幕間・四凶、妖異襲来が起ころうといつも通りのゾンビーズ 300話まであと5話!

 世界は誰かの犠牲と胃痛で成り立っていたが、それはなにも邪神の親子だけが押し付けているものではない。


(どうしてこんなことになってしまったんだ……)


 現に、40歳代で優男のような風貌でも古強者の1人であり、関東で大手の異能事務所を構える原野正雄は、邪神とは全く関係ないところで犠牲となっていた。


 発端は彼の人生の先輩と言える竹崎重吾からの電話だ。内容は簡単で、異能学園の研修生を受け入れてくれないかというものであり、元々研修生を受け入れていたため特に問題ないように思ったが、聞けば非常に珍しいことに、通常は1人の研修なのに5人纏めて送りたいと言われて、なにか訳ありだなと思えば案の定だ。


 その学生達は有名な落ちこぼれだったのだ。そのため原田は竹崎から学生の名前を聞いた時、どこにも受け入れ先がないから、自分の事務所に頼んだのだと考えた。これはある意味で正しかった。正しかったが……間違っていた。


 そしてまず生徒のプロフィールと得意分野の情報を見た時から躓いた。


(単独では機能しない? 自力では月一回だけど、バフが掛かってたら先輩とも殴り合える? 一日一発だけだが魔法使いの単独者よりも高威力の魔法? 無限バフを掛けられる? うん? 全員異能大会チーム戦優勝? うん?)


 竹崎がその生徒達に聞いて、教えていいと承諾された情報だけでも、頭に幾つも?が浮かび上がることになった。まず竹崎重吾と殴り合える人類は世界の上澄みだけと言っていい。そして単独者は異能特異点と言われる日本でも極僅かであり、基礎四系統最高火力の魔法使いの単独者は、そのまま世界有数の火力を持っているのだから、それより上の威力を持っていると言われても信じられるわけがない。そして異能において無限という言葉は通常存在しない。


 つまり、突っ込みどころしかないのだ。


 だが竹崎に質問しても見た通りで事実しか書いていないと言われ、いざその実習初日を迎えると、躓くどころかぶっ倒れて立ち上がれなくなってしまった。


 事件は初日に遡る。


 ◆


「北大路友治です」

「狭間勇気です」

「木村太一です」

「如月優子です」

「東郷小百合です」


 初対面で挨拶を受ける原野。


 そう! 彼が担当することになってしまったのは当然チームゾンビーズの面々! 四葉貴明、小夜子夫妻が最も貧乏くじなら、原田は2番目の貧乏くじを引かされてしまったのだ! もしここに貴明がいれば自分のことを棚に上げて原田に、あーあ。ご愁傷様。と合掌していただろう。


「早速だけど、どんな風に戦うか知りたいから、訓練場で自分と戦ってもらいたい。ああ、竹崎学園長からなるべくチームで運用して欲しいと言われているから、まずチームでの動きを見せて欲しい」


 そして原田はよせばいいのに、チームゾンビーズの戦い方が知りたいからと、自分の事務所の訓練場で彼らと戦うことにしたのだ。とは言っても原田の立場からすれば、不明瞭な彼らの実力を知る必要があるのは当然なのだが、問題はいくら世界異能大会の団体戦で優勝した生徒でも、一年坊主が5人程度、自分なら特に問題ないだろうと、経験から導き出した常識的判断をしたことだろう。実際原田は、竹崎を先輩と慕うだけあり百戦錬磨の男であり、推薦組といえど“普通”の一年生なら10人だろうが20人だろうが纏めて返り討ちにすることが出来る。


「がはっ!?」


 そして吹き飛ぶ原田。返り討ちにされたのは彼だ。


 なにがあったかと言うといつものだ。


「【超力壁】!」


(早い!? 学生の超力壁が間に合う!? しかも硬い!)


「【払い給い清め給い】」


 竹崎の後輩だけあり、訓練だろうが先手は譲ってあげるなんてお優しいことは言わず、ゾンビーズに肉薄しようとした原田だが、それでもあくまで相手は学生だと思って手を抜いたのが悪かった。


 まずいつも通り展開された勇気の超力壁に阻まれその展開速度と硬度に驚き、しかも破壊することが出来なかった。勿論原田も死線を潜り抜けた戦士であり、奥の手を用いれば勇気の超力壁を突破することも可能だったが、そんなものを学生だろうが他人に見せる訳にもいかず、結局彼は超力壁を通常の攻撃で破壊するしかないのだが、時間を掛ければ掛けるだけ小百合のバフが友治に重なる。


(はやっ!? 避ける!? 無理!? 先輩!?)


 そしてもう十分だと判断した友治が飛び出し、原田に拳を叩きこむのだが、その友治の姿に原田は、断片的な思考の中、記憶にある若い頃の竹崎の姿を重ねながら、訓練場から吹き飛ばされた。学生だからと気を使って、他の職員が訓練場に入らないようにしていたため、原田異能事務所のトップが学生に手も足も出ない光景を目撃されなかったのは幸いだった。


(……名家の落ちこぼれって、手に負えないからそう言ってるだけだろ)


 5人中実働していたのは3人なのに、一方的に敗れることになった原田は床に転がりながらそう思ったが、このゾンビ達は尖り過ぎてほぼ単独では機能しないので、1人1人を見れば落ちこぼれと言うのもそれほど的外れではなかった。


(となると事前の情報が全部正しいということか……あの先輩、今度会ったら詰め寄ってやる……)


 ある意味での超問題児達を竹崎に押し付けられたことが分かった原田は、尊敬している筈の竹崎に対して心の中で恨みの呟きを発するのであった。


 ◆


 初日からこのようなことがあったので、原田はゾンビ達の扱いに心底困っていたのだが、研修2日目はそれどころではなくなってしまう。


「九州支部に妖異の大群が出現したらしい。九州は遠いけど、関東でも何があるか分からない。即応出来るように待機だ」


「分かりました」


 九州に妖異の大群が襲来したことで、全国の異能者が警戒態勢に入ったため、ゾンビーズの研修2日目は待機することになったのだ。


「九州支部なら小夜子がいるから大丈夫だろ」


「せやな」


 原田が去った後、勇気が発した言葉に太一が同意した。彼らをして四葉小夜子という存在は恐怖の大王そのものであり、彼女の普段の言葉通り、有象無象が集まったところでどうしようもないため、現地にいる級友達に対しては全く心配してなかった。


「しまったな。待機時間があるならプロテインをもっと持って来るべきだった」

「シェイクしてるときは他人の振りするから先に言っといてくれ」

「ワイはクロトーちゃん、ラケシスちゃん、アーちゃんにお手紙書いとるから」

「特売前には待機解除されると思う?」

「なんで研修先に特売のチラシ持って来てるの!?」


 そしていつも通りのゾンビ達。彼らはずっとこうなのだろう。命が尽きるか


 世界が滅びるその時まで。

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