第7話
哨戒センサーが〈ファントム〉に接近する物体を捉えたのはそれから数時間後のことだ。
「なんだ、どうした。随分暗いじゃないか」
小さな隕石に扮した小型探査船が、外殻に貼りつけていた欺瞞用のテクスチャを脱ぐのと同時に、〈ファントム〉の甲板から蟹の脚みたいな作業アームが伸びる。回収作業が終わるのを艦橋の窓から眺めていると「手伝ってくれ」という艦内音声が流れた。エディはこれからのプランを練るのに集中したいそうで、フランシスも機材の整備で手が離せないらしい。眠い、怠い、面倒くさいと、ぼくにも二、三個ほど断る理由を思いついたけれど、マクスウェルもマクスウェルで何か重大な要件を任されて出張っていたのだろうから、迎えの一つもないというのは報われない話だ。
そういうわけでぼくが格納庫に向かってみると、図体の大きい男が一人。丁度、小型探査船のコクピットから下船する最中だった。
「艦内のことをいってるのなら、節電しなきゃならないからだよ」
「灯りも、まあそうだが。お前も随分浮かない顔をしてると思って」
マクスウェルはコクピットから深緑色の大きな袋を引きずり降ろしながらいった。
「ここのところ、ずっと陽気でいられているのはお前だけさ」
「陽気?」とマクスウェルはぼくを見る。「お前が陰気なだけだろう」
マクスウェルが引きずり出した荷物がぼくの前に落ちる。
「なんだ。用事って買い出しだったのか?」
ぼくとマクスウェルが艦橋に運び込んだ荷物を見て、エディはそういった。部屋の中央にあるテーブルの上で袋を引っ繰り返すと、中から出てきたのは非常食やら生活消耗品やら……。ラベルに書いてあるのは……軍用?
「誰にも何もいわずに出て行ったのか」とぼくが聞くと、
「いったさ。留守を頼むって」とマクスウェルは答えた。
「何それ。もしかして、差し入れ?」
作業で掻いた汗を落としてきたのだろう。濡れた髪をタオルで拭きながら、フランシスが艦橋に戻ってきた。
「丁度、何か食べたいところだったんだよねー」
「そいつは潜入のついでにくすねてきただけだ」
「潜入?」とぼく。「どこに」
「〈サークレット〉の基地に潜入してきたんだよ。あの〈銀ピカ〉の口からカイルの名前が出たからには、〈サークレット〉の連中が何らかのアクションを仕かけてくる。そう考えたおれは――」
「当たり」とぼくが答える。
「当たり?」とマクスウェル。
「ついさっき、一悶着あったところだ」エディが答えた。
「死ぬほど大変だったんだぞ」とぼくは続けた。
「やっぱり」マクスウェルは勝ち誇ったように鼻を鳴らす。「思った通りか」
「お前がいたら、もっと苦労せずに済んだのに」
「そう膨れるなよ、カイル」
マクスウェルはぼくの肩を叩き、テーブルの上に転がっていた缶詰を拾い、ぼくに押しつける。肉の腸詰と書かれたラベルが。見るとフランシスが同じものを開けていて、螺旋状の腸詰を先の方を咥えて引き延ばしていた。
「実はな――」マクスウェルは一人一人に目配せしながら含み笑いを浮かべ……そして、眉を潜めた。
「どうした?」とエディ。
「あのお嬢様(クレア)はどこに行ったんだ?」
「クレアなら捕まってる」ぼくは溜息交じりに答えた。
「誰に?」
「〈サークレット〉に」
「お前じゃなくて、お嬢様が? どうして」
「そのお嬢様っていうの、いい加減、止めてあげたら?」とフランシス。
「なんで『お嬢様』が捕まったんだ?」
「まずは」マクスウェルの問いに、そう切り出したのはエディだ。「ぼくたちの状況から話した方が良さそうだな」
自分が仕入れた話を早く喋りたいんだろうマクスウェルは、肩を落とした。
「ヘソを曲げるなよ。君が船に帰って来てから思っただろう疑問は、大抵解決する」
そういって、エディは事の経緯――まず、ぼくが〈サークレット〉に捕らえられるまでの経緯を語り出した。
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