第26話「サキとミナミも加わってカオス化する温泉精神修行!~出血大サービス(鼻血的な意味で)~」

 と、そこで。


 ――フィィイイイイン。


 魔力の気配。これは転移魔法だ。

 そして、現れたのは――。


「センセーーー! 魔導ポーション使って魔力回復しました! 加勢しに来ました! ……って、あれ?」

「先生、魔族の軍団は……って、こ、これはどういう状況ですの!?」


 サキとナナミだった。うん、死んだ。社会的に。

 生徒たちに今の状態を見られるなんて終わりだ。


「……あら、おふたりとも。どうしたのですか?」


 トヨハは、この現場を見られてもなんの問題ないとばかりに生徒たちに振り向く。

 もちろん全裸なので、生徒たちに巨乳を惜しげもなく晒している状態である。


「でかっ!」

「……お、大きすぎですわ……!」


 サキとナナミは、トヨハのリーサルウェポンOPPAIを見て絶句していた。

 そう。おっぱいは武器なのだ。最強魔導騎士の俺ですら死にかけた。


「ふふ、おふたりもいずれ大きくなると思いますよ?」


 余裕たっぷりに、生徒たちに対応するトヨハ。

 全裸なのだが、王族の貫禄だろうか。

 ふたりは圧倒されているようだった。


 俺は、その間に魔法を行使して鼻血を止める。

 続いて、付着した鼻血も魔法によって清めていった。


「えっ、魔法!? センセー、今、なにしたんですか!?」

「もしかして血ですの!?」

「えっ!? い、いや、これはっ、そのだなっ……」


 いかん。ますます、話がこじれそうだ。

 童貞丸出しで俺は挙動不審になってしまう。

 一方で――。


「ふふっ、これは特訓です♪」


 胸の大きさと度胸は比例するのだろうか。

 トヨハは堂々と言ってのけた。


「ふえ? 特訓? でも、なんで全裸なの?」

「それと先生が鼻血を出していたのと、どんな関係が?」


 そうだ、無理がある。

 だが、トヨハの態度は揺らがない。


「これは温泉に入って我慢する鍛練なんです。それで、ご主人様……いえ、ナサト様がのぼせてしまって、鼻血が出てしまったのです」


 上手く辻褄を合わせた!


「ご主人様? なんでセンセーをご主人様って呼んでるの?」

「のぼせるまで温泉に入り続けるって、それ、普通に危険なんじゃないですの?」


 サキは、問題発言を聞き逃さなかった。

 そして、ナナミは冷静なツッコミだ。


「ナサト様のことをご主人様と呼ぶことも鍛練のひとつなんです。わたくしは姫騎士として常に人の上に立ち続けたことで、どこか傲慢さがありました。それをナサト様は克服させてくれたのです。温泉に入り続ける鍛練は確かに危険ですが、危険でないと特訓になりませんから」


 さすが王族だけあって、トヨハは弁舌が優れている。

 無駄に説得力があった。


「へー、そうなんだ!」

「なるほど。これは特訓の一環なのですね。トヨハ姫様の言うことなら信じられますわ」


 アホなサキだけでなく、理知的なミナミまで信じている。

 なんだか、ますます話がおかしな方向へ行きそうだ。


「じゃ、センセー! あたしも、その特訓やらせてください!」

「わたしも貴族育ちで傲慢なところがあるので、ぜひ、この鍛練をさせていただきたいですわ!」


 ふたりは無駄に学習意欲が高かった!

 というか、そんなキラキラした目で俺を見ないでくれ!

 これは半分冗談みたいな感じで始めたものなんだ!

 純粋な生徒たちを騙してるようで罪悪感が芽生える!


「ふふふ♪ 頼もしい生徒たちですね! ナサト様、ぜひふたりにも特訓をつけてあげてくださいね?」


 ニコニコしながらメチャクチャなことを言うトヨハ。

 おまえも姫なら、純粋な少女たちが変な方向へ行くのを止めるべきだろう。


「センセー、お願いします!」

「先生、ぜひ、わたしのことも鍛えてください!」


 そんな熱意のこもった表情で言われると、断りにくくなる。


「わたくしからもお願いいたします、ご主人様!」


 だからトヨハは加勢している場合じゃないだろ!

 教育的に、絶対によくない。


「い、いや、これは……トヨハ向けというか、大人向けというか……」


「あたしたち、もう子どもじゃありません!」

「そうですわ! わたしたちも国を守るために戦う魔法使いなのですから子ども扱いしないでください!」


 いや、俺はおまえたちが道を誤らないようにと思って回避しようとしているのだが。先生の心、生徒知らず――といったところだ。


「そうですよ、ご主人様。生徒たちの願いを叶えてあげましょう。わたくしからもお願いいたします」


 ニコニコ笑いながら生徒たちを誤った道へ堕とそうとする姫騎士。

 聖女のような見た目なのに、なかなかどうして頭がおかしい。


「センセー! お願いします!」

「先生! どうか、わたしたちを指導してください!」


 ここまで熱心に頼まれると、もう断ることは不可能だ。

 もうどうなろうと知ったことか。


「……わかった。おまえたちの熱意には負けた。それじゃ、サキとミナミにも特訓を施してやろう」


「わーい! ありがとうございます、センセー!」

「先生、感謝申し上げます! これでさらに高みへと昇ることができます!」


 いや、低みなんだけどな。ある意味。

 感謝されればされるほど、罪悪感が強くなる。

 でも、こうなったら引き下がることなどできないのだ!


