40話 お邪魔します
「お嬢様、やはり突然の訪問は学様のご迷惑かと」
「アタシが来るんだから迷惑なわけがないでしょ!それに、変な女がガッ君にくっ付いていたら追い払わなきゃいけないわ」
「大丈夫ですよ。犬星姉妹も一緒に住んでいるんですから」
「アイツらこそ信用ならないわよ。特に妹の方!」
「珠李様ですか。あの御方は優秀なメイドではありませんか」
「この前会った時、ガッ君に色目使ってたのよ。女の顔しやがって! うぅ! 今思い出しただけでも反吐が出そうだわ!」
「レディがそんな下品な言葉を使わないでください」
エントランスに来た2人は、自動ドアのオートロックに阻まれた。部屋番号を押して入居者に開けて貰えばいいだけだが、ノアはそうもいかなかった。
「突撃するわよ」
「はい?」
ノアは部屋番号を入力せずに9から始まる番号いくつか押していく。
「何しているんですか?」
「オートロックの解除よ。住人に許可貰わなくてもオートロックを解除するコードってのが存在しているのよ」
「どうしてその番号を知っているのですか」
「この建物、露峰が管理しているからよ」
「……なるほど」
瀬葉須が引き気味に頷くとオートロックが解除された。
露峰で物件を管理しているとは言え、無断で建物に侵入するのはいかがなものか。
「行くわよ」
ノアは瀬葉須の腕を引っ張り、自動ドアを抜ける。その後はタイミング良く1階に到着したエレベーターに乗って目的階のボタンを押す。最新式のエレベーターは15秒程度上昇を続けて、ゆっくりと停止した。
こうして目的地である部屋に辿り着いたが、扉の前で立ち止まるを得なかった。
「どうしたんですか、お嬢様?」
「いま気づいたけど、いきなり部屋の前にいたら怖いわね」
「今更、何を言っているのですか?」
「いっ、いざ乗り込もうと思ったら恥ずかしくなったの!」
「そんなこと言っても仕方がないですよ」
瀬葉須は問答無用でインターホンを鳴らした。
「ちょっと!」
「…………何故止めるのですか」
「心の準備ってのが必要なのよ!―—服装変じゃない? 前髪は大丈夫かしら?」
「それも、今更どうしようもないことですよまったく」
人の気配を扉越しに感じて、ノアは自然と背筋が伸びる。
だが、扉を開けたのは予想外の人物だった。
「……いらっしゃいませノア様。お久しぶりです」
出てきたのは学ではなく、冷徹な妹メイドの珠李だった。飛んだ肩透かしだ。伸ばした背筋も曲がってしまった。
「ちょっと、どうしてあなたが出てくるのよ」
不満げに睨むと珠李は口をへの字に曲げた。
「何ですか。ここは私たちの家なので私が出て来るのは当然のことです」
「そんなの知らないわよ! ガッ君に用事があるの!」
「ご主人様なら友人と勉学に励まれていますが」
「友達って女?」
「両手に華です。流石ですねご主人様は」
「もぉ! どーして女を連れ込んでるのよ! ガッ君に這い寄るメス猫は追い払っておきなさいよ!」
「―—まったく、何の騒ぎだよ」
女の後ろからぬるっと出てきたのは今度こそ学だった。
「ガッ君!」
「ノア、久しぶりだな。一体何があったんだ?」
「何があったじゃないわよ! アタシが居ない間に色々起こりすぎなのよ!」
「分かったよ。ここじゃ近所迷惑だから中に入ろうな。瀬葉須さんもお久しぶりです」
「ご無沙汰しております、学様。お嬢様が騒がしくて申し訳ございません」
「いつものことですから」
そう言って、学は2人を家の中に上げる。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔いたします」
廊下の突き当りにあるドアを開けるとリビングに繋がった。そこには見知らぬ女子高生と男子高校生が座っていた。珠李の発言は冗談だったらしく、片手に華で少し安心した。
だが、女がいた事実に変わりはない。
「誰よ、その女!」
「……こっちの台詞よ失礼な人ね。私の名前は安良岡歌弥。よろしく」
やられた。美少女だ。しかも、芸能界にいてもおかしくないレベル。不本意ながらメイドが猫避けになっていると思っていたが、期待外れのようだ。
「えっ、あ、よろしくお願いします。――じゃなくて! どうしてガッ君の家にいるのよ!」
「お呼ばれしました」
「なんでよ!」
「冠城くんが勉強を教えてくれるからよ」
「そんなの――」
「冠城くんって、とっても教えるのが上手いですよね」
「あー分かるわ。アタシも中学受験の時に教えて貰ったけど、説明も丁寧で――じゃなくて! アナタはガッ君とどういった関係なの!?」
「クラスメイトよ。それよりあなたも名乗りなさい失礼でしょ」
「は、はい、すみませんでした。アタシは露峰ノア。ガッ君とは将来を誓い合った仲よ」
「許嫁ってやつかしら?」
「はい!」
「違う!」
学が慌てて止めに入る。否定しなくてもいいのに。
「ノアは俺の血筋の関係者で、資本提携をしたー、そのー、まぁ……、遠い親戚ってところだよ。将来を誓い合ってないからな!」
「誓い合ったもん!」
「何年も前のことを覚えてやがって。そりゃなしだろ!」
「アタシは諦めないもんね。ガッ君の為に転校だってするつもりだし」
「正気かよ……」
「学様、恐れ入りますがお嬢様を止めていただけませんか。今回はこの件で訪れたも当然。本当にノア様が転校されたら私の立場がなくなってしまいます」
「瀬葉須は黙ってなさい! あなたには元々立場などないでしょう」
「相変わらず、瀬葉須さんにひでぇ言いようだな」
瀬葉須が困惑した表情で目を泳がせている。
「とにかく、夏休み明けにはそっちの学校に行く予定でいるから、ガッ君はそのつもりでいてね。アタシが行くまでアタシ以外の女とのコミュニケーションは禁止!」
「おいおい、そりゃ無理な話だぜ」
そう言ったのは、学たちと同じ制服を着た男子。
「……なんなのよ、モブ男」
「お? おいおい、俺の名前は広世裕紀。ガクとは深い、そりゃマリアナ海溝にまで届きそうになるまでふかーい関係の者だ」
「ただのクラスメイトだ」
裕紀は学のツッコミに一瞥しただけでそのまま続ける。
「ガクはな、クラスの女子からモテまくりなんだ」
「も、モテまくりぃぃぃ!?」
「この『姫君』さんも学に惚れこんでるんだぜ」
「アタシという存在がありながら、どうして浮気するのよ!」
「冠城君、この生意気な小娘とどういう関係なの?」
「学様、勉強に集中するために全員排除しましょうか?」
拗れた関係の中心に立つ学は、ただ茫然と立ち尽くすしかない。
<あとがき>
ぺかー。
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