第125話 敗戦の後

馬場信春は武田信廉を非難していた。

「信廉殿、何故援軍を送らなかったのだ!」


「仕方なかろう、甲斐の備えを外すわけにもいくまい。」

「何故だ、甲斐の何処に敵がいる!」

「駿河におるではないか、武田家を裏切った者が。」

「ヒロユキ殿なら攻めてこぬだろ!それよりは上杉に備えるべきであった筈だ!」


「御主は仲が良いからそういうのであろう。だが、あやつはどさくさに紛れて駿河、遠江、三河の三つを奪い独立したではないか、今警戒すべきはヒロユキであるぞ。」


「その結果、北信濃を失えば意味が無い!」

「ならば取り返せばよいでは無いか、信春に命じる、南信濃の兵を率いて上杉を討て。」


「な、なんだと、ならば甲斐から兵は?」

「出すわけ無かろう、甲斐を守るが最優先である。」

「話にならんわ!」

信春は甲斐を後にし、南信濃の高遠城に向かう。


高遠城には北信濃から武将、飯富昌景、高坂昌信とその兵二千が敗走して滞在していた。

「信春殿、どうでござったか?」

高遠城、城主秋山虎繁は甲斐に行っていた馬場信春に状況を聞く。


「どうもこうもないわ、信廉のやつ南信濃の兵だけで北信濃の奪還を命じおった。」

「なんと・・・」

虎繁も考えてみるがどうしても兵が足りなかった。


「不可能でございますな。」

「うむ、八千の兵は集まるが、上杉の二万相手にするには足りん。

そもそも、攻める前に守りを固めねばならぬわ。」

二人にタメ息が出る。


「申し訳ない、我等が北信濃で防げれば・・・」

高坂昌信、飯富昌景は頭を下げる。

「いや、貴殿達のせいではない、上杉の総攻撃なのだ、援軍が無ければ耐えれぬであろう。

なのに信廉ときたら!」

馬場信春は怒り心頭であった。

南信濃では援軍の準備は出来ていたのだ、そして、信廉に出陣許可、そして、ヒロユキに援軍を頼むよう願ったが、許可が出ず、見殺しの状態となった。


高坂昌信、飯富昌景が生きて逃れて来れたのが幸いだった。


「そういえば、真田の者はどうした?幸隆殿や信綱殿の姿が見えぬが?」

馬場信春は気になる事を皆に聞く、

真田幸隆も此処まで逃げてきた事は確認出来ていた、しかし、それ以後姿を見ていなかった。


「幸隆殿達、真田の者は三河に行きました。

どうやら武田を見限ったようにございます。」

高坂昌信は悔しそうに言う、


「そうか・・・武田では真田領を取り返せぬし、領地も無いからな、ヒロユキ殿の所の方が身をたてれるか。」

「信春殿、その話は如何なものかと!」

「昌信、今の武田はどう思う?」


「それは・・・」

「信玄公、亡き後、信廉が差配しておるが、自分の取り巻きに予算を分け、国防を疎かにしたのが此度の始まりではないか。」


「しかし、どうしろと?

盛信様を支えていくのではないのか?」


「元々、盛信様を当主にしたのが間違いであろう。

信永様を当主にしておれば、ヒロユキの力で防衛も出来たであろう。」


「信春、回りくどい事はよせ、お前はどうする、いや、どうしたいのだ?」

飯富昌景はイラつきながら問う。


馬場信春は一呼吸して・・・

「ヒロユキ殿につく。」

「なっ!御主、武田を裏切るのか!」

「まあまて、武田家を絶さぬように願い出る。

信永様もおられるから悪いようにはなるまい。」


「「・・・」」

場には重い空気に包まれる。


「成る程、ヒロユキ殿も武田の親族であるからな、ワシはヒロユキ殿に従おう。」

木曾義昌はあっさり決断する。


「義昌殿!」

「昌信殿、元々私は外様、親族とはいえ、ろくな扱いを受けておらん。

だがヒロユキ殿とも妻を通じて縁戚となるからな、今以下の扱いにはならぬであろう。

それに昌信殿、昌景殿に聞きたい、このまま北信濃にいたものが甲斐に戻り所領を貰えると思うか?」


「ぬっ・・・」

「今でも信廉の専横で盛信様の所領すら無いというのに、負けた御主達の分があると思うか?」


高坂昌信、飯富昌景は言葉が出ない、

実際、甲斐に帰国しても所領は無いだろう、禄をはむにも、武田本家にどれ程の収入があろうか・・・


「南信濃を守る為にも、我等自身を守る為にも俺はヒロユキ殿に従おう。」

秋山虎繁も覚悟を決め、ヒロユキにつくことを宣言する。


「ワシもヒロユキ殿につく、武田を残すにはこれが良かろう。」

馬場信春もヒロユキにつく事を決めた、これにより南信濃はヒロユキにつくことに決まる。

「御主達はどうする?このまま甲斐に戻るか?」


高坂昌信、飯富昌景は行き場が無くなる事となる。

「・・・致し方無い、我等もヒロユキ殿につく。」


こうして、南信濃はヒロユキの物となるのであった。

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