51話 みているぞ
2人の男女が駅の中へと吸い込まれていく映像が、パソコンの画面いっぱいに写っている。
「どうなってんじゃああぁあああーーーっ!」
『落ち着きなよ、火恋』
ボイスチャットから聞こえてくるこの声は、
何度も連絡を取り合ううちに、本名まで明かす仲になっていた。日本に来てからも一緒に仕事をしている。しかし、未だに実物――ではなく本人とは会ったことがない。
彼女も京と同じく、翔和の暗殺を阻止する仲間である。
「落ち着いてなんていられないわよ!なんで、あいつが女の子とデートしてるのよ!」
『妬いてるの?』
「そんなわけないでしょ! 本当にデートだったのがムカついてるのよ!」
『そうだね。自分は一回もデートしたことないもんね』
「うッ」
『さっきはなんでも知ってる、お姉さんズラしてたくせにね』
「しっ、栞! あんた見てたのね!」
『火恋が、家中にリアルタイムの監視カメラを仕掛けたからでしょ。しかも、わたしにも観られるように』
「――っ……」
これは少し前の話だが、鑓水家に空き巣が入って来たことがあった。この家の住居人が翔和1人と知っての犯行のようだった。
しかし、わたしは空き巣の犯行に気づくことはなく、翔和が帰ってきて初めて空き巣に狙われたことに気づいたのだった。
空き巣に気づかなかった理由は単純明快。
物音で目覚めないほどに、爆睡していたのだ。
だが、これにも訳があって、当時のわたしはこの家に来て間もなくで、とにかく金を稼ごうと朝方まで仕事をしていたのだ。
空き巣は、タイミング良く帰って来た翔和によって逃走。しかし、未だにその空き巣は捕まっていない。
この教訓をもとに、志水家に監視カメラを設置することにした。
翔和に監視カメラを設置しようと提案したところ、「お前が玄関の鍵を閉めなかったからだ。戸締りをすれば、空き巣なんてそう簡単に入ってこない。それに――(以下略)」と言われてしまったので、翔和には監視カメラを設置したことは内緒だ。
こんなにも美人で、か弱い……とーってもか弱い乙女にとって、防犯対策は必須。日本がアメリカよりも治安はいいと言っても、何かしら必要だろう。
こうして、防犯対策は完璧――というわけでもなかった。
次に、わたしの爆睡問題だ。
翔和に「空き巣に入られたら、普通分かるだろ。物音とかさ!」と言われてしまった。「爆睡してたんだもん!」と反論したら余計に怒られた。
何か解決策はないかと考え、そこで栞という答えにたどり着いた。
当初は、栞に翔和の暗殺計画阻止を手伝ってもらうつもりはなかったのだが、空き巣の件を期に、彼女にも参加してもらった。
そう。栞の参加は防犯対策の一環なのである。
そんな防犯対策が、悪用されるとは夢にも思わなかったのだけれど。
『まぁ、私に見られないようにしていても、ハッキングして見られるようにしちゃうんだけど』
「ふん、あたしの家のセキュリティを舐めないで欲しいわね」
『はは、火恋のセキュリティを突破するのは難しそうね――火恋、B6番のカメラ!』
「え? ……どこかおかしいの?」
栞に言われた通りにカメラに回す。B6という名前の付けられたカメラは、翔和たちが下車予定の駅の防犯カメラだ。
映像では休日を楽しむ人々が行き交い、特におかしな点は見当たらない。
「可愛い猫が横切ったのだけど……」
「…………まったく。はぁー、そうですか。真面目にやってくれませんかねぇ?」
今日は
家の周辺や学校なら、京が助けてくれるはずだ。しかし、遠出となると京が助けに行くことは難しい。スーパーでの襲撃のように、危機が訪れた場合、安全な場所へ誘導出来ればいいのだが――。
目的地への移動という、序盤のイベント真っ最中な訳だが、早速問題が起きていた。
翔和たちの乗る電車には、防犯カメラが設置してはいなかった。これでは正確な情報は掴めない。こういうこともあろうかと、盗聴器を仕掛けていた。
片耳イヤホンを取り出して盗聴器からの音声を拾う。
うむ。感度良好。
この盗聴器は翔和に気づかれないように、こっそりと仕掛けたものだ。わざわざ、アメリカから持ってきたものだ。この盗聴器、実は日本の電波法に引っかかるらしいがそんなこと知ったものか。こっちは命が掛かっているのだ。
火恋は会話に耳を傾けたまま、パソコンの画面を睨めつける。
今日は長~い1日になりそうだ。
<あとがき>
監視社会怖いね
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