観戦2

「【四力連射砲】」


(ほげええええ!? もうこいつ卒業でええやろおお!)


 我がマイフレンド藤宮君が、いつものゴキブリ野郎を駆除し終わった。まあ、ゴキブリ野郎の言い分も少しは分かる。彼は一年生ながら、卒業は言い過ぎでも多分三年生位とならいい勝負が出来るだろう。つまりそれは、世界危険度分類で完全に別口扱いされている、大鬼とも戦えるという事であり、下位の普鬼の程度でしかないゴキブリでは、どうあがいても勝ち目がないのだ。


「うむ。一年生時点では言う事なしだ」


「ありがとうございます」


 つうかこの学園やっぱりやべえな。現在蜘蛛君ブードキャンプをしている最上級の推薦組四年生は、大鬼の延長上にいる非鬼の下位札とはいえ、それを一人で倒せているのだ。流石は世界で特異点扱いされている、日本の一握りのエリート学生達。聞いた話、推薦組の卒業生は大鬼が出たと聞いたら、ボーナス金ゲットと目の色変えるらしい。アメリカで出たら空母機動艦隊が出張って、異能者も多くが腹を括るというのにだ。


 だがそんな彼らをボコっているのが非鬼の蜘蛛君である。世界基準では大鬼が別口なら、日本の基準で別口は非鬼からだ。対応には特異点日本でも精鋭が集い、これまた聞いた話だが、非鬼の下位札で甘く見ていた推薦組の卒業生の一部がたまに殉死しているらしい。やっぱり蜘蛛君ヤベえな。


「努力を怠らなければ特鬼とも戦えるようになるだろう。精進しなさい」


「はい」


 そして世界的にはもう泡吹く絶望、特異点日本でも腹を括る必要があるのが特鬼だ。日本とバチカン、それとアーサー&エクスカリバー擁するイギリス以外で現れたら、アメリカとロシアでも外部から精鋭中の精鋭を呼び出しての総力戦になる。そのためゴリラから、そんな特鬼と戦えるようになると言われた藤宮君はマジ凄いのだ。


「その内、超阿修羅の猿ちゃんとやりあえるかもね」


「ですね! 流石藤宮君!」


 況やそして更にその上、特鬼の最上級、最早別のカテゴリーを作った方がいいのではないかと思わせる、猿君の超阿修羅状態とすら戦えるかもと、お姉様に言って貰える藤宮君は超マジでトンデモナく凄くて激ヤバなのだ。


 俺の見立てでは、阿修羅状態の猿君の対処にはカバラが一人、超阿修羅状態ではカバラが二人いる。カバラヤバくね? いや、猿君ヤバくね? つうかそんな猿君と一対一でいい勝負してるゴリラヤバくね? 超阿修羅状態なら、アメリカでも東海岸から西海岸まで止めれずに抜かれちゃうよ? なお牛鬼蜘蛛君は超強力な封印術以外で対処を誤ると、カバラ全員を封殺出来るだろう。蜘蛛君ヤバくね?


 結論。藤宮君ヤバい。


 ◆


 ◆


「狭間入ります」


 やって来たのは四馬鹿の一人、突っ込み役兼たまにボケの狭間君だ。


「これ終わるのかしら?」


「確かに」


 この名は体を表し過ぎた男の生み出した空間の壁は、防御という点に関して藤宮君の四力結界の次に素晴らしいのだが、如何せん彼はこれしか出来ない。


「起動する」


(次もそのまた次もカンバルゾ!)


「ふふ、あなたのお気に入りの白蜘蛛ちゃんね」


「いやあお気に入りというか天敵というか……でも可愛い……」


 キシャリとその前足を上げながら出現したのはニュー白蜘蛛君だ。というか俺を吹き飛ばしてVサイン作ったときも思ったけど、ニュー蜘蛛君って体柔らかいね。大丈夫? すべすべぷにぷになお腹が見えてるよ?


「【二重超力壁】!」


「ぶっ!?」


「あら新技ね」


 思わず吹き出してしまった! は、狭間君なんて技を! ただでさえ君の壁は硬いのに、それを二重に重ねて作り出すとかヤバいでしょ!


「あれだけ壁を作り出すのに特化したのも珍しいわね」


「その内世界で一番硬くなるかもしれません」


 あの男、あまりにも超力で壁を作り出す適性が高すぎる。こと超力壁だけに限れば三年生すら超えているかもしれない。


(突撃ー! ってあれあれ?)


 あ、ニュー蜘蛛君が突っ込んだけど、壁に阻まれて止まってしまった。


(えい! えい! えい!)


