入試2
あの糞親父! よりにもよって異能養成学園の推薦状渡しやがった! 普通のとこ行きたいつっただろうが! どうすんだよ!? けど願書出し忘れた俺には選択肢がねえ! 就活もしてねえから、このままじゃあ馬鹿親父とお袋がイチャイチャしてる中に混じって農作業だ! それだけは、それだけは無理! 絶対無理! きゅ、究極の二択だ!
ん? 後ろが騒がしい様な。車の列が……。
「栞お嬢様こちらです」
「ええ」
な、なんじゃあの別嬪さんはあああ!? 一目で高級と分かる着物、はどうでもいい。真っ白な髪に眉、まつ毛どころか肌も雪のように白いのに、プルンとした桃色の唇! きりっとした顔立ちなのに可愛らしさとどこか妖艶さまで感じる矛盾を内包した、どえらい御方があああ! 惜しむべきは着物だからスタイルが分からない事だが、んな事どうでもいい!
「飛鳥様、到着いたしました」
「ああ」
ぬああああ!? 今度はスーツ姿のカッコイイお姉さまがああ!? すらりとした高身長でありながら、スーツの上からでも分かる胸の膨らみ! 眼鏡! ショートカットに赤色のメッシュ! ほ、本当に同い年なのか!? お姉さまパワーが違いすぎるうう!? いや!?これは似て非なる物! 言うなれば王子様力!?
「小夜子様着きました」
「ええ。ふふ」
今度は着物を着た小さな少女。しかし分かる! 分かるぞ!? このお人形さんみたいで絹のような長い黒髪をした少女こそ、ここに来て最もお姉さま力が高い! 切れ目の目尻にうっすらと塗った紅がその証だ! スタイルは貧相なのに何だこのお姉さま力は!?
おっとう! おっかあ! 都会はえらいとこだっぺ!? でへ、でへへへ
(なんかえらい桃色の思念が届いたけど受験日だよね? いや待てよ、貴明が結婚して子供が生まれたらパパはじいじ? でへへへ)
呼んでねえし笑い方がきめえ! 今一世一代の覚悟を決めてんだから邪魔すんな!
あっそうだ!? 親父この野郎! ここ異能学園じゃねえか! ……っち。また回線切れか。帰ったら覚えてやがれ。
「橘栞様、佐伯飛鳥様、桔梗小夜子様。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
あのお姉さま方すっげえVIP待遇。それぞれに案内人までいるんかい。まあ眼鏡お姉さまはバリバリのキャリアウーマンだけど、他のお二人はまさに名家、京美人って感じだしなあ。
「紹介状をお持ちの方はこちらに提出をお願いします!」
はっ!? お姉さま方ああ今行きますうう! おら! ありがとよ親父! 提出! シュート!
◆
どうしてこんな所にいるんだ? 俺は普通のキャンパスライフを目指しているのに、なんで異能養成所の訓練施設みたいなところに? いったい校門で何が……。というか名家皆さん余裕っすね。大体30人位? 腕組むのは当たり前、壁に背を預けてる方もいれば、女性を口説こうとしている方まで。これがハイソなのか、と言うかひょっとして庶民俺だけ? 直立不動で気を付け状態の俺が異端とは、偉い人の考えはよく分からん。
「皆様お待たせしました。早速ですが試験を開始させて頂きます」
やっば、やって来た教師らしき人がペコペコしてるよ。とんでもねえとこに紛れてしまったのではなかろうか。
「事前に言っておきますと、推薦組の皆様方に試験を受ける必要が無い事は重々承知しておりますので、筆記試験は無し。実技のみで内容も単なる検査のような物です。ですが検査の結果で、我が学園が誇る"単独者"の方達がある程度育成内容を定めますので、手を抜かない様お願いします」
うへえ。ここ"単独者"いるのかよ。流石だな。確か世界危険基準の上から三番目、"非常に危険"、非鬼を一人で倒せる連中だろ? 怪異蔓延る日本ですら20人もいないんじゃねえの? 一番目の"世界の危機"、世鬼が実質設定されてるだけ、二番目の"特に危険"、特鬼は単独者が複数当たる前提って考えたら、世界トップクラスじゃん。
まあ親父はそんなのよりさらにぶっ飛んでるけど……。敢えて言うなら滅鬼? どうやって倒すんだ? 昔俺が子供のころに、パパ嫌いって言ったら死にかけたみたいだからその方向で行く? 行っちゃう?
