実技テスト

「諸君おはよう。改めて言うが、実技テストではあくまでテストであって実戦ではない。これで体を壊すのは本末転倒であることを忘れない様に」


 おはようございます学園長。そんなこと当たり前じゃないっすか。って言いたいけど、なんか学園長が赴任する前の学園じゃ、名家の皆さんの家族があそこの家には絶対に負けるなって煽ったせいで、限界以上の無理する人が多かったらしい。米ソ宇宙開発競争かな?


「それでは出席番号の最後から行う。まずは貴明、8番訓練場の前で待機していてくれ」


「はい!」


 ふ。まずは主席からとは分かっているなゴリラ。皆には心の準備が必要だろうから、俺から始めるのは正しい。なぜなら主席とは常在戦場であり、いつ如何なる時も先頭に立つものだからだ。


 いやそれ抜きにありがたいわ。こういうので最後まで待たされたら神経が持たないんだよね。許せて30人中、半分の15人目とかだ。それ以上は復習するのも限界で、ただ緊張するだけになる。だから出席番号1番の伊集院君はへとへとになるだろう。


 さて、トップバッターとして頑張ろうかね!


 ◆


 ◆


「実技テストと言っても、貴明と小夜子に関しては必要ないのだがな」


 まあそうですよね学園長。スーパーパーフェクト主席である俺と、お姉様にテストなんて必要ない事は誰だって分かる。


「だが学生なら受ける義務がある。という訳で早速やるぞ」


「はい!」


 だがそれはそれ。俺も主席としてそのテストを受けて立つ!


「では起動する」


 さーてお相手はってもう分かってるよ!


(朝一訓練ガンバルゾ!)


 出たなニュー白蜘蛛君! 今日も素晴らしい頑張り屋さんっぷりだが、今日という今日はこの俺が勝たせて貰う!


「では開始」


「先手必勝! 【四面注連縄結界】!」


「これがベルゼブブを封じていた結界か。発動しているところを見るのは初めてだったな」


 俺は考えた! あの無垢で頑張り屋さんなニュー蜘蛛君に呪いを掛けられないならどうするか! その答えは簡単だった! 呪いが駄目なら結界内に閉じ込めればいいじゃない!


 という訳で、出鱈目にお札が張られた注連縄を、ニュー蜘蛛君の周りに張り巡らせて閉じ込める。


(なにこれなにこれ!?)


 あたふたと一回転して周りを見るニュー蜘蛛君……か、可愛らしい……。


 いや、それよりやっぱ疲れるなこれ。人間形態で第一形態の力を引き出して無理してるから当然なんだけど。


(よく分からないけど突撃ー!)


 ふ、甘いなニュー蜘蛛君。その結界はベルゼブブすら閉じ込めたんだ。君で、え?


(通り抜けた!)


 ちょっ!? なんで素通り!? つかはやっ!? よけっ!? むりっ!?


(えーい!)


 ドン!


「ぐえええええええええ!?」


 あいたあああああああ!? 頭から訓練場の外へ叩き出された! いたたたた! というか何で素通り出来たの!? ニュー蜘蛛君ひょっとしてベルゼブブより強いの!?


「んんん? 私から見ても、教員をしている東郷の、後先考えないで出せる本気の結界並だったが……」


 珍しくゴリラが顎に手を当てて首を捻っている。タイトル、考えるゴリラ。ぷぷ。というか清楚美人東郷さんのお姉さん、本気でやったらやばいんっすね。まあその東郷さんも、ゾンビと組んだらかなり、というかめちゃんこヤバいんですけど。


 ん? 清楚?


 ま、まさかあああ!? ひょっとして俺の結界って!


(勝利のブイ!)


 あ、可愛い。じゃなかった! 悪とか程遠い無垢とか善に効果無いんじゃああああ!?


「まあこれはあくまで式符だからな。貴明の力と何かしらの不具合が起こったんだろう」


「そ、そうですね! あはは!」


 やべえよやべえよ。俺とニュー蜘蛛君の格付け完了しちゃったよ。これどう頑張っても人間形態じゃ勝てねえじゃん。善と言っても契約天使は常世、契約者が現世というカバラには多分効く。が、無垢で善で、本当の意味では生物じゃない式符のニュー蜘蛛君には全く効かないんだ……人間形態とはいえ、俺と親父を倒したニュー蜘蛛君って、対邪神用の決戦兵器なんじゃ……なるか? 第四形態なっちゃうか? フルパワー、100%中の100%。俺様の真の姿見せちゃうか?


「次の小夜子を呼んでくれ」


「はい!」


 ま、まあいい。三者面談で俺の満点は約束されていると聞いてるんだ。これこそ語学に並ぶ真のチート、人脈! そう、人脈さえあれば裏入学だろうが採点の誤魔化しだろうが何でも出来るのだ! これは俺とゴリラの仲なら当然! いやあ、これで主席としての面子は守られた。チート三種の神器、語学、人脈の二つを持ってて助かったな。後は金だけだ。


「お姉様お待たせしました!」


「ふふ。白蜘蛛ちゃんだったかしら?」


「は、はい!」


 次の順番だから、訓練場の外でお待たせしていたお姉様を呼ぶ。いやほんと、俺もそうだけどお姉様こそ実技のテストなんか必要ないだろ。


「それじゃあ行きましょうか」


「はい!」


「こら貴明。テストは非公開だ」


「すいませんでした!」


「ばれちゃったわね」


 出来るだけ何気なく訓練場に戻ったがゴリラに見つかってしまった。ちっ。


「それなら早く終わらせるわね」


「お待ちしてます!」


 訓練場の扉が閉まった。


「お待たせ」


 開いた。


 はええええええええええええ! 一分も経ってないですよお姉様! いや分かり切ってた事だったからゴリラも平然としてるけど、それでもはえええええ!


「でも暇になっちゃったわね」


「そうですねえ」


 教室へと戻っている最中にお姉様が呟かれた。テストが終わったから帰ってもいいのだが、確かにちょっと時間が余り過ぎている。


「こっそり覗いて暇潰ししましょうか」


「そうですね!」


 という訳でボンレス、じゃなかった。第一形態変身!

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