異世界トレーナー ~勇者召喚に巻き込まれたら、戦う職業じゃないと追い出されたので、辺境の地でギルドを立て直します~

Sanpiso

追放、そして辺境の地へ

第1話 職業トレーナー?

「えー、ユウト殿は勇者、ハルナ殿は魔剣士、リン殿は賢者ですな。ゴウ殿は……トレーナー?」


 職業(ジョブ)判定するとか言い出した怪しい白髪のおじさんが、俺たちのことをまじまじと眺めながら口を開く。


「ゴウ殿、トレーナーとは何かお分かりになりますか?」


 え、俺に聞くの?もしかしてトレーナーって一般的な職業じゃないの?


「えーっと、私は元々体の鍛え方を教える仕事をしてまして、その職業の名前がトレーナーですね」


 質問してきた額の広い壮年の男性(確か宰相と言っていたかな?)が、顎に手を当てて難しい表情を見せる。

 うーん、これはなんだか良からぬ展開?


「どうやらゴウ殿は他の三人と違って戦闘職ではないようですな。仕方ありません、勇者召喚に巻き込まれた詫びとして、当面の生活費を渡しましょう。三人が魔王を倒すまでは帰れませんので、辺境の、もといデルトイドで何か仕事でも見つけて暮らしてください」


 俺は今いかにもファンタジーって感じの甲冑を身に纏った人達に囲まれている。足元には大きな魔法陣らしき物が書かれており、つい先程まで光を放っていた。

 窓がないってことは、ここは地下なんだろうか?そういえば少しひんやりとする。

 ……どうしてこうなったんだっけ?



 俺の名前は豪田剛(ごうだごう)。子供の頃のあだ名はもちろんジャイアン。字が違うとか、読み方が違うとかそういうのは子供には関係ないのだ。誰かが言い出したらそれが定着してしまう。

 都内のスポーツジムで働く社会人二年目、二十三才だ。身長は百八十センチながら、体重は九十キロある。まあでもこれは筋肉だからね、決して脂肪ではございませんので悪しからず。


 ある日の勤務を終えた俺は、いつものように自分のトレーニングに励んでいた。

 目の前に立ちはだかるはパワーラックにかけられた二百五十キロのバーベル。


「今日こそこれをあげてスクワットのマックス更新だ……」


 誰に言うわけでもなく俺は小声で呟く。

 かれこれ半年はこの目の前のバーベルに敗れ続けている。

 だが今日は行ける気がするのだ。アップの段階で体が動くと感じている。こういうものは出来ると信じることも大事だ。


 俺は自身の体に装着されたギアを確認する。

 腰にはパワーリフティング用の分厚いレバーアクションベルト、膝にはニースリーブ、靴は地面の感覚をつかむために中敷きを排したソールの薄い靴。

 よし、問題ない。いつもの装備だ。


 俺はベルトのレバーを閉めてしっかりと腹圧がかかるのを確認すると、満を持してバーベルの下に体を滑り込ませる。

 スクワットには担ぐ位置によって、ハイバースクワットとローバースクワットがある。

 俺の場合は太もも前側の筋肉(大腿四頭筋)が強いので、ハイバースクワットが得意だ。

 C7(第七頚椎)、別名隆椎のやや下でバーベルを担ぐと、大きく息を吸い込み腹圧を高めると同時にラックアップし、バックステップで下がろうとしたその時。


 パァーーーガッシャーーン!!!


 突然のクラクションと衝突の大音量が背後で聞こえる。

 俺は思わず驚いてバランスを崩してしまい、後ろに倒れこみながらバーベルを手放す。

 まあこんなこともあろうかと、きちんとセーフティはセッティングしているのだ。


 ガッシャーーン!!


 けたたましい音がジムに響き渡る。二百五十キロのバーベルが落下してセーフティにぶつかったのだから仕方ない。


 ドゴッ!


「いてぇっ!!」


 どうやら運悪くセーフティにかかったバーベルに、後頭部を打ち付けてしまったらしい。


――あれ?意識が遠退く……



 そして気が付いたら今に至ると言うわけだ。


 俺は今しがた告げられた内容を吟味する。


 ……いやいやいや、おかしくない?そっちの都合で呼び出して条件に合わないからって……普通それなら最後まで面倒見るよね?今の話だと明らかに邪魔だから金渡して追放じゃん!しかも辺境の地って言おうとしなかった?


 俺のそんな気持ちが伝わったのか、金髪碧眼のまだ若そうなイケメン王様が、心底面倒くさそうにこちらを見ている。

 俺のすぐ後ろには三人の高校生らしき男女が、気の毒そうにこちらを見ている。


 君らは君らで受け入れるの早くない?話を聞く限り異世界だよ?しかも魔王倒せって無理でしょ?


