出動5
ウインナーおいしかった。
「では諸君。昼からも気を抜かずに行こう」
勘弁してくれませんかね学園長。
お姉様達との素敵なお食事会が終わり集合地点に向かうと、そこには既に学園長がスタンバイしていた。このゴリラもう少しゆっくり出来ねえのか? まさかバナナ一本食って満足したんじゃないだろうな。それかプロテインだ。
いや本当に勘弁してほしい。また幼稚園児の行列を市民の皆さんに披露するんですか?
「それでは出発する」
するんですね。はい分かりました。
まあ、午前中のゴキブリは例外で、新月の日とはいえ、平日の昼間っから出てくる妖異なんかいないから楽でしょ。本番の夜は先輩達に頑張ってもらおう。
しかし、この信号を待っている間はどう考えても……。
「本当にお散歩ね」
「ですね……」
お姉様の言う通り、これで学園長が横断歩道の旗でも持ってた日には、明日から異能学園は異能幼稚園に変更されるだろう。我が帝国が何と言う事だ……。
ってあれ? おいおい。あのバイク急ブレーキして再出発しやがった。後続車が困ってるじゃん。
ウウウウウウウウウ!
ぷぷ。煽り運転したバイクが覆面パトカーに捕まってやの。ざまあ。ってこっちに突っ込んで来たあああああ!? いや、舐めとんのかワレ! こっちとら異能者の集団お散歩なんやぞ! おどれなんぞ一瞬であの世行きや!
「げっ!?」
あのバイカー元々あの世に行っとるやんけ! なんせヘルメットが落ちたと思うたら首から上無いやん! 首無しライダーなんか!?
「ふんっ」
ぷぷ。なら余計に遠慮する必要ないじゃんとばかりに、学園長が首無しライダーをぶっ飛ばした。笑える。
「首無しライダーとは久しぶりに見たな」
そりゃそうでしょう学園長。あれ昭和の遺物じゃん。いや、ぎり平成入ってるか?
「あいつらの最盛期はどうでした?」
ちょっと疑問だったので俺が学園長に問いかける。口裂け女ほどメジャーではないから、それほど詳しくないのだ。
「止まっていようがいきなり時速200㎞は出せる奴だったな。驚いて初見の時は危うく轢かれかけた」
うへえ。いきなり時速200㎞でバイクが突っ込んでくるのかよ。そりゃビビる。
おっと、覆面パトカーからお巡りさんがやって来た。職務質問はゴリラに任せよう。署まで同行お願いしますって言われたら受けるんだけど。
◆
◆
ちょっとアクシデントはあったものの、お散歩自体は何もなかった。まあ、この街に異能学園が出来てから、昼間に妖異が出てくることは滅多に起こらなくなったため、ゴキブリと首無しライダーの二体が出て来たこと自体珍しいのだ。
「では諸君解散。ご苦労だった」
現地集合現地解散。効率的で僕は好きですよ学園長。
「じゃあね四葉夫妻」
「ええ」
「お疲れさまでした!」
ひらひらと手を振る佐伯お姉様に最敬礼してご挨拶する。どうやら橘お姉様と一緒に帰るようだ。やっぱりあのお二人……。
「そこのお姉さん達少しいいかな?」
何奴!? 街中でござるぞ!
少し離れた佐伯お姉様達に声を掛けたのはイケメン三人組。馬鹿な、これはひょっとしてナンパ!?
「ボク達かな?」
「そうそう。これからちょっとお出かけしない?」
ええいどいつもこいつも顔面偏差値90はあるような奴等だ! まさにエリート中のエリート! 将来顔面官僚間違いなし!
「悪いけれど男の人に興味が無くてね」
や、や、ややややっぱりいいいいいいい! やっぱりそうなんですね佐伯お姉様!?
「それならなおさら俺達と遊ぼうよ。ちょっとは良さが分かるって」
「はっはっは」
ちょっと面食らっていたイケメン達だが、佐伯お姉様の言葉が変な琴線に触れたのだろう。食い付きが凄まじい。まあ、佐伯お姉様は笑って、橘お姉様は全く我関せずで相手にしていない。が、男達もかなりしつこい。
それなら男貴明、突貫します!
