これは主席。流石主席

「そういえば対呪詛の衛生兵がいませんね」


「私も気になっていた。泥を浴びたり針が刺さってもそのままだ。あの非鬼相手にそんな暇がないというのもあるかもしれんが」


気がついた事がある。

流石に模擬戦なため大きな傷は負わないが、蜘蛛君の呪いは戦闘中作用し続ける。だがそれに対して何かしらのアプローチを新兵さん達が取らないのだ。


「ちょっと実演してもらいますか?」


「ふむ。そうだなやって貰おう」


よし。学園長からの許可も貰った。教官殿達にちょっと大げさに顔を向けて目配せする。


蜘蛛君。聞こえますか蜘蛛君? 蜘蛛君の泥を受けて二日酔いしてるマッチョさんを、教官殿達と休んでる新兵さん達の間に投げるのです。そうです。訓練場から出さない様にです。泥と呪い状態が必要なのです。ではやって下さい。


『キキッ!』


『ぐおっ!? ぐおおおおお頭がああああ割れるうううう!』


素晴らしい足捌きだ蜘蛛君。新兵さんがぺしっと蜘蛛君の足で訓練場ギリギリに飛ばされた。


『メディーーーーック!』


そして蜘蛛君を止めて俺がこう叫べばもう完璧なはずだ。

うん、教官殿達の目がギラリと光った。


『呼ばれたぞ衛生兵! お前達に決まってるだろう! さあマイケルのケツを蹴り上げて、もう一度戦場に行けるようにしてやれ!』


『サーイエッサー!』


『マイケル話せるか!? 症状はなんだ!?』


『出血無し!』


あ、やっちゃった。

呪いは呪いでも強力な呪いなのに。


「あら、蜘蛛ちゃんの泥を被っちゃったのに無防備で近づいちゃったわね」


「お姉さまお疲れ様です! どうでしたか訳ありとか言われてる先輩たちは?」


「ぜーんぶダメ。用も出来なかったからあなたと一緒にいるわ」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


やっちゃった新兵さん達を気にしてたら、お姉さまが訓練室に入って来られた。お姉さまは通訳で俺が動けないから、空いた時間をいい切っ掛けになったと言いながら、少し興味を持っていた訳ありとか特殊とか言われてる先輩達を見に行っていたのだ。

だがどうやらお姉さまの興味を引く先輩はいなかったようだ。


『な、なんだ!? 頭がっ!?』

『いたたたたたたっ!?』


あ、新兵さん達が早速二日酔いの餌食に。ただゲロは吐かれても困るのでそっちは無しのだ。


「どうやら外科的治療と同じ要領で近づいたみたいだな。大鬼当たりの呪いでもそれでいいのだが」


「非鬼の呪術型って珍しいですか?」


「ああ、呪術を放つ鬼自体が珍しいからな。その上、非鬼の呪詛を受けるとまず短時間で死ぬ。だからノウハウが蓄積出来んのだ」


『汚染タイプか!?』


『ごおおおおお!?』

『ふ、ふらふらする……』

『頭痛があああ!』


あら教官殿達も驚いてるな。本当に珍しいみたいだ。

そしてその通り。強力な呪いの中には周囲に汚染を撒き散らす事がある。何度も言うがゲロは撒き散らすなよ。


「よろしい。生徒四葉貴明、主席として口頭で対処法を伝えなさい。ああ、見学中の学生達も分かるよう日本語でもだ」


「はい! 生徒四葉貴明、主席として口頭で対処法を説明します!」


ったくしゃあねえなあ。でも俺様主席だから仕方ないよね。かーっ主席って辛いわー!

だが任せろ学園長! 要は俺様がやられて嫌な事をそのまま言えばいいのだ!


『呪詛への初期対処は1に浄化2に浄化、3,4が無くて5に浄化です! まずは神聖な場を張って下さい!これによって対象者と自分の抵抗力を上げ、近づけるかの判断が出来ます!』


『神よ邪なるものを退け給え!』


新兵君達の近くで話したことを、学園長から貰った拡声器を使って日本語でもう一度話す。


『ぐわああああ! オールナイトで酒を飲んだ時並の気分の悪さだあああ!』


『ミスターこれは!? 症状が酷くなってます!』


『神聖なものに対抗している時点でこれは通常の呪詛ではありません。その場合活発に行動する、つまり汚染を広げれる力を持った呪詛と判断できます。そして残念ながらこのレベルの呪詛となると、現場で対象を苦しませずに治療する事はほぼ不可能です。彼の苦痛は仕方ない物と諦めるしかありません。そして自分の見立てでは、この呪いを浴びた場合猶予は5分もありません。後方のより強い神聖な場所に移しての治療も間に合わないでしょう。治療者も、被治療者も腹を括りましょう』


だから吐くんじゃねえぞ。いいな? 絶対だぞ?

