第69話 停戦

俺は林崎重信と、三田綱秀を連れて会談場所に向かった。

そこには既に机と椅子が置かれており、全軍から見易いように配置されていた。


「信繁様、ご無事でしたか!」

俺は椅子に座っている武田信繁を見つけて声をかける。


「ヒロユキ、よくぞ来てくれた。

おかげで命拾いをしたよ。」

「いえ、俺の力が足りず、上杉を倒せませんでした。」


「いや、あそこまでしてくれたのだ何を恥じる必要がある。

それにヒロユキの軍は分けてきているのであろう。

もっと誇るが良い。」

信繁に励まされている所に上杉景虎がくる。


「うむ、簡単には倒されてやれんな。」

「景虎殿!」

「この度は話し合いに応じてもらい感謝しよう、私が上杉景虎だ、横に控えるは直江景綱と斎藤朝信だ。」

「「以後お見知りおきを」」

後ろに控える二人が挨拶してくる。


「これは景虎殿、私は武田信繁、守勢の大将をしております。

後ろに控えるは真田幸隆と武田勝頼にございます。」

信繁がこちらを見たので俺も挨拶をする。


「私は土御門ヒロユキ、援軍を指揮しております、後ろにいるのは林崎重信と三田綱秀にございます。」


挨拶が終ったところで話し合いがもたれる。

「上杉としては停戦致し引きあげたいのだが、武田は応じるか?」

「・・・ええ、ただ国境は何処に致しますか?」

「多少は欲しいところだが、開戦前の位置でどうだ?」

「我等としてはそれでよろしいが、上杉もいいのですか?」

「かまわん、このまま攻めても城は落ちんだろうしな。」

景虎と信繁の話し合いで停戦が決まっていた。

そんな中で、俺や回りはほとんど空気であった。


「ところでヒロユキ殿、あなたは何処から来たのか?」

景虎が不意に聞いてくる。

「えっ?」

話に入って無かったので突如話を振られて驚く。


「昨年の川中島の戦いの後から武田に仕えた事は聞き及んでおるが、それ以前は何処にいたのだ?」


「そうだね、そういえば聞いたことがなかったけど、ヒロユキ、君の出身は何処なんだい?」

景虎の質問に信繁も賛同して聞いてくる。


「俺は伊予出身ですよ。先祖は元々京にいたらしいのですけどね。」

「京の土御門といえば陰陽道の名家ではないか!」

景虎は驚いているようだった。


「えーと、一応親父は安倍晴明の子孫を名乗ってはいたけど眉唾ものですよね。

俺としてはただの農民が名乗ってるだけだと思っているのですが。」


「いやいや、それならヒロユキの不思議な力も理解できるよ。」

信繁も何故か納得してしまっていた。


「そうかな?別に親父に教わった訳でもないんどけどなぁ・・・」


「なるほど、どうだ、私と上洛してみないか?」

景虎が誘って来るが・・・

「景虎殿、私の家臣を誘惑しないで貰えませんか?上洛するなら武田家として行きますので。」

「いやなに、我家は関白近衛前久殿と縁があるゆえな、土御門殿が上洛するなら力を貸せると思うのだが。」

「それは・・・」

信繁は言葉出なかった。


現在武田家は朝廷の繋がりが弱い、

信玄の嫁は名家の三条家から来てはいるが当主であった父親の三条公頼が周防で陶晴賢の反乱に巻き込まれて亡くなった為に、息子のいなかった三条家は現在分家が継いでおり、影響力はあまりなかった。


「景虎殿、お誘いは嬉しいのですが別に都に行きたいわけではありませんし、信繁様の言うとおり行くなら武田家として行きます。」


「ヒロユキ・・・」

信繁は感動しているが、俺としては別に朝廷に興味はないし、上杉の共で行ったところであまり意味も無さそうだった。


「惜しいのう、そなたなら上杉は厚遇するぞ。」


「既に厚遇を受けてますよ、何せ三河一国の運営を任されてますからね。」


「それは信繁殿の家臣としてであろう。そなた自身の領地は欲しくないのか?」


「別にいりませんね、それに信繁様にはだいぶ自由にさせて貰ってますから。」


「ふむ、説得は無理そうだな。仕方あるまい、だがいつでも来るが良い。

上杉はいつでもそなたを迎えいれよう。」


「その日が来るかはわかりませんが、まあ、その時は宜しく頼みます。」

俺は社交辞令を述べた。


その後、戦後の話を進めたが一年の停戦と国境の決定、そして、纏まった話を武田信玄に送り返信を待つことになった。

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