第168話 退却
「勝家殿、お話がございます。」
「ヒロユキここには殿如何になされた?」
慌ててやってきた俺に何か起きたのかと警戒している様子が見受けられる。
「まずは報告として朝倉が出陣してきました、その数一万五千。」
「来たか、だかヒロユキ殿と合わせて一万四千程になる、充分に戦える数だと見受けるが、何故慌てている?」
「仮に今、浅井が裏切ればどうなるでしょう?」
「浅井が裏切る?それは無かろう、長政殿の殿への尊敬の念はかなりのもの、裏切る筈が無い。」
「たしかに長政殿は信長殿への尊敬の念を持っていましょう。
ですが、長年朝倉と同盟をしていた事も事実、もし今、先代の久政が実権を握ればどうなるか考えください。」
「久政か・・・たしかに織田との同盟に反対していたとは聞くが。」
勝家は少し思考する、ヒロユキが言うとおり、久政が実権を握ったと仮定すれば裏切る可能性はゼロではなくなる。
「勝家殿、今、私の手の者が調べておりますが、もし、裏切りがあった場合、ここは死地です。
いつでも退却出来る備えをしておいてください。」
「木ノ芽峠を捨てるというのか!」
「致し方ないと思います。」
「しかし、殿の御命令があるゆえ。」
「信長殿への申開きは私がします、それにこの程度の拠点ならいつでも取り返せます。
ですが、仮に裏切られた場合、失うのは命ですよ。」
「わかった、ここを取ったのはヒロユキ殿だ、ヒロユキ殿に従おう、直ちに移動出来るように準備致す。」
俺は勝家の説得に成功し、退却準備にはいる。
いつでも動ける態勢のまま、服部正成の連絡を待つ・・・・
「殿、浅井の軍が出陣いたしました、指揮を取るのは浅井久政にございます。」
「正成、よく調べてくれた、皆、これより撤退を始める、勝家殿は先陣として琵琶湖の西岸を抜けてください、殿は我等が行いましょう。」
「ヒロユキ殿、貴殿は援軍の将にござる、貴殿に殿を任せるなど織田の恥となりましょう。
何卒、ここはこの勝家にお任せあれ。」
俺は勝家の瞳から武士の意地を感じる。
「・・・わかりました、勝家殿、傷病兵をお預けください。私達が連れて帰りますので。」
「忝ない、それならばこの勝家、心置きなく戦に挑めましょう。」
「勝家殿、武運をお祈り致す。」
「ヒロユキ殿こそ、ご武運を、そして、殿のお力になってくだされ。」
俺は勝家と別れを済ませ、即座に帰路に着く。
道中、金ヶ崎城を守っている前田利家に事情を伝える。
「前田殿、浅井が裏切りました、これより全軍撤退致す、勝家殿が殿を務めるうちに引き上げましょう。」
「親父殿が殿ですと!こうしてはいられん、某も親父殿と共に殿仕る。」
前田利家にとって柴田勝家は自身が信長の勘気に触れ浪人をしていたときに取りなしてくれた大恩があり、それ以来親父と呼び慕っていた。
今、勝家の危機と知り退却するわけには行かないのだ。
「前田殿、貴殿には金ヶ崎城にいる兵の退却を指揮してもらわなければなりません。」
「うるさい!親父殿を残して退却などできるか!」
「前田殿、ならば兵は如何にするつもりか!
金ヶ崎にいる兵には傷病兵が多いのですよ、前田殿は見殺しになさるつもりか!」
「くっ!」
利家は唇を噛む、預かっている兵を見殺しには出来ない・・・
「利益、お前に傷病兵を任せる、土御門殿と共に傷病兵を連れて退却致せ。」
利益は甥の前田利益に兵を預けようとするが・・・
「お断り致す、叔父上がやればいいでしょう、私は勝家殿の所に行ってきます。」
利益は、武人でもあり、天邪鬼な所があった、利家の言うことを聞いて大人しく退却など従うつもりなどない、それならば殿で華々しく活躍するほうが楽しそうだ。
利益は断った勢いで仲間を集めて一目散に勝家の元に駆けていく。
「としますーーー!!」
利家の叫び声が木霊するのだった。
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