非主席的

「お母さんの症状は意識がないだけ?」


「ああ」


まだ学校が終わっていないにも関わらず、タクシーで病院に向かう俺と藤宮君。なんて不良なんだ。明日から長ラン着てこよう。背中には主席惨状、じゃなかった参上だな。


「目とか爪は黒くなってない?」


「ああ、俺もこの前四葉が言ってたことが起こっていないか確認したんだがなかった」


ふーむ。何かしらの病気ならお手上げなのだが、呪いと仮定したらそこそこなヤツだな。神官が気づかない、目と爪に異常がない、その上外部からの刺激に対して無反応。じっと我慢が出来る呪いを扱うのは、活発で他の人間にも襲い掛かるヤツと同じくらいの技量がいる。しかもこういうタイプは稀に、自分の体が9割削られても動かない事があるから、完全に祓ったかどうか判断しにくいため面倒くさいのだ。


「お客さん着きました」


「ありがとうございます」


さて、ここが藤宮君のお母さんの病院ね? 自信満々に受けたけど、本当に病気だったらどうしよう……。



さて、ここが藤宮君のお母さんの病室ね?


「何か分かるか?」


「呪いだね。間違いない」


「やっぱりか!」


病室のベッドで寝ている、イケメン藤宮君のお母さんだと納得のマダム。その体の中には間違いなく呪詛あった。しかし……かーっぺっ! 流石に紀元前モノレベルは出てこないだろって思ってたけど、俺様相手に3年モノくらいの呪いとか舐めてんのかコラ! ま、術の力量は素人から卒業できてるなって認めてやってもいいけどな!


「ちょっと祓うのに協力してもらっていい?」


「勿論だ!」


「じゃあちょっとお母さんの髪の毛一本貰うね」


お母さんの体に俺の腕を突っ込んで、外に呪いを引き出すのが簡単だけど、流石にそんなことしたら藤宮君が泡吹くだろうから止めておこう。


えーっと、この紙でいいや。人型に折って、お母さんの髪の毛もくっ付けてっと。


「じゃあ藤宮君には、お母さんのお腹に頭を乗せて貰います。その時、急に頭を僕が離すので、力は抜いててね」


「分かった!」


まさに藁にも縋る思いなのだろう。余所から神官を呼んでくるという発想がまるでないみたいだ。そこらの神官じゃちょっと無理だから、そっちの方が都合がいいけど。


「はい、それで手はお母さんの胸ね。心臓の動きを意識してー。そうそう。目を閉じて―。物理的には無理だけど、イメージとしてお母さんの心音と、自分の心音を重ねるようにしてみてー。はい釣れたー。はい封印ー」


馬鹿呪いめ! いきなりお母さんの体が倍以上になったと錯覚して、態々藤宮君の方へ確認しに来やがった! こういう馬鹿呪いは、本人と肉親の区別が出来ていない事が多いから、まさに雑魚なのだ。後はもう簡単。藤宮君の頭を離して、うっかりお母さんの体から飛び出した呪詛を人型に封印するだけだ。


「はい終了ー」


「お、終わったのか!?」


「終わったよ。あと1時間くらいで目が覚める筈」


「あ、ありがとう四葉! 本当にありがとう!」


いやあ、そんなにお礼言われると照れちゃうね!


「それじゃあ後はお母さんと2人っきりでどうぞ」


「待ってくれ! ちゃんと母さんにも四葉の事を紹介しないと!」


待つんだ藤宮君。それはちょっと別の意味に聞こえてしまう。


「この人型処分しないといけないんだ。おっと大丈夫、とっておきの呪詛返し食らわせるから、もうこんなことは起きないよ。それじゃあー」


「お、おい四葉!」


呼び止める藤宮君を無視して、すたこらっさっさと病院を後にする。こういう時邪魔しちゃダメだってパッパとマッマも言ってた。おえ。親父とお袋も言ってた。よし。


さて、この呪詛どうしてくれよう。一応正当性の確認はっと、真っ白。やっぱりね。いやあ、しかし呪術師さんに、自分が放った呪いをとっ捕まえられたら、どうなるか教えてあげないとねえ。


それではそれでは、依頼主は誰かなーはっ? 何で? 呪術師が自分で呪ったの? 何で? え? 身代金? このご時世に? 治して欲しけりゃ金寄こせ? 何で? 今何世紀だと思ってるの? 馬鹿なの? 死ぬの? 何人か殺ってる? 殺ってるね。隠れてそこそこ上手くいってたから、今度はドカンと狙ってみたのね。黒だね。じゃあ死ね。おっと待てよ? そういえば猫君のマジモンの実戦テストがまだだったな。蜘蛛君は図らずとも、猿君は学園長とガチンコで出来たから、猫君に頑張ってもらうか。丁度戦闘会は対人だから今暇なはず。


もしもし猫君聞こえますか? そうですお姉様の下僕四葉貴明です。君にお仕事があります。そうです望んでいたお仕事です。我が帝国の臣民のお母様が呪われたので、その原因の呪術師をぶっ殺してください。俺と一緒にワープしましょう。今とッ捕まえてる呪いを辿れば一瞬で着きます。学園長の方には初めて戦闘会で使用したので、不具合がないかの確認をすると言っておきます。


じゃあちょっと待ってね。一旦学園に帰って、お姉様にお話ししないと。



お姉様一緒に来てくれるって。


その帰りに偶には外食しましょうって言われちゃった。これってデートだよね。でへ。でへへへ。

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