 その見えない壁を何とか打ち破ろうと、ニュー蜘蛛君が何度も体当たりをしているが、びくともしていない。それにしても……なんて頑張り屋さんなんだ……。


(えーーい! ダメだ硬いー!)


 次に助走を付けて体当たりしたニュー蜘蛛君だがこれも駄目。


「よし終わろう。見事だった」


「ありがとうございます」


 もうこれ終わらないだろうと思っていたが、ゴリラがテスト終了の宣言をする。本来なら打倒しないといけないのだが、狭間君は本当に壁を作り出す事しか出来ないためどうしようもない。


 しかしゴリラ的には満点のようだ。まあ、一年坊主が作り出した超力壁なのに、あれだけ少鬼の体当たりを食らってもびくともしないんだ。それこそ満点だろう。


 狭間君ヤバくね?


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆


「ふふ。ここからコース料理ね」


「結構集中していますよね」


 ここからはた行の名字だが、名前のか行からた行は、残りのゾンビ共とネクロマンサー、佐伯お姉様と橘お姉様など、お姉様曰く面白い人物達が集中している。ゾンビ共に至っては、ネクロマンサーと狭間君以外、北大路、如月、木村と、全員が、き、だ。なお異能の東西南北の内、西岡君と南條君はつまらないそうだ。尤も彼らは彼らで個性的だが。


「東郷入ります」


 入室してきたネクロマンサー東郷さん。相変わらずの清楚美人だが、男運は全くないと言っていいだろう。なにせ周りにいるのは、脳細胞まで筋肉漢とチャラヒモ男で、比較的まともな狭間君も、やっぱり馬鹿の一員だと思うような行動をすることがある。それとイケメンナンパ師か。即お断りしてたけど。自分が結婚出来なかったら結婚してくださいとか、邪神の俺でも訳の分からんこと言ってたからな。まあ、東郷さんの家が名門過ぎるから、全力投球は出来なかったのだろう。それを口に出すのは馬鹿極まりないが。


「起動する」


『ギイイ!』


 現れたのは、一般的に小鬼に分類される餓鬼を、もう一回り大きくしたかのような存在だ。


「【祓い給い清め給い】」


『グギ!?』


 それにたいして東郷さんは、浄力者にとって基本となるデバフを掛ける。


『ギイイ!』


 それが効いたのだろう。少鬼の訓練札にも関わらず、餓鬼は単なる一般人程度の速さしか出せていない。


「でも彼女、鈍足なのよね」


「自分に対しての強化がちょっとですもんね」


 が、東郷さんは明確な弱点を抱えている。ゾンビ共にバフを掛けるため集中している東郷さんは全く動けないが、自分に掛ける分には問題なく動ける。動けるのだが、その強化の通りがかなり悪いのだ。


「あれだけゾンビ達を信頼してるのに、自分には自信がないんでしょうね」


 お姉様の言う通り、お姉さん達が優秀過ぎたため、自分に対して自信が持てなかった事が影響しているのだろう。自分を強化してもかなり弱いものにしかならないため、結果的に異能者の中で足が著しく遅いのだ。


「くっ!?」


『ギギギ!』


 餓鬼の拳を何とか避ける東郷さん。


 彼女はバフデバフ要員とはいえ、最低限の自衛力が必要な浄力者だがかなりその能力が低く、防御的な結界を張る時間も稼げない。


「【祓い給い清め給い】」


『ググ!』


 そのため彼女は簡易的な祝詞でデバフを掛けまくり、何とか隙を作ろうと必死になっている。


「全く、あれじゃあ普通の浄力者みたいになってるじゃない。ゾンビ達となら特鬼の前にでも放り出せるのに」


 半面、ゾンビ共と組ませた東郷さんは世界最強の浄力者の一人になる。扱える浄力術に制限なし。超低燃費で自分の力が尽きるまで、半永久的にバフを掛けられ続ける異能者など前代未聞だろう。その時だけ彼女は学生なんてもんじゃなくなる。


 東郷さんヤバくね?


「時間終了。よくやった」


「はあっはあっ。あ、ありがとうございます……」


 息も絶え絶えと言った東郷さんが、何とか時間制限一杯まで逃げ続けることが出来た。元より浄力者の役割は、死なずにバフデバフを掛け続ける事なのだ。その点かなり攻撃的な橘お姉様の浄力は、異端と言っていいだろう。なにせ橘お姉様は、下位とはいえ普鬼のゴキブリとも真っ向から戦えるのだ。


 橘お姉様ヤバくね?


 さて、橘お姉様と佐伯お姉様が終わると馬鹿共のラッシュだな。

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