出動2

 下ーにー。下ーにー。お姉様行列であーる。


「お、今年の新入生達か」

「幼稚園児のお散歩みたいだ」

「観光ツアーじゃね?」

「すっげえ美人が何人もいるんだけど」

「ちょっと声掛けれないかな?」


 うっせえよギャラリー共、土下座しろ! 無礼打ちするぞコラ! 俺だけじゃなくて クラス全員がお散歩みたいだって自覚あるんだよ! あ、ほら清楚美人な東郷さんとか、俯いて顔上げられなくなったじゃん!


 ごっほん。まあ、庶民共の言う事も尤もだ。これでバスガイドのゴリラが旗でも持ってたら、完全に観光旅行でクラス30人がぞろぞろ歩いているのだ。平気な顔してるのはお姉様、橘お姉様、佐伯お姉様の3人だけだ。佐伯お姉様はキャーキャー言ってる小娘共に、手まで降ってる余裕っぷりである。流石です佐伯お姉様!


 だが我慢だ。初回だからこれなのだ。あと2回くらいお散歩すれば班が作られて、少人数で決まられた場所を巡回するだけになる。ちょっと待て、あと2回もこれやるの? 俺死んじゃうよ? 満月新月でも朝昼に妖異が堂々と出るわけないじゃん。いや、土地に縛られてたり強力なのは普通に出てくるけど……。


「そろそろ日傘も必要かしら? あなたと一緒に相合傘とか」


「今すぐ買ってきますお姉様!」


 お姉様と相合傘……! 待っていてくださいねお姉様! 今すぐお洒落なの買ってきます!


「こら待たんか貴明。授業中だ」


「ぐえっ」


 学園長に首根っこを掴まれてしまった。こ、このゴリラ反応が良すぎる! これが元日本最強の実力なのか!


「今度買いに行きましょう」


「はいお姉様!」


「全く……。む? この空きビル……」


 どうしました学園長? 至って普通の空きビルじゃないですか。強いて違うところを上げるとするなら、世界危険分類にも属さないような、クソ雑魚妖異の気配がするってとこですかね?


「このビルから何かを感じる者はいるか?」


「はい!」


 いつもと変わらず主席として元気に挙手。これで皆さんも手を上げやすくなるってもんだ。でも手を上げてるのはお姉様達だけだ。


「うむ。非常に微弱ではあるが妖異の気配がする。極最近生まれたばかりなのだろう」


 ですね。ぶっちゃけ雑魚過ぎて、学園長が立ち止まるまで気が付きませんでした。


「それではこの場合最善の手は?」


「はい! ビル丸ごと浄力の使い手に浄化してもらいます!」


「うむ。妖異の位置が詳しく分からない現状それが一番いい」


 あれ? 皆さん、よかった吹き飛ばすなんて言わないでって顔してません? やだなあ、市街地でいきなりそんなこと言うはずないじゃないですか。


「では浄力の使い手がいない場合は?」


「丸ごと魔法使いに吹き飛ばして貰います!」


「うむ」


 それは二番目ですよ。


「だが市街地ではその手は取れない。しかし最初にはそう考えなさい。その後に初めて敵のいる場所に、敢えて悪い言い方をするが、のこのこと入り込むかを考える事になる」


 こちらの人命には代えられませんもんね! 金銭で片付くなら片付けましょう!


「という訳でこの程度の雑魚ならビルごと浄化しよう。では使える者はまずビルに結界を張ってくれ」


「はい」


 橘お姉様を始め、ずっと俯いてた東郷さんなど、浄力の使い手の皆さんが観光ツアーから抜け出して結界を張る。


「それでは浄化を」


「祓い給い清め給い」


 小さなビルの上に浄力を使える人達は、皆名家出身の人ばかりだ。この程度ちょちょいの……? おかしくね?


「なんか、祓えてないっぽくないかい?」


「そそそうですね佐伯お姉様!」


 びっくりした! 急に佐伯お姉様に話しかけられたからびっくりした! でも佐伯お姉様の言う通り、ビルの中の気配が消えていない。変だな。幾ら学生が使い手とは言え、耐えれるような気配の強さじゃないのに。


「妙だな。少し様子を見てくる」


 行ってらっしゃい学園長。その間お姉様達は僕にお任せください。ってなんか半分死にかけてはいるみたいです。よたよたこっち来てますけど。


 あ、見える所まで来た。


「んぎゃあああああああああああ!?」


 何事!? 急に視界ゼロに! メインカメラが見えなかったら戦えません! 敵はどこだ!? って言うこの耳元の叫びは誰!?


「あわわわわわわ!?」


「はわわわ!?」


 佐伯お姉様!? 佐伯お姉様なんで!? どうしてあわあわ言いながら僕に抱き着いてるんですか!? 一体敵はどんな恐ろしい怪物だったんです!? おのれこの邪神が成敗してくれる! どうかご安心ください!


 見えたああああ!?


「ぎゃああああああああああああ!?」


 しぶといのも悲鳴が上がるのも納得だ! 奴は!


「ゴキブリだあああああああああ!」


 ピクピク痙攣しながらビルの入り口から這い出て来たのは、大体1メートルほどのゴキブリだったのだ!


「きゃああ!」


 そりゃ女性陣の皆様が悲鳴を上げて逃げ出す寸前な訳だ。しかもこいつ、ゴキブリの妖怪かもって言われてる火間虫入道の姿じゃなくて、正真正銘の1メートルのゴキブリなのだ。


 一体何があったらこんな妖異が……。


 あ、力尽きて消滅した。南無ー。


「佐伯お姉様もう大丈夫です! 奴は力尽きました!」


「本当だね!? 嘘だったら血を見るよ!?」


 本当ですから早く離れて下さい! は、鼻血を見る事になりますよ!


「また変わったのが出て来たな」


「そうですわね学園長。もう夏ですから出て来たんでしょうか。こう、全国のゴキブリに対する恐怖心で」


「流石に夏中ゴキブリの相手は御免被るな」


「私もですわ」


 お姉様助けて下さい! このままじゃまた鼻血がブーに!


「ほら飛鳥離れて頂戴。夫が死んじゃうわ」


「じゃああれはもういなんいんだね!?」


「ええ、ゴキ」


「その名前は言っちゃダメ!」


「もう、ツノムシはいないわよ」


「そ、そう……ふう。いやあ、悪かったね貴明君。ははははは」


「い"え"ど"う"い"た"し"ま"し"て"」


 今すぐ止血しないと死んでしまう。


 人間が 鼻血を出したって いいじゃない 四葉貴明辞世の句

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