強き強き強き猿2

もう今日は終わりか。


ツボッてしまったお姉さまを連れて、対妖異の戦闘会をしている会場に足を運んだが、お姉さま方も参加してなかったし、特に目新しいものも無かった。やはり皆さん慣れてる式符ばっかりだから、索敵もくそも無い。ちょっと背伸びして格上に挑んだ先輩達がやられてだけで、後は危なげなく倒していた。まあ初日だしこんなもんなんだろう。だから皆さん待っていてください。対応力が求められる式符ってやつを必ず作り出して見せますんで。とびっきりいやらしい奴を。


「放課後だが、わが校の単独者達と、アメリカの教師陣達が協力して特鬼の訓練符に挑むことになっている。特別強力な遮断結界のある第4室内訓練場で行うので、見学希望の生徒は行きなさい」


「先生、今、特鬼と?」


「そうだ。特に危険、特鬼だ。勿論どこから出てきた物かは言えん」


「そんな馬鹿な」

「異の剣からか?」

「訓練符とはいえ特鬼とかとんでもないぞ」

「予定空いててよかった。絶対見に行かないと」


放課後のホームルームで、この後予定されている猿君のワールドデビューについて学園長が言及し、クラスの皆さんも、急に出て来た特鬼の訓練符という単語にざわざわしている。それにしても一体どこから出て来た物なんだ……やはり胃に剣の物だろうなあ。違った異の剣だ。きっと世鬼の符もあるんだろうなあ凄いなあ。


「それでは伝達事項を終える。初めての戦闘会ご苦労だった。では解散」


さて俺も行くか。通訳の仕事は当初決まっていた係の人が来たからお役目御免だが、猿君のマネージャーとして応援に行かねばなるまい。


あれ皆さん全員行くんですか? 向上心ありすぎい! お姉さま方に対する醜い感情さえなければいい人達が多いんだけどなあ。ま、欲もあれば嫉妬もする。それが人間ってね。



「もう人が一杯ね」


「2階に上がりましょうか」


「そうしましょう」


さてやって来ました、これまたアホみたいにデカイ訓練場。皆さん急いでやって来たようで、ほぼ全学年の推薦組は揃っている様だ。そのせいで訓練場周りは一杯だな。比較的空いている2階の観客席みたいなとこにお姉さまと上がる事にする。


ああ、席に座って足を組んだお姉さまが素敵すぎる! ワイン持ってきましょうか!?


「猿ちゃん相手にどこまで頑張れるか見ものね」


「ですね!」


なんといっても猿君のコンセプトは、集団で襲い掛かって来る単独者を、上から力で押さえつけるというものなのだ。言うなれば対集団近接型式符! 鈍った単独者共なぞあっという間よ! まあ代わりに蜘蛛君の牛鬼化の様に、尖った個をほぼ完璧に封殺する事が出来ないが……。


「私も真面目に式神作りましょうか」


「あれ? 一番上等な符が手に入ったんです?」


お姉さまの力に通常の符は耐えられないが、ひょっとしたら最高級の符をどこかで手に入れられたのかも。


「いいえ、髪が長くなったから少し切って符に編み込むの。そうすれば大丈夫。やっぱり長すぎたら手入れが大変ね」


「ほへえ、お姉様の綺麗な髪好きですけど、やっぱり大変なんですね」


ドライヤーを使って30秒以内に髪を乾かせるかが切るかの目安の俺とは大違いだ。

おっと学園長が単独者達と入って来た。教官殿達や新兵君達も一緒だ。


「諸君集まっている様だな。これから単独者達とアメリカ校の教官達が共同で特鬼の式符に挑む。既に知っているだろうが、特鬼の出現が確認された場合、一定の基準に達している者には、世界危険機関からの命令で、強制的な動員が掛かる場合がある。そしてそういった者は、極稀にだが場合によっては海外へ派遣される事もあり、意思疎通がままならない中で戦闘するという事も起こりうる。そのため今日はそう言った視点でも学んで欲しい」


学園長、何度も言っていますが知りませんでした。でも皆さん頷いてらっしゃるのできっとそうなんでしょうね。でも海外かあ、お姉さまとの新婚旅行は……でへ、でぇへへ。


「後これは学園長としての小言になるが、これから海外との交流も活発になると思われるから、ギリギリ日常会話が出来る程度の英会話を身に着けてくれると嬉しい。カリキュラムも強化される。目下私も勉強中だ」


これは皆さんうへえっという顔で首を横に振ってます。すいませんね皆さんチート使って楽して。

ただブラックタール帝国の第一言語は日本語なので安心してください。第二言語は古代ローマ語です。そんなのあるか知らんけど。


「それでは早速始めよう。訓練の想定は、市街地付近に突然現れた特鬼との戦闘だ。通常は事前に調査を行うが、民間人の避難のためその時間がないものとする。非常に難しい想定だが、過去実際に数例あったことを知っておいて欲しい」


学園長、大事なことが抜けてますよ。僕が設定した奴ですよ。実戦形式だからって言った奴です。


「それとダメージの設定を上限いっぱいに上げている。といっても訓練符なため、一般人でも単独者でも感じるダメージは同じだ。精々箪笥に思いっきり足の小指をぶつけた程度だな」


そうそうそれそれ。

ついでに言うと、これにはまた皆さんうへっという顔だ。あんたみたいな全身筋肉には大したことないだろうけど、普通の感性からしたら御免被るから。たっぷり5分は呻く奴だから。


「それでは早速始めよう。起動」


そう言って訓練場から降りた学園長は、残っている単独者達と教官殿達に頷いて式符を起動する。


ごくりという雰囲気が会場全体から伝わってくる。そりゃヒュドラという例外を除いて世鬼はほぼ設定されているだけなため、実質特鬼こそが最の鬼、最大の悪なのだ。


バチバチバチ


式符から発せられる紫電と共に現れたモノこそ……。


「猿?」


いかにもその通り。無感情なヒヒの顔、全体的に原人の様なフォルム、そしてその体に纏わりつく黒い筋繊維の様なモノ。特徴らしい特徴はそれほどないだろう。


ただし













全長20メートル


『ゴオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおお!』


強く強く強く在れ


足が強い 力が強い 体が強い


まさしく怪物が襲い掛かった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る