■■■たる■の■の猫よ
「中々いい所にいるわね。変な廃病院なんかに居られるよりはよっぽどいいわ」
「ですねお姉様!」
俺がワープするためには第一形態になる必要があるため、一瞬で変身して一瞬でワープし一瞬で元に戻ると、そこはどこかの山荘であった。とッ捕まえた呪いの繋がりを辿ってワープしたため、詳しくどこかは分からなかったが、夕暮れ時という事もあって、非常に雰囲気のいい所だ。お姉様と旅行するならこういう場所がいいなあ。
まあ呪術師なんかがちゃんと契約して借りてるわけないから、無断で居座ってるんだろうが。ご丁寧に人避けの結界も張ってるし。
「じゃあ猫君頑張ってね!」
ノックも挨拶も季節の贈り物も無し!
「何だこの妖気は!?」
「バ、バケモンだ!」
「何が起こってるんだ!?!」
猫君を式符から呼び出すと出るわ出るわ。猫君の妖気を感じて飛び出して来たのが、全部で10人。しかも全員能力者ときた。思ったより組織で行動してたんだな。これは猫君の実戦に丁度いい。そして第一形態は既に学生達でテストしていたため、最初っから猫君は真の姿となっている。
即ち
背は虎、胴は山羊、足は狸、尾は2匹の蛇。
そして獅子の顔。
悪夢の具現。この世の物とは思えぬ造形。
モチーフはテュポーンとエキドナの娘。
そして
名称不明、正体不明、来歴不明。
猫君は
キマイラであり
『ヒィーヒィー』
鵺なのだ
「き、キ、キメラだ!」
ま、顔が獅子だからそう思うよね。
「な、なんだお前らは!?」
おっと、トラック並のデカさの猫君だけじゃなくて、俺とお姉様にも気が付いた奴がいるな。褒めて遣わす。
「どうもこんちは。突然ですが適当に戦って死んでください」
「は?」
藤宮君のお母さんも、突然訳の分からない内に呪われたんだ。全員黒なこいつらには丁度いいだろう。全員誰かしらの死に関わってるから、お釈迦様も許してくれる。
『ヒィーヒィー』
「来たぞおおおお!」
猫君が、獅子の頭のモノとは思えぬ、鳥の鳴き声を出しながら突進する。上擦った叫び声が上がるが、トラックがいきなり突っ込んで来たらそりゃビビるだろう。
「超能力砲!」
「風神よ! 大いなる風の力をここに!」
「風が木を断つ鉄を断つ 風切り!」
「俺の妖刀を食らえ!」
おっと、ちんけな三下ばっかりだと思ってたらそこそこやるな。腕が立つのは呪術師だけだと思っていたからこれは誤算。
『ヒィーヒィー!?』
山荘のある山だけあって、連中が選んでいるのは風の攻撃ばかりだが、それが猫君の体に次々と鋭い傷跡を残していく。
いやあ、今の猫君特殊な能力が一つだけだから、落ち着いて集中放火されるときついなあ。しかもしかも、第一形態の猫君は大鬼と言ってもいいけど、今の鵺モードの第二形態はぶっちゃけそれの下、単なる危険である危鬼程度しかなく、帝国の二、三年生くらいなら普通に殺せるくらいだ。
つまり
弱いのだ! それもかなり!
変身して弱くなるとか不具合かな?
「こいつ見かけの割に対したこと無いぞ!」
うっせえ大したことないとか言うな! 猫君が傷付くだろう! 物理的に傷つきまくってるけど!
『ヒィー!?』
あ!?
ね、猫くーん!?
真正面っから風の刃が当たって、顔が真っ二つに裂けちゃったよ!
