第10話 アクティブレスト

「じゃあ皆さんお名前と年齢、身長、体重を教えていただいてもいいですか?」


 五人が怪訝な表情ながらも、ふらふらと立ち上がって自己紹介を始めてくれる。


 まず一人目。

 アルフ、十七歳、百七十センチ、五十キロ……細い!ガリガリやないか!よく冒険者目指したなぁ。きれいな金髪碧眼の少年だから、筋肉つけばモテそうだ。


 二人目。

 ベート、十八歳、百七十センチ、百キロ……君は太いよ……どうみても贅肉です。これで走ったらそのうち膝やりますよ?黒髪に開いてるんだかどうだかよくわからない目が特徴的。肉に埋もれているのかな?


 三人目。

 ガルム、十七歳、百六十センチ、五十キロ……獣人なのかな?犬みたいな耳と尻尾がついてる。しかし可愛らしい子だな。銀色のちょい長めの髪の毛と、金色の瞳。長く伸びた睫毛が汗で濡れているのが分かる。いかん、変な性癖が目覚めそう……


 四人目。

 デール、十八歳、百九十五センチ、八十五キロ……うん、体格に恵まれてるね!ちょっと線が細いけど鍛えれば大丈夫だな。オレンジの短髪に栗色の瞳。クールな雰囲気を醸し出すイケメンですな。


 五人目は紅一点。

 イオ、十六歳、百六十五センチ、五十キロ……女性にしては背も高いし、均整の取れた体つきだ。注目すべきはその長い耳!エルフってことだね。そしてこの娘もアルフと同じ金髪碧眼だ。いいねえ……金髪碧眼ってだけで、美男美女っぽい。こちとら黒髪黒目の日本男児ですよ。


「じゃあとりあえず明日はお休みにしますんで、明後日の十四時にここに来てもらっていいですか?」


「や、休んでもいいんですか?」


 アルフが驚愕の表情を浮かべている。そんなに驚くようなことを言っただろうか?


「えーっと、どれくらい休んでないの?」


「私たち二週間前にギルドに入ったんですが、一日も休んでないんです……」


 イオが目に涙を浮かべて訴えかけてくる。二週間あれをぶっ通しって、脳筋にもほどがある……っていうか怒りすら湧いてくる。


「ゴウ?大丈夫か?」


 気がついたらティナさんが目の前に立っている。


「大丈夫か?」


 また顔に出ていたみたいだが、仕方のないことだって思う。だっていくら知識がないからって、こんな風に追い込んでどうするんだ?冒険者が命懸けだからと言っても限度がある。


「うん、大丈夫。絶対に彼らをちゃんと育てるよ、ティナさんもよろしくね」


「ああ、任せておけ」


「じゃあみんな、明日はゆっくり体の疲れを取ってね。でも一日中寝るようなことはしないでよ?散歩でもなんでもいいから、息が上がらない程度に軽く体は動かしておいて」


 俺の言葉にその場にいる全員が首を傾げている。まあ確かに意味が分からないか。


「えっと、休養時に体を動かすことを積極的休養(アクティブレスト)って言うんだ」


「アクティブレスト?」


 ティナさんが代表して聞いてくる。


「そう、体を軽く動かしてあげると、体内の血の巡りがよくなるんだ。それによって細胞内に溜まった疲労物質が……って言っても分からないよね……うーん、体を動かすと疲れるよね?そのときって体の中には疲れたって思わせる物が溜まってるんだ。つまり疲労を抜くためには、それを体の外に出してあげる必要があるんだよ。そのために必要なのが血流の改善、血の巡りを良くすることなんだ。それで血がよく巡るときっていうのは止まっているときよりも、動いているとき、つまり筋肉を動かしているときなんだ」


「つまり疲れない程度に運動をした方が、結果的に早く疲労が抜けるということか?」


「うん、そういうこと!ちなみにみんなが訓練の最後に走ってたよね?あれも一応アクティブレストの一環だよ。でもあれは速く走りすぎだし、距離も長すぎる。本当に歩くくらいの早さで、二、三周もすれば十分だから」


 全員がはえーって感じの顔でこっちを見てる。ちゃんと伝わったのかな?


 こういうのは理論をきちんと押さえることも大事だって俺は思ってる。大事なポイントを押さえてさえいれば、何をしたっていいんだ。

 筋トレだってそう。きっと彼らは腕立て伏せはどういうやり方をしたら、どこの筋肉を使うっていうのも知らないんだろう。それじゃあダメだ。鍛えたい場所を明確に意識して、そこを使わなかったら効率が悪すぎるんだ。

 逆に押さえるべきポイントさえ押さえていれば、怪我しない限りやり方はなんでもオッケーってこと。


「本当はもう一個アクティブレストの恩恵があるんだけど、それは明後日ここに来てもらってから説明するよ。じゃあ今日は解散!」


 五人は久々に休みがもらえたことで、嬉しそうに訓練場を出ていく。

 俺がそれを見送っていると、メアさんが興奮気味に話しかけてくる。


「ゴウさん!素晴らしいです!私たちの知らない知識、きっと役に立ちますよ!」


 あ、圧がすごい……それにまだなんにもスタートしてないのに、こんなに感激されても困るんだけど。

 俺が困惑していると、ティナさんがメアさんの首根っこを掴んで引き剥がしてくれる。


「全く……二週間も休み無しだなんて、あの脳筋旦那をどうにかしろ、そしておまえはゴウに近づくな!」


「あんなバカと結婚したのが間違いだったわ、一時の気の迷いというものよ!」


 ん?脳筋旦那?っていうことはつまり……


「もしかしてギルマスがメアさんの旦那さんなんですか?」


「ええ、非常に不本意ながら」


 もはや言葉で語る必要のないほどの表情を浮かべるメアさん。そんなに嫌なんですか……

 ちょっとこの話を続けるのは宜しくなさそうなので、話題を変えよう。


「メ、メアさん。魔法の話が続きでしたので、創造魔法について教えてもらえると助かるんですが」


 眉間に深い深いシワを作って渋い顔をしていたメアさんの顔が明るくなる。どうやら気を紛らわせることに成功したようだ。


「そうでしたね!では早速やってみましょうか。ここの砂に触れて魔力を込め、作りたいものをイメージしてください。もしゴウさんに適正があるのであれば、それで出来るはずですので」


 ほー、なんか錬成陣とか魔法陣みたいなのがいるのかと思ったけど、それだけでいいのか。


「それじゃあ早速……」


 俺は跪いて砂に手を当てると作りたいものをイメージして魔力を流すと、高さ五メートルほどの大きな砂のお城が出現する。

 うん、やっぱり砂と言ったらお城だよね!

 …………いやいやいやいや、これスゴすぎない?もっとビーチで作るようなお城を想像したんだけどな?それにまた砂全部無くなってるし!


 恐る恐る周りを見ると、ティナさん、セシリア、メアさんがもれなく腰を抜かしている。

 とりあえず砂のお城に触れて、もう一度ただの砂に戻す。


「ゴ、ゴウさん!紛れもなく適正有りですよ!やったー、超便利!」


 メアさん……最後の一言、何ですかねそれ?でも正直助かった。これで指導の方針にも目処が立った、筋トレはやっぱり器具を使わなきゃ!



※あとがき

というわけで簡単にアクティブレストの説明でした

ちょっと疲れているなーってときには、だらだらするのではなくて

軽く体を動かしてみてはどうでしょうか?

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