第5話 宇宙土下座
「誠に申し訳なかったー…。」
女神は器用に宇宙空間で土下座の格好になった。
いや、土はないから宙下座…?なのだろうか?
さすが、と言うべきか伏した姿も美しさがある。
ただしシュールなのは、トラックの横にピッタリと並びながら伏せる女神の姿であろうか。
天音は一瞬フリーズしたが、二、三度頭を振ると再起動した。
「ちょっ、やめやめ!起きて起きて!てか、何のこと!?」
女神はチラリと顔をあげて、申し訳なさそうに再び頭を垂れた。
「……実は、ヌシらは地球から消滅してしまっての。」
「え?」
え?どういうことだ?
「飛び出した男を覚えておるだろうか?」
「あ、あー、そういえば居たね、それで慌てて避けようとして…いつの間にかこんなところに。」
天音は宇宙空間をキョロキョロと見回した。
そういえば臭そうな中年オヤジが飛び出してきたのを思い出した。
いきなり飛び出してきやがって、今度見つけたら跳ね飛ばしてやろうか。
「あの男を異世界に転送する所だったのがの、手元が滑って対象の座標指定を間違って…」
「間違ってあーしたちを指定してしまった、てコト?」
「その通りじゃ。」
女神はさらに伏して、五体投地の姿になった。
神々しい姿がうつ伏せとか、ますますシュールな姿になった。
「なんで急に寝たし!」
「いや、寝たわけでは…申し訳ない気持ちをさらに表しただけでの…」
「で、消滅〜ってコトは、あーしら死んじゃったってこと?」
天音は寝ている息子の頭を撫でながら、じとっとした目線を女神に向けた。
「…死んだわけではないのじゃが、存在そのものを消去してしもうたので、あの世界ではヌシらは『居なかった』事になってしまっておる。」
「えー!そんなん死んだのと変わってねーし!」
「うっ、そ・そうじゃの…」
悲しそうに天音は天を仰いだ。
「まだまだ、なつめたんと生きてたかったなぁ…」
で?この女神はどう落とし前をつけてくれるんだろうか?
「異世界への転送、という形で今回の謝罪とさせてもらいたいのじゃが…あ!もちろん特別な加護、特別なスキルも付けるでの!」
女神は顔だけガバッと上げると、顔色を伺うように見上げた。
この女神、実はポンコツなのではないだろうか?
「あーしらは、親子で無事に過ごせればいいし、かご?スキル?とか分からないんだケド?」
「あいわかった、次の世界でも無事に快適に過ごせるように、こちらでうまいこと調整しよう。」
「ほんとにー?ちゃんと今まで見たいな生活できるー?」
ジトーっと女神を見据える。
女神はだらだらと脂汗をかきながら、ついっと目を逸らした。
「あ、目逸らした!あやしい!」
「あの男の行く予定だった場所に転送先は固定されておっての、すまんが今までと同じ、と言う訳にはいかぬ…
じゃが、必ず悪いようにはせぬ!」
女神はピョーンと窓に飛びつき、涙ながらに懇願を始めた。
怖い!
「お願いじゃー!もう時を巻き戻すことも叶わんのじゃー!行くって言うてくれー!」
もう地球上に存在が無いと言うことは、戻ることは出来ないのだろう。
事実上異世界に行くしか無いのだが、言質を取る必要があるのだろうか?
同意の上でないと何かペナルティでもあるのだろうか…
自分としてはこのまま転送、と言うのであれば特に不満はない。
「はぁ、もうしゃーないし!ちゃんといい感じにヨロね!」
「ありがたい!そこの幼児には同意が得られておらんが、母であるお主の代理許可というで話を進めさせてもらうぞ!」
女神はふわりとトラックの正面に移動して、両手を広げ光り始めた。
「では、愛しき子達よ、次の世界がお主ら3人にとって良きもので在らんことを祈る…!」
「え?3人?」
そして…俺たちは光に再び包まれた。
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