第166話 木ノ芽峠陥落

「さあ、今日中に木ノ芽峠を制圧するぞ。」

俺は夜になると軍を動かす。

主力を門に向かわせ戦が始まる、その最中服部正成に別働隊を指揮させ城の反対側の崖下へと向かわせる、そこは到底登れるような崖では無いのだが・・・

正成が到着したと同時に城の柵から縄が幾つも降ろされる。

俺は今回猿を使い、正面の門に陽動をかけ、反対側から攻略しようと猿を城の裏手に待機させ、人がいなくなったところで縄を降ろしてもらっていた。


「さすが殿、皆行くぞ。」

正成を筆頭に身軽な者を中心に城内に侵入する。

ある程度登りきったところで正成は行動を開始する。


城内の各所に火を放ち、朝倉軍に襲いかかる。

「我等は土御門軍なり、既に勝敗は決したぞ!」


城内に土御門軍がいきなり現れた事に朝倉軍は一気に混乱する。

そのうえ城に火が回るのを見て兵士の戦意も喪失していく。

「降るならさっさと降れ!ヒロユキ様は寛大な御方だ、降伏するものを無下には致さぬ!さあ武器を捨てよ!」

正成の降伏勧告に兵士の多くが武器を地面に落としていく。


「不甲斐ない・・・」

城内降っていく兵を見た朝倉景隆は城が落ちた事を実感していた、まさか自分が守る城が一日もたたずに落城するとは信じられなかった。

「景隆様、早くお逃げを!まだ、我等の策は生きておりますれば、一度態勢を整えましょうぞ。」

山崎吉家に言われ、兵士が降っていく中僅かな手勢とともに抜け道から離脱していく。


「ヒロユキ様、追いますか?」

正成と合流した俺は城の上から落ちていく城主朝倉景隆とその一行が見えた。

「そうだね、追手を差し向けて、ただし深追いはしないように。」

「某にお任せあれ!」

俺の指示に榊原康政が元気よく追いかけていく。


「康政、無理はするなよ!」

「わかりました!」

まだ若い康政は城攻めの疲れも見せず元気よく追いかけていく。


「ここは通すわけにはいかん!」

康政が追いかける中、山崎吉家は殿を努めていた。

康政が到着したときには既に満身創痍ではあるものの、目にはチカラがあり、いまだ戦意は衰えていなかった。


「名を伺おう。」

「朝倉家重臣、山崎吉家である!」

「音に聞こえた山崎吉家殿か!

雑兵に討たれるのは忍びない、土御門家臣、榊原康政がお相手仕る。」

康政は槍を持ち、吉家と対峙する。

「忝ない、さあ康政殿参られよ、この吉家、最期の仕事にござる。」

吉家は康政の心意気に感謝していた。

意こそ衰えていないものの、既にカラダは限界に来ており、康政は武士の情けと一騎討ちに挑むのであった。


康政の気持ちに応えるように吉家も最期のチカラを振り絞り槍を構える、その姿は歴戦の勇士を物語る堂々としたものだった。


「吉家殿、お見事にござる、この康政に一手ご教授願おう!」

「さあ参られよ、この吉家の首を手柄になされ。」

「いざ!」

康政が槍を突くと決着は簡単につく、既に吉家には戦うチカラは残されていなかった、康政の槍を受け入れその生涯を終える。

その表情は戦い抜いた勇士のものであった。


「武士とはかくありたい者だ。

追撃はここまでとする。

吉家殿を丁重に殿の元にお連れせよ。」

康政は身をとしてまで殿を努めた吉家の心意気と深追いを避ける為の両方の理由から追撃を終え、一度城の制圧をしているヒロユキの元に戻るのだった。

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