第一次チャラ男ショック・マッスルショック。まだマシ
のちに貴明が、第一次マッスルショック、チャラ男ショックと呼んだこの最初の事態は、ギリシャとイギリスでそれぞれ起こった。
「あ、もしもし父さん?」
『ああ』
試合が終わった日の夜、次の日の閉会式に出席するだけなったギリシャのアトラスは、早速"マーズ"とまで呼ばれる父に報告をするため電話をかけていたが、実はこのアトラス、家族仲は非常に良好で、祖父は首相経験者で、父は軍部に絶大な影響力を持つという良家の生まれであった。
「日本に負けたんだけど、モイライ三姉妹よりモイライ三姉妹の力を使うのがうまい権能使いがいるみたいなんだ」
『モイライ三姉妹よりモイライ三姉妹?』
そしてアトラスは、非常に簡潔な報告をしたのだが簡潔にし過ぎたため、マーズは完全に混乱していた。ギリシャでもモイライ三姉妹が、女神の方の転生体なのではないかと思っていたが、その三姉妹より女神の力を扱うのがうまい奴がいると言われても理解できないだろう。
『日本のルーキーに権能使いがいた?』
「そう」
『そいつが運命の三女神の力を使った?』
「そう」
『権能使いとしてどの程度の力量だ?』
「頂点。あれは現役時の父さんでも勝てないね」
『……なに?』
マーズは思わず息をのんで聞き返した。覇気がない息子だが、その腹の括り方はマーズだけでなく政争を勝ち抜いてきた祖父も満足しているほどで、家のことは心配いらないと思っていたし、なにより優れているのは、その相手の力量を見抜く目であると考えていた。
『三姉妹のところのくそ婆よりもか?』
「うん、間違いない。いや、底が見えたわけじゃないけど、それでもあの婆ちゃんよりもヤバい」
マーズは今度こそ絶句した。モイライ三姉妹の一族でギリシャ最年長の老婆は世界最高峰の権能使いだが、その力を知っているアトラスが、それよりもヤバいと断言したのだ。
『……一体誰だ?』
「モイライ三姉妹がご執心な男がいるって報告は上がってる?」
『ああ。金髪の軽薄そうな男で、クロトーが将来のギリシャに絶対必要な男だと念を押しているそうだな』
憐れ木村太一。彼はギリシャの正式な報告でもチャラいと書かれているようだ。
「そうそれ。俺は未来が分からないからどう必要なのか分からないけど、絶対に取り込んだ方がいい。本当にヤバかったから。クロトーとラケシスの力で俺と三姉妹以外転んだし、アトロポスの権能も使える筈。なんとか留学とか交換学生で呼ぶか、最悪モイライ三姉妹を日本の学園に留学させてでも」
『まあ待て。お前のことは信じているが、学生とはいえ権能使いをそうそう送り出すことなんて出来ん』
なんとしてでも木村太一を取り込むべきだと主張するアトラスだが、流石に学生である彼の意見で権能使いを日本に留学させるだなんて出来る訳がなかった。
「交際してるならそれを利用しない手はないと思うけどね。ギリシャと日本は遠いから、仕方ないとはいえ仕方ないけど」
まあそういうだろうなと思っていたアトラスも、まさか太一と三姉妹が夢の世界でつながっておりそこで逢瀬を重ねるどころか、なんなら直接転移できることまでは思っていなかった。
このように、第一次チャラ男ショックはまだマシだった。第二次、三次と続いていくうちにシャレにならなくなっていくが。
◆
◆
一方、第一次からシャレになっていないのは、イギリスのマッスルショックである。
「どうしてこんなことになってしまったんだ……」
完全に頭を抱えてお通夜状態になっいるのは、イギリス選手団の代表とその周りだ。なにせチーム戦部門決勝戦での最後の方は彼らでも捉え切れなかったが、それでも状況的にマッスルこと北大路友治一人に叩きのめされたのは明白で、彼らは本国にたった1人に全滅させられましたと報告する羽目になっていた。
「大体反則だろ。絶対ルーキーじゃない」
「まさか竹崎重吾の愛弟子か?」
「隠し子の可能性もある」
そのため彼らが世の不条理を嘆き、自分達は何も悪くないと思うのは当然で、とばっちりで竹崎にまた新たな隠し子疑惑が持ち上がっていた。
「選手達は?」
「外で素振りをしています」
「若いな……いや、頼もしいと言うべきか」
「はい」
だが驚くべきことにその当事者というか、殆ど貰い事故の被害にあってしまった選手達は、頭を抱えるどころか外で剣の素振りをしていた。
「アーサーもか?」
「寧ろ一番最初にです」
「弟子でもアーサーはアーサーか。虹にあの到達者……今回は運が悪すぎた。アーサー流剣術を使わないようにと言われているなら猶更だ」
その中には当然アーサーも含まれており、彼は一番最初に素振りを始めていた。そんな優勝を期待されていたが、バトルロイヤルの個人戦だけにとどまったアーサーを代表は擁護する。
「あの到達者は?」
「それが、北大路友治という名前しか分かりませんでした。虹と同じで本当に完全な無名です」
「日本はどうなっているんだ!」
達人の達人でも術の行使が分からない木村太一に比べて、肉体的到達者と言える友治は、その戦い方と体の動かし方を見ればある一定以上の戦士なら分かる。そのためそのある一定以上な者ばかりなイギリス選手団もまた理解させられた。あれはどうしようもない程に至っている存在だと。そんな到達者が完全に無名など、イギリス選手団の調査員たちは、まさにパンドラの箱を覗いてしまったような気分になっていた。
「バトルロイヤルで全員をぶちのめした奴もか!?」
「はい。名前が四葉小夜子とだけ」
「ああもう……国に帰りたい……」
そしてここまではチャラ男ショックとマッスルショックだったのだが、ここからはショックどころの話ではない。
チーム戦のバトルロイヤルで3ヵ国を一人でぶちのめした奴こと、四葉小夜子に相対する羽目になった選手達はあれは絶対人間じゃないと断言しており、それはアトラスやアーサーも同じであったのだが、では具体的にどうだったのか問われると、霊力お化けでそれ以上は理解すらできなかったと述べるにとどまり、調べても調べても四葉小夜子なんて存在は出てこず、もう完全にお手上げ状態だった。
実はこれ以前にも述べたが、桔梗小夜子から四葉小夜子となった事も一因だが、彼女にかつてボコられた熟達者もまたあれは人間じゃないと言うだけで詳しいことは語らなかったため、彼女は名家と一部の熟達者にのみ有名で世界的には全く無名だった。
「ここは魔窟だ……」
そういって代表は項垂れるのであったが、このセリフを呟いた者が前にもいた。
◆
ところ変わってイギリス。
「師匠、決勝でイギリスチームは日本チームの1人に破れ、バトルロイヤルでは3ヵ国合同で日本に挑みましたが、今度は別の人間1人に惨敗したようです」
「アーサーがいてか!?」
「そのアーサー君から直接聞きましたが、たとえ剣術を使っても手も足も出なかっただろうと」
「やっぱり魔窟だ! もう二度と行くものか!」
病院で暇していた先代アーサーの下に、今代が大会結果を知らせに来たのだが、先代から見ても優秀な孫弟子も含めた、名だたる猛者たちが名を連ねる3ヵ国を1人で粉砕した者がいると聞いて悪態を吐くのであった。
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