いけなーい遅刻しちゃーう!
お姉様と男達のほんのわずかな隙間。そこ!
「あ痛ああああああああ!?」
その僅かな隙間の間にすっころんだ俺。完璧。
「痛いよおおおお。痛いよおおおお」
「おっとこれはいけない。病院に連れて行かないと」
流石です佐伯お姉様。こちらの意図を完璧に理解してくれている。
「い、いや、そんなに大怪我じゃないみたいだし、それよりさ」
この野郎共しつこすぎる! これだけは使いたくなかったが仕方ない。
「痛いよおおおおおおおおおおおおおお!」
必殺大声で泣き喚くである。社会的立場の代わりに周囲の注意を引くことに成功した。これには流石にイケメン達もドン引きして周囲の目を気にしてしまう。
「おい行こう」
「ちっ」
「クソが死ねよ」
ようやく諦めたか。さっさと帰れ帰れ。あとその舌打ち覚えとけ。それとお前が死ね。
「いやあ助かったよ貴明君」
「お役に立てて何よりです!」
「男避けに、男に興味がないって言ったら逆効果だったな。次からは無しだね」
そ、そう言う事だったんですね! で、でも本当なんじゃ……。
「とにかくありがとう。じゃあね」
「はい!」
うーむ。夕焼けと共に颯爽と去っていく佐伯お姉様達。なんて絵になるんだ。
「それじゃあ私達も帰りましょうか」
「それがですね」
成り行きをいつもの素敵な笑顔で見ていたお姉様だけど、ちょっと僕寄り道して帰ります。
◆
「ちっ。なんだよアイツ。頭おかしいんじゃないか?」
「なー。勿体なかったなあ」
「今からでもまた別の探す?」
車に乗りながら悪態をついているイケメン三人。くそ、ちょっとくらい俺にもその偏差値分けてくれよ。
「あーそうだな。適当なの引っ掛けてまたやろう」
「だな」
「そうしよう」
「そうだね!」
「は?」
「てめえさっきの!」
「何でここに居やがる!」
返事が一人多い事に気が付いた誰かが間抜けな声を出す。いやん、ようやく気が付いてくれたのねん。
「とっとと降りやがれ!」
「暴力反対!」
顔を殴られてしまった! こっちとら偏差値低いんだからこれ以上下げるんじゃねえ! あ、ほら崩れちゃったじゃん!
「ひ!?」
「な、なんだ!?」
「どうなってんだよ!」
どろりと顔が崩れてタールになってしまった。いやん。
「車が!?」
「俺はアクセル踏んでねえぞ!?」
そしてなぜか急発進する車。いやあ、自動運転搭載車だったんですね。偏差値高いとお財布にも余裕があるんだなあ。あ、スピードは首無しライダーの全盛期には及びませんが、とりあえずフルアクセルで行きましょう。
ところで皆さんにべったりくっ付いてる女の人もそのお陰ですかね?
「実は優子さんからご相談を受けましてね。皆さんが憎くて憎くてしょうがないらしくって死んでほしいそうです」
「ああ!? 誰だよそれ!?」
「またまたー。皆さんが居酒屋でナンパして、こっそりお酒に眠剤入れてお家に連れ帰った後、強姦した女性ですよ」
「なんだと!?」
「可哀想に……その後気に病んで自殺されましたが、皆さんになんとか憑りついたんですよ。でも呪い殺すほどの力がないみたいで、それで僕が相談を受けたんです。いやあ、長く苦しむコースも提案したんですけど、どうも今すぐ死んでほしいみたいで」
「ドアが開かねえ!」
「おい車から降ろせよ!」
「助けてくれ!」
「という訳で皆さんさようなら」
半狂乱になっている男達だが、もう壁はすぐそこまで迫っている。いやあ、誰にも迷惑かけない様に血中アルコール濃度も上げましたし、ここ昔妖異がしょっちゅう出てたせいで、国が管理してる建物なんすよ。だから特に地価とか気にせんでいいでしょ。
拉げる車内。飛び散る血。
「あ、奪衣婆に六文銭なんて今どき誰も持ってないって伝えておいてください」
ってもう聞こえてないか。
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