 ちなみに一人が茶色いスカッとした短髪に長身の男の子で、二人が女の子。一人はロリっぽい顔と体型に良く似合う、明るい茶髪のツインテール。もう一人は落ち着いた佇まいに相応しい腰まである艶のある黒髪に、モデルばりのスタイル。とりあえず三人とも全員美形。


 俺が呆然としていると、宰相が再び声を発する。


「では勇者様方はこちらへどうぞ、ゴウ殿には金貨十枚を渡して、デルトイドのギルドまで送って差し上げろ。ゴウ殿、冒険者ギルドは住居や仕事の斡旋もしておりますので、色々と相談されるといいでしょう」


 にこやかに宰相が笑いかけてくるが、言っていることは無茶苦茶だ。それって完全にそのギルドに丸投げしますって言ってるだけじゃん!

 俺は大きく嘆息して、一縷の望みにかけて聞く。


「……念のため聞きますが、ここに残るのはダメなんですよね?」


「ええ、ダメです」


(ふん、役立たずを俺の近くに置くわけないだろうが)


 即答って!もうちょっと申し訳なさそうにしろよ……あと、あのクソ王、聞こえてんだぞ!?万が一俺にすごい能力があって、それが判明しても助けてやんないからな?

 まあそんなわけないよな……幼稚な自分の考えが虚しくなってきた……

 

「あの、ゴウさん。頑張ってくださいね……」


 おお……イケメンの勇者君が俺を心配してくれる。さすが勇者と言うべきか、名前なんだっけ?


「ありがとう、えっと……ユウキ君だっけ?」


「ユウトです、あっちのツインテールがハルナ、ロングヘアーがリンです」


 名前を間違えたにも関わらず、爽やかにもう一度名乗ってくれるユウト君。確か三人とも十七歳って言ってたな。俺より六つも年下にも関わらず出来た子ですな。


「ああ、すまないね。ちょっと気が動転してしまって、ユウト君たちこそ大変だろうから、頑張ってな」


「はい、おじさんをもとの世界に返してあげますから!」


 お、おじさん……orz

 ハルナちゃんの言葉に俺がショックを隠しきれずにいると、リンちゃんがフォローをしてくれる。


「ちょっとハルナ、おじさんは失礼でしょ?お兄さんがゴウさんって呼ばないと」


「あっ!そっかー、ごめんね、おじさん!」


 ユウト君とリンちゃんが頭を抱えている。察するにハルナちゃんは大分天然なんだろうな。

 まあその分思ったことをストレートに言っているわけで、意地悪で言っているよりダメージはあるんですがね……


「ゴウさん、すみません。ハルナはいつもこんな感じで」


「いやいや、いいんだよ。君らから見たらおっさんに変わり無いしね」


 三十代、四十代の大人からすれば、二十代なんてまだまだクソガキみたいなものかもしれないが、ここは大人の余裕というものを見せておこう。


「話がわかるねぇ、ゴウさん!」


「いや、そこはおじさんだろ!」


 俺の肩をポンポンと叩くハルナちゃんに、思わず頭をポンと叩いて突っ込んでしまうと、微妙な空気が流れる。……これはやっちまったか?


「「「プッ、アハハハハハハ」」」


 ユウト君たちが一斉に笑いだす。良かった、だだ滑り、若しくはセクハラ案件かと思ったよ。


「ゴウさん、ありがとうございます。おかげで少し緊張がほぐれました」


 年相応の笑顔で話しかけてくるユウト君たちに、俺は思わず恥じ入る。


 そうだよ、まだまだ独り立ちしていない十七歳が、この状況を全て受け入れられるわけ無いよな。

 考えてみれば彼らの状況の方がずっとしんどいはずなんだ。なのに一番年上の俺がテンパっちゃって……


「……その、俺にできることなんて無いかもしれないが、いつでも相談くらいなら乗るからさ。三人とも頑張ってな」


「「「はい」」」


 三人の笑顔が眩しい。この城の連中はムカつくけど、とりあえず彼らが困っているとき、何とか助けてやれるように精一杯やってみるか。



※あとがき

ということで新作始めました

序盤はとりあえず舞台を整えることが優先になるので

あまりトレーニング理論が出てきませんがお付き合い下さい

今週来週は平日1話更新でいこうかなと思っています


あと分からない用語やトレーニング相談とかありましたらTwitterとかで聞いてもらえると嬉しいです。

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