しかし、試験無しとは何という僥倖。これで俺はお姉さま方と間違いなく……でへへ。
「内容は単純です。霊力、魔力、浄力、超力を測定した後、陰陽札を用いて作成した、下から二番目"少し危険"通称、少鬼に相当する仮想敵と戦闘してもらいます」
馬鹿野郎簡単に言うんじゃねえ! 能力者が表立っていない時代に、ロシアが街中なのに戦車持ち出してようやく殺した奴だろうが! せめて一番下の"小さな危険"小鬼にしろや! それでも自動小銃やらロケット持った兵隊がひいこら言いながら倒す奴だけどな! やっぱ現代兵器が効果薄い鬼どもマジ最悪。
「それでは測定を開始します」
もう入学試験って言い繕うことすら止めやがったあの係員。
◆
「霊力29!」
「超力31!」
「魔力33!」
なんちゃら力の測定はまあスムーズだ。ダイスみたいなのをコロコロ振って、出た数字を係員が書き上げるだけだ。いつかテレビで、50で一人前。70もあればその道で超一流のプロを名乗れて、80で単独者。でも一番最初のアメリカの養成学園一期生たちは、入学時ではほとんど10未満だったみたいなことを言ってた筈。それを考えるとこの名家の方々はやっぱり歴史ある退魔の家だったり、推薦に値する突発的な才能の持ち主なのだろう。
「橘栞様、浄力58!?」
ぶっ!? 係員のビビった声に俺も吹き出してしまいそうだった。白いお姉さま。58って貴方、もう一流プロ手前じゃん。もう単独者の直弟子コースですねこれは。しかし、浄力ってことは巫女さんとか神官さんの家系かな?
「佐伯飛鳥様、魔力55!?」
ぶっ!? 貴方は王子様お姉さま!? やっぱ魔力って知的クール風なあなたにピッタリと思ってたんですよ! 後輩女の子に、私の可愛い子猫ちゃんって愛の魔法を掛けたら一発ですよ! 僕にもかけて下さいお願いします!
周りもざわざわしている。そりゃそうだ。それなり自信があった皆様方が、数値を一気にぶち抜かれてしまったのだ。隣とひそひそ話している者、愕然としている者、ギラリと光っている目で見つめている者など様々だ。
っむ!? 俺の呪いセンサーにビビッと電波が!
(没落した橘の) (天涯孤独だ。楽に乗っ取れる) (ああも白くては怖い怖い) (成り上がりの佐伯め)
ちっ。親父が都会嫌いなのも分からんでもない。だが俺は挫けない! 理想の都会生活の為に!
「桔梗小夜子様、ひ!? れ、れ、霊力92!?」
シーンとした。滑稽な程上ずった声であったが、誰もそれを笑う事をしない。笑っているのはその係員の目の前にいる少女ただ一人。幼い外見に似合わず、紫で彩っているその唇だけが笑みの形であった。
「もういいかしら?」
「は、はい!」
(あれが桔梗の鬼子) (ふんっ。ああも化け物ではな) (妖魔との混血とか) (あんな化け物がいていいのか?) (本当に入学を許すのか?) (殺処分の時は単独者が複数ともう決まっている) (やはり今すぐ殺すべきだ) (呪いの子め)
黒
ヒ
ト
ヲ
ノ
ロ
ワ
バ
「次、四葉貴明!」
………………
「四葉貴明! どこだ!」
……………
「いないのか!?」
「はい! 自分であります!」
どうしましたか!? まだ何もやって無いであります!
「測定をする。これを振りなさい。まずは超力からだ」
「はい! 振ります!」
超力は確か超能力のことだったな。いやあ、これはゼロでしょ。スプーン曲げ出来なかったもの。とりあえずえいや!
「ふむゼロ。こちらの適性はないみたいだな」
ダイスの出目は両方0。まあそうでしょう。
「次は魔力だ」
いやあこれもゼロでしょ。箒に乗って空飛べなかったもの。せい!
「ふむこれもか。なら浄力だ」
いやあこれもゼロでしょ。お袋が馬鹿親父の巫女さんって立場だけど、そんな教育受けてないなんちゃって巫女さんだもの。とう!
「これもか。なら霊力だな」
陰陽師とか霊媒師、祖霊崇拝なんかのだな。いやあこれもゼロでしょ。邪神と関わってるけど、幽霊とは無縁だもの。あれ?
「なに? これもゼロ?」
マズいですよコレは、全部ゼロじゃねえか! 何かの間違いじゃねえ!
「故障か?」
いいえ心当たりはあります! 呪力は!? 呪力は無いんですか!? ある訳ねえよな! んな物騒なモン!
「すまないがもう一度全部やってくれ」
「はい!」
でもゼロ! 何回やってもゼロ!
「よく分かった。次に行ってくれ」
「はい!」
あああああああああ! ダメだ落ちるうううう!
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