勇者魔王小話

@hoshineko777

勇者「スライムに勝てん……」 受け付け嬢「課金してみてはどうですか?」

勇者「課金? 何それ。そんなのして強くなるの?」


受け付け嬢「間接的に強くなりますね。課金した分だけガチャを引けるんですよ」


勇者「いやそのガチャもなんなんだ」


受付「ガチャはくじ引きです。最近はみんなくじ引きでいい武器や防具を狙ってるんです」


勇者「……え。普通敵を倒して手に入れたアイテム使って武器を作るものじゃないの」


受付「それはだいぶん前の時代の話ですね。今はガチャの時代ですよ」


勇者「でもたかがくじ引きでしょ」


受付「別に引いていただかなくても構いませんよ。

魔王を倒す勇者がスライムすら倒せなくてもいいのであれば」


勇者「……わかったよ! 課金するよ。それでどうしたらいいんだ?」


受付「それは……、神様の気分次第ですね」


勇者「は?」


受付「勇者さんこのハジマリの町に来た時神様と契約しましたよね? その神様の気分次第で課金してくれるんです」


勇者「気分次第で神様は課金してくれるのか? 神様ってもっとこう全能みたいなかんじじゃ……」


受付「神様だって私たちと同じように仕事して報酬をもらってるんですよ。その報酬で勇者に投資という形で課金するんです」


勇者「ええ……。神様にとって人間界はどうでもいいのかよ」


受付「そんなことはありませんよ。例えばほらあの冒険者さん見てください」


勇者「あいつは確か新米冒険者じゃなかったか? でもなんであんな強そうな装備を……」


受付「たぶん彼の神様は契約した勇者が活躍してチヤホヤされたくて、たぁ〜くさん課金しているからです。ほら最高レアの黄龍の剣に雷光神龍セットに……」


勇者「ちょっと待て! なんでただの冒険者に神様が付いているんだ? まさか……」


受付「あれ? 知らなかったんですか? 今の勇者は昔みたいに1人だけじゃなくて神様と契約すれば誰でも何人でもなれるんですよ」


勇者「俺って特別じゃないのかよ……。まあいいや、俺には世界で1つしかない伝説の剣があるし」


受付「それ勇者みんな持ってますよ。しかも強化してもあんまり強くならないですし」


勇者「俺王様にも騙されたの?

『この先祖代々伝わる伝説の剣で魔王を倒してくれ!』って言われたのに」


受付「その剣こちらに売っていただければガチャ10回回せますよ」


勇者「……君たち魔王軍じゃないよね」


受付「失礼な! 私たちは誇り高き冒険者ギルドですよ!」


勇者「わかったわかった! とりあえずそのガチャを10回頼むよ」


受付「わかりました! ガチャは全部で5種類の玉がありまして、色はレア度が高い順に虹、金、銀、銅、白となっています! 後10回連続でガチャを回すとおまけにもう1回引けるので勇者さんは11回ですね!」


勇者「レア度が高いほど強いわけね。じゃあとびきりいいのを頼むよ!」


受付「任せてください! ではいきます! はぁ〜〜!!」


ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!



白 白 銅 白 白 銅 白 白 白 銅


勇者「……」


受付「えぇっと……、白が7個に銅が3個ですね」


勇者「受付嬢く〜〜ん? どうしてくれんのかなこれ??」


受付「ちょちょ、ちょっと待ってください! 後1回銀色以上確定が残ってますから!」


ガラガラ




勇者「銀色って……」


受付「……鉄の剣ですね、どうぞ」


チャキン


受付「ちょちょっと! 剣を抜かないでくださいよ! まだ初回チャージがありますから!! ほら!!」



ガヤガヤ


冒険者A「なんだ? どうしたんだ?」


冒険者B「今から初回チャージの儀式が始まるんだとよ、ほら」


鍛冶屋「……では全力でやらせていただきます。……ヌァーーー!!!」


カキンカキンカキン!!!


勇者「あれは……!」



冒険者A「うおー! 暗黒神龍装備!」


冒険者B「黒龍の剣! 全サーバー初!」


鍛冶屋「にいちゃん……、持っていきな。俺の人生最高傑作だ……」


鼻垂れ勇者「わーい、やったー。これで最強だー」


ガヤガヤガヤガヤ



受付「初回チャージならお金も少なくて済むので神様の財布の紐も緩むかも……」


勇者「神様! どうかお願いします! 私に強力な武器をお与えください! どうか初回チャージをーーーー!!」


受付(早えなぁ、コイツ)


チャリン


受付「この音は……! 勇者さん間違いありません! 初回チャージ完了の音です!」


勇者「……とうとう来たか、この時が。今! 俺は強い武器を手に入れてやる!!」



ガヤガヤ


冒険者A「おいまた儀式が始まるぞ!」


冒険者B「1日に2回も拝めるのか……。これはとんでもないものが来そうだな」


鍛冶屋「……にいちゃん、ほんとにやるのか? 俺はさっきのでほとんど力を使い果たしたんだが」


勇者「鍛冶屋のおっさん、限界ってのは……破るためにあるものだろ?」


鍛冶屋「……あんたを見ると若い頃の俺を思い出すよ。わかった! やってやろうじゃねぇか!」


ガヤガヤ


冒険者A「おっさんの限界が来そうだな……」


冒険者B「俺は信じてるぜ。奴らなら必ずやってくれるさ」


鍛冶屋「……では全力でやらせていただきます。……ヌァーーー!」


カキンカキンカキン!


勇者「これは……!」



冒険者A「うおーw ただの革装備w」


冒険者B「ゴブリンの剣w (ある意味)全サーバー初w」


鍛冶屋「にいちゃん……、持っていきな。俺の人生最高傑作だ……」


勇者「どこがじゃ!! これでぶん殴ってやろうか!!」


鍛冶屋「すまねぇ……、いつもなら竜の剣ぐらいできるはずなんだが……。年には勝てねぇな」


ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ



カランカラン


受付「おかえりなさーい! どうでs……」


勇者「俺もう勇者やめるわ」


受付「へ?」


勇者「だがその前に!! 魔王より酷いこの冒険者ギルドをぶっ潰す!!! まずはてめぇからだクソアマー!!!」


受付「チョチョ、チョットタンマー!!」


「あ」


勇者「身体が……、消えていく……?」


受付「たぶんアンインストールですね。存在を無に帰す回避不可の最強の呪文です」


勇者「オノレ……、これも貴様らのせいか! 冒険者ギルド!!」


受付「いや、たぶん、あなたと契約した神様ですね。間接的には私たちかもしれませんが、おおかたこうなったのは……あなたの運の悪さです」


勇者「なんでだ……。俺はただ強くなりたかっただけなのに……」


勇者「チクショーーー!!!」


ポン


受付(……安らかに眠れ、ラーメン)


受付「ジュルリ」



〈翌日〉



受付(さて今日からイベントですか! 張り切って頑張りましょう!!)


??「ねぇ君」


受付「はい、なんでしょう?」


??「ここ冒険者ギルドなんだよね? 僕新しい勇者なんだけどここに入会したいんだ」


受付「わかりました! 新規の方はこちらへ!」


スタスタ


新勇者「ねぇ、僕たち初対面だよね」


受付「ええ、そうですけど」


新勇者「だよねぇ。昨日君とここで話した覚えがあるんだけど……気のせいだよね」


受付(……あいつ、リセマラしやがったのか)



ー完ー

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