83話 一方、その頃
生徒の殆どが休みの土曜日。外では吹奏楽部の音色をバックグランドに、野球部がバッテイングの練習をしていた。時々混じる金属の弾ける音色が学園中に響き渡る。
光橋紅は廊下から見える、生徒たちの眩しい青春の1ページを流し見て理科室を訪れた。
「やあやあ紅ちゃん。偶には顧問らしく部活の様子を見に来たのかい? それとも、ノスタルジーに浸ってた?」
紅の想像通り、いつもの白衣を着た紡が憎たらしいまでの笑顔で出迎えた。どうやら昔を懐かしむ記憶が顔に出てたらしい。
「そんなんじゃないわよ」
「学生の日々を思い出す歳だもんね。仕方が無いよ」
「うるさいわね」
「あ、そうだ。……コレ」
紡は紅に一枚の紙を手渡した。
「……新入部員届じゃない! まさか、あなたが勧誘したの!?」
「そんなわけないじゃん。学君スキスキな女の子だったからだよ」
「言い方。、まぁいいじゃない、賑やかになって」
「ボクの理科室に御曹司のハーレムワールドでも作られちゃあ困るよ~」
「あなたの理科室じゃないでしょうが」
「はいはい、お堅いこと言わないのぉ~。だからいい男見つけられないんじゃないのぉ~」
「マリッジハラスメントで訴えるわよ」
「うわぁ、教師からの恐喝だぁ」
「指導といいなさい」
「はいはい、わかったよ。――それで、戯れるためにボクのところへ来たわけじゃないんでしょう?」
「あなたのせいで忘れてたのよ」
「それは悪かったねぇ。……ごほん、
「彼については優秀な殺し屋って以外は何も分からなかったけど、彼の右腕である
「随分と調べたようだね。で、彼の情報から何が分かった?」
「そこからはさっぱりよ。この情報だけだと何も分からないわ」
「十分さ。これはボクからのテストだったんだ。どれだけこの問題に取り組む姿勢があるのか、どれほどの情報収集能力があるのかってね」
「年上を甘く見ない方がいいわよ」
「はいはい。ともかく、テストは合格。新たな情報をキミにあげるよ」
「またテストってわけ?」
「テストは終わりだよ。例の実験については厄介な人物が何人も絡んでいるからね。好奇心は猫を殺すと言うだろう? せめてライオンぐらい獰猛な猫を選別しなきゃ、すぐに殺されちゃうもん」
なんとなく、紡の言いたいことが分かって来た。ここから先のことを知るにはさらなる危険が伴うと言っているのだ。
「それじゃあ、私はライオンだったの?」
「さあ? でも、次の情報をきっかけに生き残ることが出来れば、キミがライオンであるという確証が得られるかな」
「はいはい。かかってきなさい」
「ふーん、覚悟は十分ってわけだ。それじゃあコレあげる」
紡は白衣のポケットから1枚のメモを取り出し、紅に手渡した。
「その施設について調べてごらん。きっと面白いことが分かるよ」
メモには3ケタと4ケタの数字とその後に「ヨゾラ」という言葉が書かれていた。前に書かれた数字は恐らく住所。ヨゾラはその場所の名前だろう。
「ヨゾラ……どこかで…………」
「あ、そっか。キミ、元々は記者だったもんね。あの事件の闇については業界でも有名かもね」
紡は珈琲の匂いを堪能してから、ゆっくりと口に付けた。
「アンデッドマンはそこを隠居先に潜伏していた。さあ、そこに何があるのか調査してみてね! そうすれば、自ずとコールドマンについて何か分かるかもよ?」
<あとがき>
次回から終章の中編です!
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