やたらとなんでも出来る邪神四葉貴明

「じゃあ飛鳥の応援に行きましょうか」


「はいお姉様!」


「俺達もそちらを見に行くか」


「せやな。いんや……まあ大丈夫か!」


 しゃあっ! 副音声の放送は一旦終了! 何といっても次の試合はルーキー部門で、しかも佐伯お姉様がトップバッターなのだ! これをマネージャーの俺が応援せず誰がする!


 幸い副音声はあくまで副音声として、やるやらないは学生に委ねられており、俺も事前にチームの応援を優先すると伝えているので、遠慮なくそちらの方へ向かう。


「それじゃあ応援行ってきます!」


「お友達の試合が終わったらまたやってくれるんだよね!? ね!?」


「勿論です!」


 なんか放送席を出る時、やたらとテレビ局のスタッフに引き留められたが、ひょっとしてテレビの前の皆さんが、俺の美声に酔いしれてるのか? それかお姉様の可愛らしい声に夢中になってるかのどっちかだな。まあとにかく安心してくれ、俺っち話すのも本職だから、応援が終わったらすぐまた戻ってきてやるよ。


「いやでもやっぱり……」


 しかしチャラ男の奴はさっきから何を悩んでるんだ?


 ま、そんな事は放っておいて、佐伯お姉様今行きまああす! 例え相手の応援団の数が多かろうと、その分俺が頑張りますのでご安心ください!


 ◆


 さて、ルーキー部門は撮影禁止という事で、一般の学生部門とは別の室内訓練場で行う事に急遽変更され、アホみたいに広い第一訓練場にやって来たのだが。


『佐伯お!』『きゃああああ!』『お姉!』『様ああああ!』『きゃあああああ!』『頑張!』『あああ!』


 うっせえええええええええええ! 佐伯お姉様親衛隊の事すっかり忘れてた! 応援席の一角を埋める我が帝国のプラエトリアニ共め! まーた何の統制も取らずに好き勝手叫んでやがる!


「ぷぷ。ファンが多くて飛鳥も嬉しいでしょうね。ぷぷ」


 それをお姉様が素敵なニタニタ笑いで見ているけれど、ここは応援団長として無視するわけにはいかない!


「ピピーーー!」


 体のタールの中に埋め込んでるホイッスルを、ポケットからの様に取り出して吹き、プラエトリアニ共の前へ、いつかの様に躍り出る。


「ピッピッピッ! ピッピピピ!」


『お姉様! 頑張ーれ! お姉様! 頑張ーれ!』


 これで良し。大会運営委員長として、そしてチーム花弁の壁応援団長として、会場の治安は守らなければならない。


 ですよね。規則を破って映像機器を回してる各国の皆さん?


 いるよいるよ。関係者としてこの室内訓練場に入り込んで、こっそり映像を取ってる連中が。世界各国が当然の権利とばかりに、小さな機械で録画している。戦う選手による多少のルール違反は目を瞑っても、周りの規則破りは許さああああん!


 てめら、俺の前で"見る"、"聞く"、"話す"の動作をしてバレないと思うなよ? こっちとらこの世のありとあらゆる存在に語り掛けて、その声を聞き、相手を見て想いを届けてるんだぞ。それが人体ではなく機械だとしても同じ事。その概念そのものに俺は介入出来る。そう、例え未来からロボットが人類を粛清しにやって来ようが、俺は機械すら呪えるし祟れるのだ。俺様に弱点など無い!


 そして蜘蛛君がイレギュラーで俺のタールを受け取ったのなら、猿君の見ざる聞かざる言わざるの三猿は、元を辿れば俺の権能の一部。


 だからこそやってやる! この邪神四葉貴明の権能、第一形態ラインの力によって、"見る"と言う行動の概念の線を操り、引き換えて無効化する!


 食らえ、四面注連縄結界に続く我が力を!


 その名も!


三感散黙さんかんさんもく墨界もくかい!】


 会場中の映像機器をターゲットとして、見るという概念に介入する。俺から伸びる人間では認識不可能な注連縄は、この会場をぐるりと囲むとその力を発揮した。これで中継してようが録画してようが、墨を塗られたくった映像しか見ることが出来ない。


 し、しかし、ぜーぜー……相変わらず人間形態で邪神形態の権能を使うと、つ、疲れる……。


「もう、また無理して」


「い、いやあ、あはは」


 無茶したことをお姉様に少し怒られてしまったが、僕、運営委員長なんで許してください。


「早くどこかに座りましょう。ああ、あそこの不審者の所が空いてるわね」


「不審者?」


 疲れた俺を気遣って、お姉様が会場を見渡したが、どうやら不審者がいる所の席が空いているらしい。しかしはて、不審者とは?


 あ、不審者だ。


 お姉様の言う通り不審者がいた。そいつは皆が友達と話したり、選手はまだかと入場口を見ている中、何故かきょろきょろと、それはもうきょろきょろと会場全体を見渡していたのだ。


「やあ皆、ここいいかな?」


「先程ぶりだな」

「おーっす」

「おつかれー」

「放送お疲れ様」


 空いている席にはチームゾンビーズの面々がいたため、声を掛けて席に座る。


 さて、問題の不審者だが……。


「東郷さん、木村君はどうしたの?」


「それがさっぱり……」


 東郷さんに、俺とお姉様が来たことにも気が付いていない不審者、チャラ男の事について尋ねるが、彼女もどうして奴がきょろきょろしているか知らないらしい。


「ぷぷぷぷ。み、蜜蜂がいないか確認してるんじゃない? ぷぷぷ」


 お姉様がそんなチャラ男を見て笑っているけど、蜜蜂?


 はっ!? 佐伯お姉様が入用口にやって来た気配を感じる! もうチャラ男の事なんて後だ後!


『選手入場!』


『きゃああああああああああああああああ!』


 佐伯お姉様が入場してくると同時に、プラエトリアニ共の絶叫が会場を揺らす。多分だが、全選手の中で一番応援が熱いのは佐伯お姉様だろう。それほど熱いというか煩い!


 あ、佐伯お姉様!? この前みたいにそんな軽い投げキッスをプラエトリアニ共にしたら!?


『■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!』


 うるせええええ! 相変わらず何言ってるか分からねえよ! 冗談じゃなく会場が揺れてる!


 そして驚いているのは佐伯お姉様の相手も同じだ。突如発生した音波兵器に、足を止めてぎょっとしている。


 邪神アイ発動! アメリカの男性、霊力と浄力が混在している、欧米圏で一般的な一神教を基とした霊力者。力はジャンヌダルクの妹には勿論及ばず、聖人とは言えない。そして音波兵器に足を止めてぎょっとしたのは演技でもない。


 つまり、"一人師団"の次男なんて言うイレギュラーではなく、単なる優秀なルーキーだ!


 この勝負……行けますよ佐伯お姉様!


『試合開始!』


 佐伯お姉様がんばえー!

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