第39話「最強VS最凶~究極の対決~」

★ ☆ ★


 すぐにサキたちのところに駆けつけようと思ったが、あれからもワラワラとノワの分身が現れて襲いかかってきたので瞬間移動魔法を使うことができなかったのだ。

 あと少しで、大事な教え子の命を奪われて操り人形にされるところだった……。


「おまえだけは、本当に許せねぇな」


 怒りを滾(たぎ)らせながら、ノワを睨みつける。


「ふふ、あなたにそこまで思わせることができて、わたしとしては満足ですよ」


 そう話す間にもノワは左右に分身を増やしていく。


「本当に卑怯な奴だな、おまえは。常に安全圏から人を攻撃してばかりだ」


「それは心外ですね。戦いというのは、まずは自分の命あってのものですよ? それは、ずっと戦い続けてきたあなたが一番よくわかってるんじゃないですか?」


 いちいち一理あるのが、腹立たしい。

 だが、俺とこいつには根本的に考え方の違いがある。


「だったら自分自身が強くなればいいだけじゃねえか。安全地帯から人を利用することばかり考えているようなおまえのような奴が一番俺は嫌いだ。だから、ぶっ潰す」


 俺は魔剣を構えて、切っ先をノワに向けた。


「ふふふ、あなたは勘違いしている。別に、わたしはそのほうが楽だから他者を利用しているだけで十分にわたし自身の力も強いのですよ」


「減らず口やハッタリは聞き飽きた。今すぐ消え失せろ!」


 俺自身も分身を増やしながら、一斉にノワたちに襲いかかった。

 ひとりたりとも逃す気はない。


 同時に俺は超精密探知魔法を最大限にして本物を見極める。

 そして、サキたちを守るために分身を十体ほど配置した。


「ふははははは! 無駄ですよ、無駄ぁ!」


 さっきよりも格段に加速的にノワの分身が増えていく。

 それでも俺と分身たちは次々とノワを屠(ほふ)っていった。


 しかし、魔力探知で本体を探しあてられない。

 俺の魔力をもって判別できないなんて、ありえないことなのだが――。


「ふふふっ! いいことを教えてあげましょうか? これは分身ではない。すべて、わたしの細胞をもとに作り出したクローン! それをオリジナルのわたし自身が操っているのですよ!」


「なんだとっ……」


 分身魔法にしては手応えがありすぎると思っていたが、そういうことだったのか。

 しかし――、


「クローンって、本来はもう別人格だろ? そんなものまで操っているというのか」

「そんなもの関係ありませんねぇ! わたしの役に立つことがなによりも大事なんですから! わたしのクローンたちもオリジナルであるわたしの役に立てて満足でしょう!」


 やはり、こんな頭のおかしい奴を野放しにしたことは俺の失態だった。

 情けをかけてしまったことで、これほどの災厄を招くことになるとは。


「もういい。とにかく全滅させればいいだけだ!」


 とにかく今はシンプルに考えるべきだ。

 あとのことは、あとで考える!


「ソード・アロー二式」


 俺は自らと分身に広範囲攻撃用魔術を唱えさせた。

 これで、増殖するノワの速度を上回って絶滅する。


 俺と分身が射出した数千のソード・アローが乱舞すれば、相手がいくらクローンのストックを貯めこんでいても抑えこめるはずだ。


「ぬっ……」


 さすがにノワたちの顔色が変わった。

 ここが勝負所。全力を使う!


「いけぇえええええええええええええええ!」


 魔力を最大限まで発揮して、目の前の絶対悪を殲滅にかかる。


「舐めるなぁあああああああああ!」


 対するノワもカッと目を見開いて、爆発的にクローンを増やした。


 脳が焼き切れるかと思うぐらい計算処理して、分裂・拡散し続けるノワを攻撃し、こちらの生徒を守る。


 そして、さらに精密な探知魔法を行使して――本体を探り続ける。

 その間、俺自身も魔剣を振るってノワのクローンと戦い続けた。


 クローンのほうが魔力が低いはずだが――もともとの魔力の隠蔽能力が高いので、どうしたって判別が難しい。本当に厄介な奴だ。


 だが、それでも――俺に不可能はない。

 こいつだけは、絶対に殺す。


「らああああああああああああああああああ!」


 魔力をフルパワー解放して、勝負をかける。

 増殖する相手よりも早く、こちらが倒す速度が上回ればいい。


「くおおおおおおおおおおおお!」


 対するノワもすべてのストックを使いきるとばかりに、クローンを爆発的に増加させた。だが、こっちには俺の分身+ソード・アロー二式がある。


 俺の分身は魔法だけでなく魔剣も使いこなせるので、押しきれるはずだ。

 数と数の凄まじい応酬が繰り広げられ――。


 ………………。

 …………。

 ……。


 ついに、こちらが――制圧した。


「どうだ、あとは……おまえだけだぞ」


 残ったのは、ひとりだけ。

 つまり――こいつが、本物だ。


「いやはや……驚きましたね。魔皇子であるわたしのクローンをここまで完膚なきまでに倒すとは。これだけの数を増やすのは大変だったんですよ?」


「おまえのクローンなんて野放しにしたらロクなことにならねぇからな。ひとり残らず絶滅する。次は、本体のお前だ。九十九回世界を滅ぼした罪、払ってもらうぜ。それと大事な教え子を殺そうとした罪は絶対に許せねぇ」


 俺は、分身と共にソード・アローをノワに殺到させる。

 もし空間転移魔法を使おうととも、瞬時に俺自身が飛びかかる!


「ふ……」


 ノワは、こちらの攻撃をまったく回避することなく無数のソード・アローに斬り刻まれていった。


「…………なんだと?」


 予想外の状況に理解が追い付かない。

 そんな俺を嘲笑うかのように、ノワはニヤリと口元を歪めて死んでいった――。

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