異能者とは

「はいあーん」


「あーん!」


 いつもお昼休みに食事の為使っている屋上は、雨のせいで使えないため、殆ど来た事のなかった食堂で昼食を食べている俺とお姉様。


『怨怨怨怨怨』

『バカップル共死ね死ね死ね死ね』

『だから梅雨時は嫌なんだ』

『雨の中屋上で食ってろ』


 いやあ、しかしどうして食堂中が、こんなに恨みまみれなんだ? ねえそこの男の先輩、どうしてだと思います? ぷぷぷ。ざまあ。


「お姉さまあーん!」


「あーん」


 また恨み値が上がったぞ。これは120%超えたね。


 それにしても広い食堂だ。300人位が余裕で飯食ってる。しかも、この規模の食堂が後何か所かあるとは、この学園のデカさと生徒の多さが分かるってもんだ。オラ、都会に来た感じがするっぺ。


 あ、佐伯お姉様と橘お姉様が一緒だ。やっぱりあのお二人……。


 ところでこの食堂、変な閥が出来ない様に、各食堂で日替わりランチが被らない様にとか、場所とか色々考えられている様だ。この閥は勿論魚派と肉派の戦いではない。


『昨日、アメリカのロサンゼルスで、異能力過激派と異能力排斥派との間で衝突が発生し、重傷者が複数名出ているようです』


 これだ。


 偶々テレビで流れてきたこれこそが、まさに世界の歪み。


 上に立った。進化した。我々こそが。劣った存在。異形。歪み。傲慢。嫉妬。侮蔑。恐怖。いらない。必要ない。


 あーやだやだ。


 こんなのだから、昔の異能者は表に出てこなかったんだろうな。面倒なことになるのは目に見えてる。ついでに増長して、世界を支配するのは我々だって連中も粛正したとなると、昔の人に頭が下がる思いだ。


 まあしゃあない。極まった異能者は戦車どころか空母機動艦隊だ。偶に聞く、銃社会なら武装してるのは全員だろって論法はちょっと当てはまらない。銃如きで止められるのなんて呪術師くらいのもので、パラノイアを発症するのも無理はないな。隣で空母から戦闘機が発艦しながら、近接防御火器が起動しまくり、ミサイルが撃ちまくられる横で飯食うなんて、一般人には無理無理。


 ただまあ、そんな極まった異能者なんか一握りも一握り。世界全体でも30人はいかないだろう。その内10をカバラが占めてるとなると、バチカンのヤバさが分かるな。残りの更に10、いや今は9がまさかの実在した逆カバラの悪徳で、後10ちょいが大国とか歴史ある国に1人か2人がいる程度。そのビッグ10にかつて学園長が入っていたと考えると、いかにゴリラがヤバかったか分かるだろう。最近どうも、かつての強さを取り戻した疑惑があるが。


 だが核ミサイルの数と比べたら微々たるもの微々たるもの。


『過激派は、我々こそが真に選ばれた新人類であると主張し、排斥派は異能者を歪んで間違った突然変異を起こした存在であると主張しています』


「人間って変わらないものね」


「本当ですね」


 お姉様の言う通り、こいつらの主張全く変わりがねえ。異能者が増え始めたのは俺が生まれる前後位だが、ブラウン管に映ってる時からこの主張だ。進化論持ち出すの止めろよ。ダーごっほんが助走をつけて殴ってくるぞ。


 考えが逸れた。とにかく、出来るだけ同じ食堂に同じ生徒が来ない様に、ぶっちゃけ優秀な推薦組が一般クラスの生徒相手に、ここは俺らの縄張りだぜとか言いださないようにしているのだ。アメリカのスクールカーストかな?


 ああ現代の縮図。ここでも優劣から生まれる特権が発生しない様に、涙ぐましい努力が行われている。尤も、そんな事した日には学園長が助走をつけて殴ってくるだろうが。


 だが推薦組も学園長が殴り掛かって来るのが分かってるから表立ってそんな事はしないが、先輩方を含めてそこそこな数の名家出身の生徒が、自分達が普通の人間より上だと思っているから、この努力も必要なのだろう。


 全く。我が帝国の頂点はお姉様ただお一人。その下に俺がいて、後は全員平等だというのにこれだ。大体母数じゃ普通の人の方が33-4で圧倒しているのに、上もクソもねえ。インフラ維持の大変さと、今食ってる飯を誰が作ったかご存じない?


「隣いいかい?」


「ごほっ!?」


「ええどうぞ」


 唐突に話しかけられて横を見ると、そこにはトレーを持った佐伯お姉様と橘お姉様のお二人が!

 俺は間違えた。佐伯お姉様と橘お姉様も俺より上にいらっしゃった。でも佐伯お姉様、そんな急に話しかけられると、飲んでた水が気管に入っちゃいます。


「気が滅入るニュースやってるねえ」


「ええそうね」


「実家の両親は能力者じゃないから、どうしたってこの手の話題は気になってね」


 佐伯お姉様のご実家は大企業だが名家という訳でなく、その先祖に能力者はいなかったらしい。つまり、突発的に異能力に目覚めたお姉様は、色々苦労されたようだ。


「それに……まあこれはいいや」


 どうされました佐伯お姉様? 何かお悩みでしたら、不肖この邪神がお役に立ちますよ? ご安心ください。今まで数々のお悩みを解決して来た僕ですから。そうですね、例えば蜘蛛君とか。


「そういえば戦闘会のチームに悩んでるそうね」


「ああそうなんだよ」


 むむむ。これはやはり俺の出番か!?

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