかしようとして無理矢理捻り出した、苦肉の策ってわけ。ショウ、せっかくだからチャレンジしてみれば?」



 リコさんが坂井を見て、挑発的に笑う。坂井は慌てて首を横に振り、それから俺に顔を向けた。



「俺はやんねーけど、ここに適任がいるぜ。南、やるだろ? 腹減ったっつってたもんな?」



 おいー!?

 まさかの責任転嫁キタコレ!



「いいじゃん、南! タダで食い放題だぞ!」


「南、やれやれ! デブの意地とやらを見せてくれよ!」



 さらに上尾、続いて高野までもが囃し立てる始末。こういう時って、必ずデブに矛先が向くんだよなぁぁぁ!


 どれだけ盛大にミスったかまではわからないけど、こんな手に出るくらいなんだから大変なことになってるんだろう。ちなみに食べ切れなかった場合は、五千円の支払いになるという。


 これは非常に悩ましい。失敗したら、手持ちのお金が全部なくなる。そうなれば、次のお小遣いをもらえるまで買い食いを我慢しなきゃならなくなるぞ……耐えられるのか、俺!?

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