200話記念 臨時教員四葉貴明

前書き

ついにここまで来れました。皆さまに多大なる感謝を。

よければ最後の下までご覧ください。


「なあおい、あのセンコー、今度は何させるつもりなんだ?」


「さあ? 呪術師の対処に、爆薬かミサイルで爆殺しろって言うような人だから……」


 それはもう面倒そうに異能学園推薦組一年A組所属の霧島悟志と、同じく一年A組主席、眼鏡を掛けた気の弱そうな迫水亮太が、およそ一週間分の着替えが入った大荷物を抱えて教室に向かっていた。


 言葉使いからして気が合いそうにない二人だが友人同士で、その彼らが思い浮かべているのは、臨時教員にも関わらず推薦組という栄誉ある一年A組の副担任となっている男の事だ。


 そんな副担任に、彼らはただ一週間分の着替えを持って来いと言われているだけで、目的もはっきり分からないのに大荷物を持ってこさせられ、クラス全体がぶーぶーと文句を言っていた。


「大体あのセンコー、臨時教員の癖に好き勝手やりすぎだろ?」


「確かに……」


 その臨時教員ときたら、平気でカリキュラムも時間割も無視するものだから、特に真面目な迫水などは、思い描いていた学生生活と全く違う事に混乱していた。


「おーっす」


「おはようー」


 霧島が行儀悪く足でクラスの扉を開けると、そこには既に多くのクラスメイトが登校していた。


「おはよう霧島君! 迫水君!」


「うげ」


 臨時教員も。


 その臨時教員の名は、


「四葉せんせー。早いんじゃないっすかね?」


「お、おはようございます四葉先生……」


「なに言ってるんだい! 教員たるもの10分前行動さ! 臨時でも!」


 四葉貴明といった。


 ◆


「えー、皆さんおはようございます」


 朝のホームルームの時間となり、教壇になっているのはその臨時教員。ではなく、彼らの担任田中健介である。


「その、本日から5日間、金曜日まで特別カリキュラムが組まれました」


「せんせー。通常の授業を受けないと、普通科の奴らに抜かされちゃいまーす」


 健介の説明に霧島が横やりを入れたが、その言葉に名家出身の殆どの生徒達が失笑している。霧島が横やりを入れたこともそうだが、選ばれた自分達が普通科に遅れることなどありえないと。


「えーとですね。竹崎学園長から許可は出ているので、特に問題はないと思います。はい。多分」


「また学園長か……」


 この頼りない教師で、我が強いクラスが崩壊を起こしていないのは、その頼りない教師が何故か世界で最も有名な異能者の一人、学園長竹崎重吾と非常に強い関りを持っているからだった。今回もそうだ。学園長お墨付きの元、色々とカリキュラムにない妙な授業を受ける羽目になっていた。


「それでは四葉先生お願いします」


「はい!」


 健介に促された貴明が教壇に立つ。


「突然ですが皆には経験が足りません! いや、年々卒業生が増えて、皆の先輩方が日夜頑張っているため、それも当然でしょう!」


 貴明の言う通りであった。推薦組は毎年30人ほどがコンスタントに入学しており、その卒業生達が一年ごとに一線級の戦力として日本各地に散らばっているため、妖異による被害は減少していたのだが、裏を返せば名家出身の生徒でも、段々と実戦から遠ざかりつつあるという事だった。


「ですが皆さんは推薦組! 時代が変わりつつありますが、即戦力として期待されている事に変わりありません! という訳で、荷物を持って起立してください!」


「はい?」


「はいはいさあ起立して!」


「全く……」


 熱弁の締めが、何故か荷物を持って起立しろでは意味が分からないと首を傾げる生徒だが、鬱陶しい程のテンションの貴明に押され、渋々と言った様子で言われた通りにする。


「じゃあ恐山ブートキャンプを開始します!」


「は?」


「【四面注連縄結界】っと」


「はあ!?」


 突然教室の中をぐるりと注連縄が囲った。いきなりの異能の行使に混乱する生徒達だったが、次の瞬間にはもっと驚愕する羽目になった。


「レッツゴー!」


 パンパン


 注連縄前の礼儀、二礼を飛ばして二拍手だけした貴明は、その能力を、第一形態ラインの権能を行使して


「到着!」


 恐山に生徒全員を転移させた。


「な、なんだあ!?」

「うっそお!?」

「まさか転移!?」

「30人全員を!?」

「そ、そんな馬鹿な!?」


 一変した景色に生徒全員が心底驚愕していた。本当に極々一部の異能者にだけ許された転移の力だが、その人数が増えれば増えるだけ、難易度はどんどんと跳ね上がっていく事で有名だ。しかし、生徒の数は全部で30人。それを全員転移させるなど、はっきり言って人間業ではなかった。


「はい主席の迫水君! 現在の恐山はどういったところでしょう!」


「え!? えーっと、修験者や山伏の修練場所として、山全体が訓練用の結界に……」


 突然貴明に話を振られた主席の迫水は、なんとか平静を取り戻すと、恐山がどういったところかを思い出して顔が引き攣った。


「はいその通り! 主席は代々相変わらず優秀で先生も嬉しい! そう、現在恐山は、山全体が訓練場と化しています! そして現在地は、その訓練目的で訪れる人達が宿泊する場所から、一番遠い所になります!」


