Greetings from outer space
@sumochi
序章 彼方より届いたメッセージ
第1話
爬虫類の頭をした怪物が飛行船に乗って眼下の街に手を振るステンシルアート。整然とした街並みの上空に浮かぶ、ベル型のアドバルーンは『目を覚ませ! 本物の旅を始めよう!』と呼びかける。環境保護の啓発ポスターに吹き出しが書き加えられ、発行者の意図しないセリフを叫ぶ。『正体を確かめに行こう!』
「『隣人はすぐそばにいる』。そんな世迷いごとで、市民を誑かしているらしいな」
部下を使って、バーのカウンター席で呑んだくれていたぼくを店から引きずりだしたアドルフ・レイン防衛主任は、取調室の椅子にぼくを縛りつけた。
何を言われても、ぼくは白を切ろうと決め込んでいたのだが、天井から吊り下げられたプロジェクターが壁に映した証拠の数々を前にしては、苦笑いするしかない。
「それが、あれか?」
プロジェクターから発せられた光が部屋中を走査し、壁や床、そして天井に暗黒の世界と、瞬く星々を映し出した。
「だから、ぼくは何も知らないんだ」
広大な宇宙を背景に、一人の少女が立っている。白銀色の金属質の外観をしたそれを少女と呼んだのは、輪郭から浮かぶイメージ。それから、あの声色。
――もうすぐ、破滅がやってくる。
二日前の夜のこと。人々の頭に同じ言葉が響いた。仕事をしていた者は手を止め、通行人も立ち止まり、寝入りかけていた者も身体を起こす。人々は困惑して周りを見渡した。そして、同僚が、他人が、家族が同じ顔をしているのに気づいて、その声が聞き違いではなかったと悟る。
――もうすぐ、破滅がやってくる。
白銀の少女の視線の先にあるのは、直径二百五十キロメートルにも及ぶトーラス型のコロニー、〈ミグラトリー〉。三十万人余りを収容するそれこそが、ぼくらにとっての母なる大地だ。
――もうすぐ、破滅がやってくる。
〈ミグラトリー〉の周辺宙域に少女型飛翔体が現れたのは、全市民がその声を耳にしたのと同時刻。治安維持と防災対策を務める警察機関〈サークレット〉の指揮の下、〈ミグラトリー〉は訪問者に向けて対スペースデブリ用の防衛機銃を掃射した。しかし、数百年の間、市民の生活を隕石から守り抜いたという実績はまるで歯が立たず、少女型飛翔体は自分に向けられた銃口全てを得体の知れない力でこれを撃破。市民の頭に響いた声の正体を突き止めるため、当局の動向を注視していた報道機関がこれを中継していたせいで、〈サークレット〉の連中は大々的に醜態を晒すことになった。
それで?
それで、これまでの経緯に、ぼくが捕まえられる原因があったか?
外から来たあの〈銀ピカ〉は〈サークレット〉の連中に言ったらしい。
「存続の鍵はカイル・リーチが握ってる」
その、余計な……全く以て余計な、たった一言のおかげで、ぼくは最重要参考人のリスト入りだ。くそったれ。
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