第7話 宿
アメリアたちは10日程をかけて王都に到着した。辺境伯軍の追手が現れると警戒していたが、なんの問題もなく順調に旅を終える事ができた。すぐにジェラルドに会いに行っても良かったが、道中はテント生活だったので宿でゆっくり休んでから明日向かうことにした。途中の街と違い王都は宿も多いので、万が一追手が来ても見つかりにくいだろう。
本当の事をいえば、ジェラルドに会うのが怖くて先送りにしたのだが、アメリアは自分自身にさえ嘘をついた。
「すみません、お嬢様。ここしか宿が空いてませんでした」
そう言ってクロに連れて行かれたのは、王都の中でも端っこの王宮から遠い場所だった。
「この時期だから、ちょっと古いけど我慢してね」
季節は春。新しい生活を始める季節だ。この時期王都では20日の間、毎日騎士団の一般市民向けの入隊試験が行われる。地方から人が集まるので、1年で一番宿が取りにくい時期なのだ。
貴族のための入隊試験や成人した歳にしか受けられない市民向けの入隊試験は別にある。今の時期行われるのは、即戦力になる者を雇うためのいわゆる中途採用試験だ。現在仕事を他にしている者もいるため、設定された20日のうち好きな日に試験を受ければいいようになっている。
採用されれば、希望者はその日から寮に入れるし、すぐ仕事も手に入る。狭き門ではあるが、人気があり仕事がない若者が全国から集まる。
数日王都の空気を感じてから試験を受ける者。残念ながら落ちてしまって王都で別の仕事を探す者もいるので宿屋の需要はかなり高まる。
「この時期に宿屋がとれただけすごいわ。ありがとう」
アメリアが笑顔で言うと2人も安心したようで、次の瞬間、姿が消えていた。目の前の宿は出稼ぎに来た庶民が泊まるような安宿で、貴族令嬢が泊まるような場所ではない。ただ、王都までテント生活をしていたアメリアには、久しぶりに建物の中で眠れる事が有り難かった。
宿の部屋に落ち着いたアメリアは静かに息を吐き出した。騎士団の一般市民向けの入隊試験を始めたのはジェラルドだ。改めて考えると国軍である騎士団を強化して、辺境伯軍への恐怖感を減らし、アメリアと結婚をしなくても良い環境を整えようとしていたのかもしれない。
アメリアは暗い考えを追い出すために頭を強く振った。とにかく明日会ってジェラルドと話をするしかない。アメリアは一人で考えるのはやめにして、無理やり寝ようとベッドに潜り込んだ。
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