「おいちょっと待て……」

「な、なんか見えて来たぞ……」

「恐山の訓練地とか、姉上がもう二度と行かないとか言ってたんだが……」


 それはもうテンション高く熱弁する貴明だが、それと反比例して生徒達のテンションはどんどんと低くなっていく。


「では今日の予定を伝えます! うろついてる訓練式符を倒すなり掻い潜るなりして、宿泊施設に到着してください! 以上! じゃあ頑張ってね!」


「は?」


「た、貴明君、やっぱりちょ」


 呆然とする生徒達を残して、なにかを言いかけたと健介と貴明は、この場から消え去ってしまった。


「はああああああああああああああああああ!?」


 残された生徒達は荷物をどさりと落としながら、絶叫を上げるのであった。


 ◆

 -----------

 ◆


「や、やっぱりやり過ぎじゃないかなあ?」


「いやあ、この代は特に経験が足りなさすぎると思いません? 田中先生の代なら考えられないくらいじゃないです?」


「そ、それは確かに……」


 一年生を残して俺と田中先生は、俺らが強化した目なら生徒達がちゃんと見える、恐山の山腹で教育方針について相談し合っている。


 田中先生の言う事も分かる。大人の修験者やら山伏が修練に訪れる恐山は、一年坊主にはまだまだ早すぎる場所だ。


「巡り合わせが良かったのか悪かったのか……」


「ですねえ」


 田中先生の呟きだが、まさにそれだ。この代はどうも巡り合わせが極端だったようで、彼らの名家の実家が、これはいかんと危機感を覚えるほど実戦を積む機会がなかったようだ。一応親御さん達には事前に連絡していたが、ゴリラも俺も工作していないのに、自分達の子供を谷に落とすつもりで、恐山ブートキャンプにゴーサインを出したほどで、いかに一年生が経験不足か分かるだろう。尤も、普通の家出身の親御さん達は、恐山ブートキャンプの意味をあまり分かっていなかったが。


「普鬼以上はこの周辺にいないよう調整してるので、あとは見守りましょう」


「そうだね……」


 なんとこの恐山訓練場。普鬼レベルの訓練符があちこちに徘徊している上、大鬼の上位レベルやら非鬼の下位までぶらついている訓練場なのだ。普通にやったら一年生じゃ半日も持たないだろう。そのため彼らが団結すれば倒せる程度の訓練符だけに絞っている。


「それにですね」


「それに?」


 まあとにかく、まだまだ一年生にはきつい場所だが、それは俺ら大人の上から目線かもしれん。なんたって自分達を思い出したら分かる。


「人間っていうのはやる時はやりますからね」


 壁なんてブチ破って来たのが一年A組だ。それは直接見てないが、半裸会長も爽やかハーレム先輩もそうだろう。


 勿論俺らの代も。


 そしてきっと彼らも。


 ◆


 ◆


「ぜーぜー!」

「し、死ぬかと思ったあああ!」

「ぬああああああ!」

「くそったれええええ!」


 ほらね。生徒達は、俺、田中先生、ゴリラの予想よりもずっと早く宿泊所に到着した。


 ◆


 ◆


「ぐえええええ!?」


「攻撃全振りのロマンは分かるが、当たらなきゃ意味ないぞ相田君!」


 ◆


 ◆


「あ、もしもしお姉様! はい! そりゃもう頑張ってます!」


 ◆


 ◆


「いいかい皆! 対人戦は、一に不意打ち、二に闇討ち、三四がなくて、五にだまし討ちだよ!」


「ええ……」


 ◆


 ◆


「からあげ、からあげ。頂きます!」


 ◆


 ◆


「うむ。様子を見に来たが顔付きが違うな」


「そうでしょう学園長。やっぱり若い者には旅をさせよ、ですよ」


「違いない」


「さあ皆! 折角学園長が来てくれてるんだから、気合入れて頑張ろう!」


「くそおおおおおお!」

「ぎゃああああああああ!?」

「がああああああああ!?」

「ぬおおおおおおお!」


 ◆


 ◆


「獅子は我が子を谷底に蹴飛ばす。いい言葉だ」


 草木も眠る丑三つ時、生徒も田中先生も寝ている間、ブートキャンプ最終日である明日の予定表を確認する。


 締めを担当する訓練符は、胴体から二つに分かれた双頭の蛇で、戦闘力は普鬼でもまあそこそこだが、最大の特徴は殆ど同時に二つの頭を潰さないと、何度でも復活する事だろう。これを倒すためにはチームワークが不可欠で、クラス全員が一丸となって戦う必要がある。俺の邪神的見立てでは……ギリ倒せるか倒せないかだな。うん。そのくらいがちょうどいいだろう。後は皆の頑張り次第!


 という訳でおれも寝よ! お休み皆!





























































 おいちょっと待てなんで発動した!


 どういうことだ!


 なんで心臓が止まった!


 そうじゃないと発動しない筈だ!


 何があった!


 ああおい!


 っ!


 間違いない! 正式召喚だと! やり方はお袋とお姉様達しか知らない! あ!い!つ!い!が!い!は!


 しかも!


 なんで!


 なんで愚者のカードが俺のとこに直接来てる!


 邪神アイ発動!


 どこだ! どこにいる!


 見つけ


 ブッチン


 だ!だ!だい!だいいいい!giwpかqh0970wqあzivkwj開放9-ckalpqufaopa;ma;■■■!





後書き

異世界帰りがカードで頑張る現実生活と合わせてやり切りました。

この作品もついに200話。これも皆さまのお陰でございます。


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