第132話仮想敵国

「景綱殿、上杉家中は納得しているのですか?」

俺は宴の最中、景綱に聞いてみる事にした。


「御安心を、ほとんどの者が納得しております。皆、ヒロユキ殿の強さは知っていますからね。

先の戦で僅かな兵で駆けつけ、我等の対等に渡り合った者を軽く感じたりはしません。」

「あの戦は俺も辛かったな、信繁様が攻勢に出なかったら負けていただろう。」

「御謙遜を、主力を遠江に残しかき集めた兵で我等と互角にやり合うのですからな。

万全の備えのヒロユキ殿とはやりあいたく無いものです。」

景綱と飲みながら色々と話し合う。


同盟がなったあと、如何にするか、上杉としては関東に出陣したいようだが、国内の安定が悪く動けないと言っていた、

俺がそれを言って良いのかと聞くと、

景綱は知っておられるのでしょ?

と軽く此方の諜報能力を把握しているような発言をする。


確かに情報は入って来ていたが、それを把握しているとは、上杉の忍び、軒猿の力も侮れぬと感じた。


そして、交易すべき物などの話し合いも行う中、澄み酒の輸出は強く望まれた。

どうやら景虎が気に入っているようで、多めの輸出を頼んできた。


俺は手土産に澄み酒を十樽つけることにした。


景綱が帰ったあと、今後の戦略について話し合う、

現状西の織田、北の上杉と同盟になる、つまり次に攻めるのは東の北条だ。

そして、此処に来ても未だに使者もなく、土御門家の存在を認めているかも不明であった。


その為、家中での仮想の敵国は北条となった。

侵攻経路、必要兵数、物資、だが一番の難点は小田原城であった・・・


北条家

北条氏康は身体を壊しており、政務から離れていた。

その為、現在北条家を動かしているのは北条氏政だった。


氏政は以前、ヒロユキと揉めた事もあり、単純に嫌っていた。

しかし、北条家としてどうするかは別の話だ。

北条氏照は答えを出さない兄、氏政に問いかける。


「氏政兄上、土御門家は如何にいたしますか?」

「ワシが相手にする奴ではない。放置すれば良かろう。」

「よくありません。彼等は武田を吸収して大きくなりました。

同盟を結ぶなら早めにするべきかと。」


「同盟?奴等とか?何故せぬばならん、まあ、当主自ら頭を下げて、先日の無礼を詫びた上で土下座して頼むなら考えてやらんでもないが。」


「そんなこと有るわけないでしょう!」

「ならば、同盟する必要はないな。」

「兄上、土御門が攻めて来れば如何になさるつもりか!」

「奴等は来れまい、上杉と国境を接したのだぞ、これからは上杉の相手をして貰おう。」

「そんなに上手くいきますか?」

「土御門には武田の旧家臣も多い、上杉への怨みは消せまい。奴等が消耗した所を叩く。

ワシを見下したヒロユキに目にものを見せてくれるわ!」

氏政は私情も挟み、ヒロユキをうらんでいた。


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