第182話 直談判

上野で旧武田軍と北条軍が決戦に向かおうとする時、北条綱成は北条氏政に会っていた。

「氏政、河越城に籠もっても戦には勝てない、作戦を今一度見直せ。」

「叔父上!北条の当主は私です、一度命令を出した以上、撤回などありえない!」

「何を言うか!戦は遊びではないのだ!

勝てぬ作戦なら撤回するのが当然、当主の座にアグラをかいて滅びるつもりか!」

「叔父上といえど言葉をつつしむべきだ、北条家当主に歯向かうつもりか!」

「歯向かうどうとかでは無い、よく聞け、河越城に籠ったら領地はどうなる?

たとえ城が一つあっても領地を失えば将も民もついて来ぬぞ。」

「何を言うのですか、北条家は長尾相手に小田原城で耐え凌いだではないですか!」

「あの時は伊豆の領地があったからこそだ、それに相手は越後の長尾、領地から遠く、武田もいたからこそ長く我等の相手を出来ぬ事情もあったから耐える事が出来たが土御門は違う、背後に敵はおらぬ上に相模も領有化している、ここで籠城すれば確実に領土を削られ我等は敗北するだけだぞ。」

「ならばこそ、河越城にてヒロユキを引き付け、一戦にてヒロユキを討つのです!

大将の首を取れば土御門家は崩壊するは必定ではないですか!」

北条氏政と北条綱成の話は噛み合う事が無い、何度言われても氏政は意見を変えることはなかった。


「申し上げます!上野にて土御門軍が侵攻してきました、現在氏繁様が軍を率いて迎撃に出ましたが綱成様のご帰還を願っております。」

「遂に来たか、しかし、この時を合わせたかのような進軍・・・

どうやら俺が不在というのも気付かれたのか?」

綱成の背筋に冷や汗が流れる、箕輪城から河越城まで北条勢力圏内を密かに移動した事が土御門にバレている、こんな状況で戦をすればどんな戦術も意味をなさない。


「氏政、土御門に降る事も考えるべきかもしれん。」

「叔父上、血迷ったか!!」

「いや、この戦、勝てるとは思えん、ならばこそ無益に兵を失うよりは・・・」

「叔父上!!誰か叔父上を取り押さえよ!どうやら錯乱なされておる、暫し療養をしてもらおう!」

氏政は近習に命じて綱成を捕縛する。


「氏政・・・

よく考えるのだ、お前の行動で北条家の命運が決まるのだぞ。」

「うるさい!錯乱なされているのだ、叔父上を軟禁しろ、決して目を離すな!誰も近づけるな!」

氏政は綱成を軟禁して他の家臣達から隔離する、武勇に名高い綱成が反戦を唱えた事を知られると士気が落ちると考えたのだ。


だがそれは綱成の武勇により河越夜戦の再来を狙っていた自身の策が実行出来なくなることに氏政自身気付いていなかったのだった。

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