朝が来た

ちゅんちゅん


「ほら起きて」


うう、もう後100年位寝させて……。


「起きなさい」


なぜか心地よい気怠さがあるんです……。もう10年位ならいいんじゃないですかね?


「もう、楽しみすぎちゃったかしら? ほら、起きないと……」


起きないと?


「食うわよ」


「おはようございますお姉さま!」


今ぶわっと汗かいた! なんだ、エマージェンシー!? あ、お姉さま、その捕食者的目は何ですか!?


「おはようあ、な、た」


「はい! 今日もいい天気であります! 幸せいっぱいであります!」


「当然よね。なんたって新婚なんですもの」


布団から飛び起きたら目と鼻の先にお姉さまの御美しい御顔が。でも四つん這いで俺に覆いかぶさった状態で目はギラギラと光ってらっしゃる。間違いない、起きなかったら何かとんでもない目に会ってた。だって五寸釘持ってるもの。しっかし新婚! でへ、でへへ。


「でへへ。でも何で五寸釘を……」


「あら、義母様が起きなかったらこれをあなたの胸に刺せって仰ったのよ」


お袋おおおおお! なんつう物を渡しとんじゃ!


「それじゃあ私は義母様と朝食の準備をしてるから」


「はい!」


そう言いながら手をひらひらさせて俺の部屋を出て行くお姉さま。なんて……素敵なんだ。



「おはよう貴明」


「おはようお袋。あれ、親父は?」


リビングに行くと既に朝食の準備が終わっていたが、そこにはいつもコーヒー片手にニュースを見ている親父の姿が無い。まあいっか。それよりお姉さまと朝食だ!


「孫が出来るって言いながらスキップして外へ出て行ったわよ」


「ごめんお姉さま、朝食はお袋と食べてて」


俺はあの馬鹿親父と決着を着けに行きます。埋めるようにスコップがいるな。


「あなた、私の作った朝食が食べれないのね……」


「頂きます!」


座っているお姉さまに、悲しそうな上目使いで見られると反射的に座ってお箸を持っていた。命拾いしたな親父め。


「お浸しとみそ汁は私が作ったの」


「通りで美味しいと思いました!」


「小夜子ちゃんとっても上手なのよ」


「ありがとうございます義母様」


普段と味が違うなあと思ったらお姉さまの手作り美味しい! お袋と同じくらいと言ってしまうと色々問題なので黙っておくが。マザコンと思われてしまう。断じて違うのに!

というかこの2人会って2日目だけど仲がいい。昨日の晩だって親父の転移で家に帰ると、お袋はマジで赤飯炊いて待ってて、お姉さまを紹介すると娘が出来たわって大喜び。自分で言うのはあれだけど、結婚決まって一日しか経ってないんですが感想それですかね? 流石は邪神の寝込みを襲った女だ格が違う。


しかしこれからどうしようかなあ。お姉さまいるならここで農作業でも、いや農地が足りねえや。それに俺とお姉さまがイチャイチャしてる横で、親父とお袋が生暖かい目で見る事を想像すると、一国一城の主になる事が絶対に必要だ。やっぱ金稼ぐためにも養成所出てから適当な妖異を祟って報酬金貰おう。


四葉夫妻怪異相談事務所。決まった。でへへ。


「食べ終わったらいろいろ忙しいわよ」


「え? 何するんです?」


「当然婚姻届けの準備よ。まあ昨日から四葉小夜子だけどね」


「今すぐしましょう」


馬鹿親父どこ!? 車、いや転移で色々運んで!


「落ち着いて、役所は逃げないんだから」


「はい!」


「私達の若い頃を思い出すわ」


早く、しかししっかり味わって朝食を食べていく。お袋の話は無視だ。一度話すと半日潰れる。早く親父帰って来ないかなあ。もう車借りて駅に止めたらいいかな?


ピンポーン


おや誰だ?


「まあ村田さんどうされました?」


玄関に向かったお袋の声から察するに、どうやら隣の村田さんのようだ。隣と言ってもド田舎の隣は100メートル単位だが。


「旦那さんが言うにはなんでもお孫さんが生まれたとか。お祝いに来ましたよ」


「まあまあ」


本当にちょっとだけ待っててねお姉さま。今なら3分もいらないと思うから。あのタールまみれめ、今日こそ目にもの見せてくれる。







「え? 四葉貴明を満点扱いですか?」


「そうだ……」


ところ変わって伊能学園の学園長室では、呼び出された教員が疑念を多く含んだ声で、学園長である竹崎重吾に先ほど言われた言葉をそのまま返していた。


「ですがその」


「分かっている」


「はあ」


教員は分かっていると言う竹崎に曖昧な返事をしたが、本当に分かっているなら推薦組の試験でゼロ点を叩き出したこの青年を満点とは、あなた大丈夫ですかと言いたくて仕方なかった。


「その言いづらいのですが」


「分かっている」


「はあ」


教員は分かっていると言う竹崎に曖昧な返事をしたが、本当に分かっているならいくら裏口入学でも、ゼロ点を満点にするのはやりすぎだ馬鹿と言いたくて仕方なかった。


「しかも」


「分かっている」


「はあ」


教員は分かっていると言う竹崎に曖昧な返事をしたが、本当に分かっているなら本気でこの裏口入学者を満点扱い、つまり主席入学にするのかこの大馬鹿野郎と言いたくて仕方なかった。


「君は荒御魂の鎮め方について考えたことはあるか?」


「はあ」


「そうだ。祀るのだ。つまりよいしょするのだ。分かったな?」


「はあ」


意味分かんねえよこの超大馬鹿野郎。そう教員は思った。

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