第70話 湯治に向かう。
会談の後、俺は信繁と話していた。
「ヒロユキ、怪我は大丈夫か?」
「ええ、かなり痛いですが、何とかですね。」
「ヒロユキ近くに温泉があるから療養をしていきなさい。」
「いや、マサムネに遠江を任せてますから、早く戻らないと。」
「ダメだよ、ケガを悪化させたらいけない、これは命令だ、大人しく湯治をする事。いいね!
勝頼、ヒロユキを松代温泉に連れて行って接待しなさい。」
「はい、叔父上。」
信繁は武田勝頼に命じて俺を強制的に療養させることを決める。
主人の命令だし、俺の身体を気遣っての事だ、俺は素直に受け入れる事にした。
「綱秀、業盛は軍を纏めて引き上げてもらえる?
元忠はケガをしている兵と公重を湯治させて、
重信は俺の護衛でいいかな?」
「はっ!些事は我等に任せ、ヒロユキ様はゆっくりと湯治をなさってくださいませ。」
それから信玄の返信を待ち、停戦が決まってから撤退を開始する。
「ヒロユキ殿ここが松代温泉にございます。」
俺は武田勝頼に案内されて温泉につく。
「信玄公の御子に案内させるとは心苦しい次第です。
誠にありがとうございます。」
「いえいえ、私は・・・父や兄、家臣達に疎まれてますから・・・」
勝頼の顔が暗くなる。
「如何になされた?私は新参者ゆえ家中の機微などわかりませんが、勝頼様は先の戦で充分武勲を立てたでございませんか。
もっと胸を張ればよろしいかと。」
「私には武勇しかございませんから。」
勝頼の表情は暗いままだった。
史実では勝頼は嫡男武田義信が謀叛の疑いで自害するまで扱いは悪かった。
母が側室の諏訪御料人、彼女は滅ぼされた家の娘を信玄が無理矢理側室にしたと言われている。
今の時点だと諏訪の支配力をあげるために諏訪に送り込まれている筈だが、諏訪家の家臣からすると自家を滅ぼした国の子供、受け入れづらい者もいるのだろう。
そして、武田家としても後ろ楯がない家な上に、諏訪御料人を側室に迎える際に反対があったという話だ。
勝頼のこの様子をみると、御子と認めていない者もいるのだろう。
「勝頼様、男が生を受けてたのちは、何を成すかで価値が決まります。
親がどうあれ、全てを黙らせる武勇を見せれば宜しいのです。」
「ヒロユキ殿、しかし、私は・・・」
「勝頼様はまだまだ若いのです、これから手柄を立てて名を馳せれば宜しいかと。」
「私に出来るでしょうか?」
「出来ますよ、義信様は嫡男で戦場には出にくいかも知れませんが、幸い勝頼様は四男、戦場に出るのに何の問題もありません。
中華の関羽や張飛のような、千年先の歴史にも残るような武勲を立て、義信様を羨ましがらせましょう。」
「兄上を羨ましがらせる・・・くっ、わはは、いいですね。そうです、兄上には劉備にでもなってもらい、私は関羽のような武名を残せばいいのですな。」
勝頼から迷いは晴れたようで楽しそうに笑っている。
「御気分が良くなられたようで何よりです。」
「いや、実にいい話を聞かせてもらったよ、私は悩み過ぎていたのだね。」
「そうですよ、若いのだから何にでも挑戦すればいいのです。
それこそ、関羽を目指してもいいのですよ。」
「そうか、ならヒロユキ殿は孔明になるのかな?」
「柄じゃないですね。それなら韓信とかの方が好きかな?」
「大きく出ましたね、いや、ヒロユキ殿ならもっと大きくても良いぐらいですな。」
「あまり煽てないでください。言ったけど恥ずかしくなります。」
「何を言う、ヒロユキ殿も若いのだから目指してもいいのですよ。」
勝頼は俺の言葉を引用していうが、既に笑っている。
「笑わないでください、ちょっと恥ずかしくなってきましたから!」
「すまない、どうだろう。私の事を勝頼と呼んでくれないか?
ヒロユキ殿とは友として今後付き合いたいのだが。」
「ええ、こちらこそ宜しくお願いします。
それと私の事もヒロユキで良いですよ。」
「ならヒロユキ、今後も宜しく頼む!」
俺と勝頼は握手をして、友好を確かめあった。
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