ん? 呪詛が弱まった? いや違うな。


『ミスター! 呪詛が弱まりました! 今なら!』


『いえあれは擬態です。すいませんが一度近付いて皆さんにどうなるか見せてあげてください』


『サーイエッサー! ぐっ!? じゅ、呪詛がまだ!?』


『ありがとうございます。先程の様に弱まったとしてもまず擬態だと思って下さい。このレベルの呪詛となるととにかく狡猾で嫌らしいです。死んだふりやだまし討ちは当然の様に行ってきます』


呪詛が目に見えて弱まったため周囲の新兵君たちが色めき立つが、蜘蛛君レベルの呪いとなると殆ど生きてると言っていい。だからこんな面倒でも手順を踏む必要があるのだ。


『確認すべき点は眼と爪の色です。呪詛が活発な場合この2点は特に異常な色合いを見せます。今彼の目の端が黒色なのはこのせいです。浄化を続けて下さい』


『サーイエッサー!』


特に目は元が白いから特にわかりやすい。親父も贔屓の野球チームが優勝したら、目を真っ黒にして万歳三唱してたからな。厄うチーム? はは。


おっと、馬鹿なことを考えてたら目の色が元に戻った。


『目の色が戻ったので根本的な治療を行います。まず念頭に置いておかねばならないのが、呪詛が肉体を攻撃しているのか、精神を攻撃しているかを判別しなければならない事です。これによって唱え方や浄化する場所が異なってきます』


これが呪いの面倒なとこの一つだ。同じ症状を訴えていても原因が異なるなんて事が起こる。ただ、これが魂とか存在そのモノとかなら、もう現場で出来る応急じゃ無理だが、単なる肉体と精神なら判別は容易だ。

しかし、殺しに掛かって来てるとしか言いようがない、こんな面倒なもん使ってる奴がいたら正気を疑うね。


『太腿の内側を抓ってみて下さい。もし痛みを感じない場合であれば、それは精神攻撃されているために体の感覚が麻痺しているのです』


『マイケルどうだ!?』


『い、痛くない!』


『教官殿! 精神への呪詛と思われます!』


『よろしい! では浄化場所と唱え方を教えます。精神の場合は脳を。ですが電気信号としての脳をイメージするのではなく、敢えてもっとあやふやとな心というものを想像して下さい。そして最後は、心、平穏、穏やか、そう言った言葉を強調して唱えて下さい。では5人組で実践を!』


1人じゃこの呪詛は無理だな。だが精鋭新兵5人なら……。


『サーイエッサー! 神よこの者に穏やかな心を与え給え!』


『お、おお。頭から痛みが消えていく』


『おお……!』


うむ。一発で決めるとは、流石は精鋭新兵だ。


『逆に肉体的なモノは直接患部を浄化します。その際は癒えろ、治れなどの言葉を使うと効果的です』


『教官殿質問であります! 気絶した者に対してはどのように判別をしたらいいのでしょうか!』


いい質問だ。確かに気絶していれば痛いか痛くないかの判別がつかないだろう。しかそれは禄でもない理由で心配する必要がない。


『実は精神への呪いに掛かったものが意識を失うのは死んだ時だけです。肉体的なモノよりより高度であるため、呪いの更に負の部分、苦しみを最大限に味あわせる。が発揮されるため何があっても気絶できないのです』


訓練場の皆さんぞっとしましたね? 呪いで即死するなんてほぼほぼあり得ません。なぜなら大本の恨みってのが簡単に死んだら晴れないからです。だから出来るだけ長く、出来るだけ苦しむように出来てるんです。

その点で言うと蜘蛛君の呪いは少し弱いな。たった5分で絶命するような塩梅だし。


さて話を纏めるか。


『無理、無茶なことを言いますが、呪いに対する究極の守りは絶対に受けない事です。肉体を朽ちさせ、精神を蝕み、広がり、潜み、企み、最終的に齎されるのは破壊と狂気と苦痛、そして死です。呪いと相対するときに準備をし過ぎたなんて言葉は存在しません。必ず万全の準備と慎重さを併せ持ったうえで臨んでください。以上で私の言葉を締めさせて頂きます』


ふう。


ど、ど、ど、どうでしたかね皆さん!? 初めて人にレクチャーなんてしたんですがちゃんとできましたか!? 今更大勢の人前で喋ってたことにビビってるんですけど!?


『全員教官殿に礼!』


『ありがとうございました!』


『小休止だ! 今の事をレポートととして書け!』


どわっ!? び、びっくりした!?  つまり上手く出来たんですね!? おお、訓練場にいた先輩方も拍手してくれている! 


クラスの皆さんどうですか! これが主席ですよ主席!しゅ!せ!き! そんなやっぱり評価に困るって顔しなくてもいじゃないですか!


「あなた、かっこよかったわよ」


「お姉さまあああああ!」


僕主席としてやり遂げましたああああああ!


「流石だ貴明。それでこそ主席だな」


へっありがとよ学園長。ま、俺がやられて嫌な事をそのまま言っただけだから軽いもんさ。


でも感謝してることに違いないんだ。やっぱり親父に電話かけてお礼言って貰うわ。放課後、猿君と楽しみにしててくれよな!







おっかしいなあ。あの筋肉学園長が放課後に体調崩して、猿君とは明日やるなんて言いだすなんて。


あ、お姉さまのお夕飯やっぱりおいしいです!


ま、いっか!




あとがき

そのうちあらすじとタイトルを【異世界帰りの邪神の息子ー呪いの化身が過ごす異能学園生活ー】に変えようと思っています。


タイトル長けりゃいいってものじゃないと気が付きました。ってのは半分冗談!ちょっとタイトルとあらすじに乖離が出てるなと思ってまして。貴明が普通の生活したいの最初だけだし。


来週中には変えるような気がします。ご了承くださいませ。

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