第28話 岡崎到着

「その子がか?」

俺は守綱にたずねる。

「ああ、竹千代さまだ。」

「そうか、よろしくな。」

俺は乳母に抱き抱えられている三歳児に話しかける。

しかし、顔を背けられる。


「嫌われたかな?まあ、仕方ないか、乳母の方、お世話をよろしく頼むね。」

「は、はい。」

乳母の方も怯えているようだった。


「守綱さん、怯えすぎてない?」

「仕方なかろう、昨日まで逃走していたのだからな。

それより約束は守ってもらうぞ。」

「勿論、正しちゃんと働いてくれよ。」

「わかっている。」

俺達一行はその後無事に岡崎に着く。


「ヒロユキ殿、お久しぶりです。」

義信が城外まで出てきて迎えてくれた。

「義信様、何故このような所まで。」

「不甲斐ない私が呼んだ軍師様だからな、出迎えるぐらいはさしてもらうよ。」

「勿体無き御言葉、全力を尽くさせてもらいます。」

「まあまあ、そんなにかたくならず、取り敢えず今日は宴を用意してある。

ゆっくり休んで、旅の疲れを癒してくれ。」


その夜の宴には武田義信、飯富虎昌、三枝昌貞の三将とその家臣達で賑やかに行われていた。

「ヒロユキ殿、飲んでますかな?

いや~ヒロユキ殿が作られた酒は上手い!」

虎昌は上機嫌で俺によってきた。


俺は飯田から来る際に手土産として、清酒を持ってきていた。

それが振る舞われいい雰囲気を作り出す。


「虎昌、ヒロユキ殿に迷惑をかけるんじゃない。」

「これは若様、迷惑などかけておりませんよ。親睦を深めておるのです。」

義信もやってきて、腰をおろす。

「ヒロユキ殿、さあ一献。」

「いただきます。」

義信につがれ俺は飲み干す。


「して、酒の席ではあるが、如何にすればよいと思う?」

義信は気になって仕方なかったのだろう。

宴の途中にも関わらず、内政の仕方を聞いてくる。


「まだ、使える予算や町の様子を見ていないからはっきりと申せません、今言えるのはあくまでも机上の空論ということをふまえて聞いていただけますか?」


「勿論だ、不躾な願いをしているのは私の方だからな。是非御教授していただきたい。」


「では、まずは金で農民を雇い、三河を開発していきましょう。」

「賦役では駄目なのか?」

「それだと不満が溜まってしまいますからね、金を支払い働かせるのです。

そして、まずは金が入りやすいところからやりますか。

そうですね・・・塩を増産致しましょうか?

武田は海が無かったのですから今後は甲斐、信濃の塩は三河でとれるぐらいに致しましょう。」


「それほどは取れないだろう、それに今の時期は日の光が弱いからあまり取れないと聞くが?」


「それは考えがあるので現地で開発といった所でしょうか、後は農地の開発ですね、来年の田植えまでに畑を増やしたい所です。」


「それも人手がいるのでは?」


「まあ、なるべく負担が減るような手段をとりますよ。後は綿花を探したいですね。」


「綿花?」


「はい、かつて天竺より伝えられた花がある筈なのです。これを栽培すれば麻の代わりの布地になります。」


「うむ、探してみるが・・・」


「詳しくは後日ですね、あと、予算が貯まったらになるのですが常設軍を作りたいですね。」


「常設軍?」


「ええ、金で雇い、いつでも動ける軍です。これにより訓練の練度を上げれますし、田植えの時期でも関係なく戦が出来ます。」


「それはいい!是非実現しなければ!」

俺の言葉に真っ先に乗り気になる虎昌。


「虎昌殿、まずは国が豊かにならないと実現出来ませんよ。」


「そうであるが・・・」


「まあ、なるべく早く実現させましょう。目処としては春までかな?」


「それ程早くですか?」


「いつまでも此処にいれませんし、開発の出だしを作れれば、義信様がしっかり成長させてくれると信じてますよ。」


「き、期待が大きいな、だが任せてくれ。」


「まあ、そんなとこです・・・もう無理~おやすみ~~~」

俺はいうだけ言って酒の力に負けて眠りに入った・・・

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