「あちゃあ。猫君やられちゃいましたねお姉様」
「ダメよ猫ちゃん。もう少し頑張らないと」
「お前らはいったいなんだ答えろ!」
やっぱり大鬼程度の猫君じゃ厳しかったか。
しゃあない猫君もう一回がんばろっか。猫君頑張えー。
『にゃあ』
「は?」
切り裂かれた獅子の顔が瞬時に元通り。という訳ではない。再生し終わったその顔は獅子ではなく、無感情な表情となっている猫となった。
難しくてさっぱり分からんかったけど、箱の中の猫は、箱を開けるまで生きてるか死んでいるか確定しないんだってさ。本当かよ? 俺間違った解釈してないか? ま、まあでも猫君は確定している。
倒れ伏したはずの体は全てが元通り。
力も、体力も。
切られた体も、欠損した部位も。
何もかも元通り。しっかりと大地に立っている。
「な、なにがっ!?」
『にゃあ』
「ごぼっ!? ごぼぼぼぼ!?」
戦いの最中だというのに、あろうことか呆然としていた術師が一人、蛇の尾に喉を噛まれて絶命する。ちょっと能力があってもやっぱり三下だったか。呆けてる暇があったら攻撃しろよ。学園長なら無言で殴りかかるぞ。
「一旦退却だ! 何かこいつ変だぞ!」
「か、壁だ! 見えない壁がある!」
「超能力の壁か!?」
猫君が変だという判断は正しいけど、逃げようとしても無駄だよ無駄。ここは箱の中なんだ。猫君が入っている箱の中。ここから逃げるなら箱の主を倒さなきゃ。
「ちくしょう! アイツを殺すしかねえ!」
「風よ刃となりて敵を討て!!」
「超能力砲!」
「死ねやあああ!」
『にゃあ……』
腹を括った連中の攻撃で再び猫君が倒れる。
『にゃあ』
箱を開けると猫君は死んでいない。全て元通り。
「なんで死なねえ!?」
「い、一体どうなってるんだ!?」
「不死身なのか!?」
「もう一度だ! もう一度殺せ!」
『にゃあ……』
また始まる攻撃。そして倒れる猫君。
『にゃあ』
箱を開けると猫君は死んでいない。全て元通り。何度でも。何度でも。何度でもだ。何度でも。
違うのか? それとも合っているのか?
自分の死ぬ
自分が死んだ
そして元通り。
そして
猫君は
不死身たる箱の中の猫なのだ。
猫は死んでいない。死んでいない。死んでいない。しししししんんんんんででででででででいいいいいいいいなななななないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
人が死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ死んだ死んだ死んだ。
体力気力魔力超力霊力浄力。全ての力がつきていく。膝をついていく。
勿論猫君も。
でも箱の中身はいつも同じ。開けたら生きている。絶対に死んだ結果が出てこない。
そしてまた1人死んだ。
「クソッタレええええ!」
最後の1人。藤宮君のお母さんを呪った呪術師が叫ぶ。叫ぶ暇があったらなぜ呪力を込めない? ああ、もう尽きているのか。あんたも分かったかい? 猫君第二形態のコンセプトは、第一形態とはまるで逆。多数の能力で翻弄するのではない。
ただただ、相手が力尽きるまで。死ぬまでただひたすら。ただただ、ただひたすら真正面から馬鹿正直に食らいつく。どうにかしたけりゃ、ありし日のノルン三姉妹を連れてくるんだな。
『にゃあ』
「ぐぷっ!?」
そして最後の呪術師が猫君に頭から丸ごと食われた。これでおしまい。猫君は全くの無傷。敵は全滅。
「あら、終わったかしら?」
「はいお姉様! 猫君の圧勝です!」
猫君が2回目に死んだ辺りから、スマホを使っていたお姉様が顔を上げる。やっぱり同じことの繰り返しは退屈だったらしい。お姉様を退屈させるなんて、精進が足りんね猫君。
「ちょっと調べてたんだけど、外食はこのレストランなんてどう?」
「いい雰囲気の所ですね! 早速行きましょうか!」
どうやらお姉様は、これから外食に行く場所を調べていたらしい。デートなんだからこれはすぐに行かねば! 帰りは蜘蛛君か、猿君の気配を辿ってワープ出来るから一瞬だ!
遺体は全部猫君が食べた! 忘れ物無し! 俺とお姉様がいた証拠なし!
「じゃあ行きましょうか!」
「ええ」
これからお姉様とデートだデート。でへへ。
■
後書き
ただ決まった結果が淡々と出る描写をしたくて、敢えて詳しく戦闘描写をしなかったですけどどうでしたかね……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます