第53話 信永合流

「武田信繁が三男、信永にございます。以後お見知りおきを。」

「武田信繁が長女、梅と申します、至らぬところも多い私ですが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。」

信永が飯田にやって来たが、何故か女の子も連れてきていた。


「信永、これからよろしく頼むよ。それと梅さん、信繁様から何も聞いてないのだけど?」

「父が折角だからヒロユキさまの元で学んでこいと申されまして、内々の事はお任せいただけますか?」

「いやいや梅さん、まだ子供でしょ?親元にいる方が。」


「もう11歳となります、いつ親元を離れてもいいように家事などいっさい身につけております。」

信豊は信繁の思惑に気付く、ここまで名を上げたヒロユキを一族に取り込む気だと。

そして、それは信豊にしても願っていることでもあった。


「ヒロユキ、いいじゃねぇか。梅、ワガママを言わず、周りと協調して過ごすんだぞ。」

「はい、信豊兄上、父にもしかと言われております。」

「でもなぁ~信豊は飯田だし、俺は吉田に行くから兄妹離れちゃうよ?」

「信永がいるじゃないか?」

「それもそうだけど・・・」

「ヒロユキさま、梅の面倒は私も見ますからどうかお連れくださいませんか?」

信永が一歩前に出て求めてくる。


「わかった、でも、信繁様の子供だからって特別扱いはしないからね、信永も梅さんもそこはお願いするよ。」

「「はい!」」

2人の承諾を持って、俺は受け入れを許可する。


そして、信豊、信永を連れて領内を回る。

まずは開墾地に来た。

元々荒れ地となっていたが多くが田んぼに変わっており初めて来た時の倍ぐらいの面積になっていた。

そして、俺は別の作物も植えるように指示する。

それは夏にも植えれるニンジン、ナス、等各種野菜を植える。


その上で広げた開墾地には更に別の物を植えるよう準備する。

理想は年中何かが収穫出来ることだ。

そして、上野から連れて来た人々で飯田に住んでもいいという人を募集し、田畑を与える。もちろんその歳に戸籍登録することを忘れない。


これにより、城からの援助が受けれるが、税も確実に納めなくてはいけなくなる。

これにより安定した収入が得られる。

この時代、納めない者も多くいるため、確実に納めさせることが重要となる。


信永は田畑を見たあと、信豊に半年前まで此処が荒れ地だったと聞いて目を丸くしていた。

「ヒロユキさま!一体どうやって此処までの開発が出来るのですか?」

「見て貰った方が早いかな?」


俺は信永を連れて現在開墾をしている地域に来る。

そこには猿が斧で木を伐り、熊が切り株を除け、猪が土を掘り起こしている姿があった。

そして、その傍らに農民が土を耕し田畑に変えていた。


時折、言葉が通じない筈なのに仲良さそうに動物達と一緒に食事をとっている風景がそこにはあった。


「ほら、何も変わったことなんて無いよ。

みんなが頑張ってくれているお蔭だよ。」


「変わった事しかありませんよ!何で猿が斧で木を伐り、熊が木の根を除き、猪が土を掘り起こしているのですか!」

「頼んだらやってくれた。ちゃんと報酬は出しているから。」

動物のみんなには食事を充分に与えていた。


信豊が信永の肩を叩き、

「諦めろ、ここではこれが普通だ。考えると頭がおかしくなるぞ、少なくともヒロユキと敵対しない者に被害は無いからな。」

「そんな・・・私の常識が・・・」

酷い言われようだった。


城に戻ると既に兵の訓練が始められており、その姿に信永は固まる。

「こ、これは・・・」

どうやら本日は1対1の訓練らしい、各自色々な武器を持ち戦っていた。


しかし、マサムネが指揮する訓練は激しすぎて信永の顔がひきつっている。


「重信こい!」

ちょうど、マサムネと重信がやり合う所であった。

重信は竹刀を腰に構え居合の体勢をとる。

「いきます。」

俺には重信がいつ竹刀を振り抜いたのか全く見えなかったが、マサムネは難なく受け止め、吹き飛ばす。

「遅い!しかも、力が入ってない、もっと腰を使って力を込めろ!

次!公重こい!」


公重はしっかり力を込めて斬りかかるが、これも受け止める。

「いい太刀筋だ、だが力にこだわるあまりに狙いが単純すぎる。もっと工夫をこらせ!」

マサムネは公重を難なく倒し、指導している。

信豊と信永はあまりの強さに声も出ていなかった。


「ヒロユキ、マサムネ殿はいったい何なのだ?何故あれほどの強さを?」

「うーん、俺にもわからない、ただ、鉄砲の弾を斬れるようになりたいと言って、修行をしていたけど・・・」

「そんな事が出来ると?」

「二分の一では成功するって言ってたよ。」

俺は笑っていたが信豊、信永の二人は驚きを隠せていなかった。


なお、俺が聞いていた話は現代のライフルであり、二人が思う弾の早さより上だということに気付いてもいなかった。

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