第59話 防衛

吉田に帰った俺は服部正成を呼ぶ。

「正成、頼みがある。」

「ヒロユキ様どうなされましたか?」

「武田義信の身辺を調査してくれ、今川の手の者がどれぐらいいるか知りたい。」

「それは構いませぬが・・・何かありましたかな?」


「ああ、どうやら織田は武田と同盟を考えているようだが、義信様はそれが気に入らないらしい。」

「なんと・・・そうでしたね、奥方が今川の方でしたな。」

正成は理解しているようだった。


「そうだ、それで諫めて来たのだか些か恨みを買ったようだ。

これ以上、今川に傾倒されても困るからな、ここらで害虫駆除を行っておきたい。」


「それは廃嫡までいきますか?」

「・・・考えたくはないがな、取り敢えずは今川の手の者が何処まで汚染しているのかを調べてくれ。」

「かしこまりました。」

正成はサッと姿を消した。


次に三河にいる家臣達、渡辺守綱、榊原康政、鳥居元忠、本多正信、三田綱秀、長野業盛を呼ぶ。

「ヒロユキ様どうなされましたか?」


「実はな・・」

俺は義信との話をみんなに聞かせる。

「なんと・・・」


義信の反応、そして、恨みを買った事を伝えると声を失っていた。

それもその筈、武田の嫡男の恨みを買ったのだ、今は良くても信玄亡き後、粛清対象になった可能性があった。


「みんなにはすまんとしか言いようがない、ただ諫めずにもいられなかったんだ。」

俺は頭を下げる。


「頭をおあげくださいませ。

武田義信が何ですか、いざとなれば三河で独立を果たせば良いだけの事。

それより、粛清を避ける為にも今後は領地を得て力を付けてもらいませんとなぁ~」

正信は悪そうな笑顔でそういうと、周りも同調してくる。


「それはいい、義信が継ぐ前に負けぬ力を得れば良いだけのことですね。」

「飯田の者達にも伝えて訓練を強化しなければなりませぬな。」

各自、対義信の戦略をたて始める。


「今川の国境の守りも固めませんとな。」

「岡崎方面も強固にする必要があるな。」

「そもそも岡崎を落とせば・・・」

家臣達は物騒な話にまで進んで行く。


「待て待て、先走るな。

すぐにどうこうなる話でもないし。

今正成に今川の手の者を調べてもらっている、それがわかってからでも良いだろう。」

俺は周囲をなだめる。


だが、確かに嫡男の恨みを買った以上は防衛を考えなくてはいけない。

家臣と仲間を守る為にも・・・

「はぁ、いらない事を言ったかな・・・」

少し後悔していた。



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