「くく……なら、始めようか。ほら、なにをボサッとしている。さっさと脱げ」


 俺は主従ロールプレイを敢行するべく、冷たく告げた。

 演出のために、あえて魔王じみたダークオーラを放ってみる。


「わっ、センセーの雰囲気が急に変わった! 魔王みたい! すごーい!」

「って、いきなり脱ぐんですの!?」


 まったくマイペースな奴らだ。

 これでは、鍛練にならないじゃないか。


「おまえたち! 口調を改めろ! 俺のことをご主人様と呼べっ!」


 カッと目を見開きダークオーラを噴出しながら、大喝する。


「ひゃあ!? う、うん、わかりました、ご主人様っ!」

「ひっ――!? わ、わかりましたわ、ご主人様……!」


 俺が本気であることが伝わったのか、ふたりは態度を改めた。

 姿勢もビシッとしたものになり、表情も緊張感に満ちたものになる。


「くく、それでは、撮影魔法を発動する。これはおまえたちの姿を映すことができ、さらにはいつでも見ることのできる魔法だ」


 俺は撮影魔法を行使して、ふたりの姿を記録し始めた。


「撮影魔法? それって、どんな魔法ですか、センセー……あ、ご主人様」

「聞いたことのない魔法ですわ……」


 説明するより実演したほうが早い。

 さっそく記録した魔法を放映し始める。


『撮影魔法? それって、どんな魔法ですか、センセー……あ、ご主人様』

『聞いたことのない魔法ですわ……』


 それを見て、ふたりは目を丸くする。


「ふえっ!? あたしたちが映ってる!?」

「そんな! こんな魔法があるだなんてっ……!」


 うん、驚いてもらえてなによりだ。

 この魔法は地味に難易度の高い魔法でもあるのだ。

 火や水の魔法とは、まったく次元が違う。


「くく……この魔法によって、おまえたちの恥ずかしい姿はバッチリ記録される。そして、全世界に放映することができるのだ。そんな状態で、はたして、おまえたちは服を脱ぐことができるか?」


 男湯に乱入するようなアホどもだが、記録&全世界放映となると訳が違うだろう。

 俺の脅かすような声に、ふたりはビクッとする。


「ぜ、全世界に放映かぁ……」

「……ぜ、全世界に、わたしの裸体が見られてしまうなんて」


 さすがにこれは年頃の生徒たちにはキツいだろう。

 ここで引きさがってくれるなら、よし。

 というか、そうなってほしい。俺のメンタルのほうが持たない。


 トヨハのような秘められた露出性癖を持っていたドMならまだしも――生徒を変な道へ向かわせるのはよくない。人間として、とてもダメな気がする。


 そもそも、ふたりとも一応今の俺と同年齢なんだし。

 って、意識した途端にまた鼻血が出そうになってきた!


「ちょっと恥ずかしいけど、でも、これも修行のためだもんね!」

「そ、そうですわ! わたしは魔導書を作れるような偉大な魔法使いになるために、こんなところで立ち止まっているわけにはいきませんっ……!」


 ……素晴らしい向上心だ。いや、俺にとってはピンチなんだが。

 このまま撮影魔法を使うのは、社会的にも教育的にも非常によろしくない。

 安全第一、健全第一。ここで止めるのもどうかと思うが、やはりいかんだろう。


「あ、あのな――やっぱり、やめ」

「素晴らしい生徒たちですわ! 一緒に鍛練をがんばりましょう!」


 止めようとした俺よりも早くトヨハが感動したように生徒たちに呼びかける。

 いや、姫なら止めろよ!? このドМ露出狂変態姫騎士!


「あはっ♪ トヨハ姫様に褒められちゃった! よーし、脱ぐぞー!」

「こうなったら、とことんやってやりますわ! 後戻りはしません!」


 若さって、恐ろしい。いや、俺も同年齢なんだけど。

 ……って、本当にふたりとも服を脱ぎ始めた!


「く、くふふ……な、なかなか、やるではないか……」


 内心メチャクチャ動揺しながらも、かろうじて主従ロールプレイを続行する。

 本当は逃げ出したい。やはり童帝王の俺には刺激が強すぎる。


 俺が葛藤する間にもふたりは魔術師ローブ、白の下着、紺色のソックスを脱いでいき――ついに、一糸まとわぬ姿となった。慌てて視線を逸らしたが、


「ぶぐっ」


 鼻血が噴き出したので、無詠唱で出血を止める。

 俺は、そのまま止血の魔法を継続行使し続けた……。


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