第18話「ダークエルフの魔弓~」
「おお、すごい精度だな」
地上から空中にいる標的に向けて射るだけでも難しいのに、心臓を的確に狙ってくるとは。
「だが、俺にはバリアが――」
そこで、俺は気がついた。
この矢は――魔法無効化エンチャント済。
矢が接するとともに、障壁が弾け飛ぶ。
貫通こそしなかったが、完全に俺のバリアが破られた。
「なっ!?」
さらには、いつの間にか放った二本目の矢が迫ってきている。
それをかろうじて、よけた。
「……ほう。これを避けるとは。どうやら魔力頼みというわけではないようだな」
ダークエルフは強弓を構えたまま、興味を持ったようにこちらに顔を向けた。
「なんだ、思わぬところで強い奴に出会えたな。そうだ。俺は魔導騎士だ。魔法だけじゃないぞ。おまえも、ただのダークエルフって感じじゃないな?」
適当に作ったバリアだったが、それでも簡単に打ち破られるものではない。
それこそ、四天王とか魔王級ならわかるが。
「我は魔王軍四天王が一角。ダークエルフのメサ。光栄にも人類粛清軍の先鋒を任されている」
「そうか、いきなり四天王か。どうりで率いている軍勢のレベルが違うと思ったぜ」
有能な指揮官によって、この魔物たちも鍛えられているようだ。
俺が生徒たちを鍛えているように、こいつも魔物たちを育成してきたのだろう。
「ふん、我自ら鍛練をつけた魔物たちだ。しかし、おまえを相手にしたら徒(いたずら)に被害が出るだけだな。ここは我が相手をしてやろう」
メサが右手を引くと、なにもない空間から魔法矢が創り出されていた。
なるほど。これなら、いくらでも矢が打てるというわけか。
魔法が得意なダークエルフが矢を使うのは珍しいと思ったが、これは合理的だ。
「我は魔法のみだけでなく肉体をも弛(たゆ)まず鍛えてきた。魔王軍四天王として、人類粛清を貫徹するためにな」
「そりゃ、ご苦労なこった。その努力をもっと別のところにしてほしいところだがな。でも、気に入ったぞ。俺も魔法だけでなく剣も磨いてきたからな!」
こういう、あくなき戦闘求道者は俺の好みだ。
残念ながら、思いっきり敵ではあるが。
「ふん、おまえに気に入られたところで嬉しくもない! ゆくぞ!」
メサは地を蹴って、駆け始めた。しかも、ジグザグに。
そして、文字通り矢継ぎ早に魔法矢を放ってきた。
「おぉおおっ?」
軌道がいちいちわかりにくいのに加えて、魔法矢の種類も雷・炎・氷・毒など変化させている。
俺だって、種類の違う魔法を連発するのは少々骨が折れる。
しかも、駆けながらとなると、さらに難易度が高いのだ。
「やるな! これまでに闘った奴らの中でも上位に入るぞ!」
これなら下手な魔王より強い。
過去100回魔王と戦ってきたが、30体ぐらいはメサより下だった。
「おまえに褒められても、嬉しくはない!」
メサは怒りながら、さらに矢を連射してきた。
俺は体捌きだけで全ての矢をかわしていく。
「このツンデレダークエルフめ。そのツンツンした態度をデレさせてみたいものだな! 俺のことをご主人様って呼ばせてやる。俺はエルフ愛好者だからな! 普通のエルフもダークエルフも大好きだ!」
「くっ! この痴れ者めが! おまえなんぞに好かれるなど不快だ!」
どうやらかなりのツンデレらしい。というかダークエルフは総じてプライドが高い。メサは激怒しながら、右手に強烈な魔力を発生させ始めた。
「おっと、大技を出すのか?」
「その不愉快な面ごと、吹き飛ばしてくれる!」
さっきまでよりも、魔法矢の生成に時間がかかっている。
ある意味で隙だらけなのだが、ここで攻撃するほど野暮ではない。
「ジェントルマンな俺は、ちゃんと待ってやるからな。思いっきり俺に必殺技を放ってこい!」
「ええい! その減らず口、永遠に叩けないようにしてくれるわ!」
さすがは戦闘に特化したダークエルフ。
怒りの感情を魔力に変換して、より強力な魔法矢を創り出していった。
「おー、多重属性の魔法矢か!」
多重属性とは、ひとつの武器にいくつもの魔法効果を付与する方法だ。
この感じからすると、炎・雷・毒・重力の四種類といったところか。
「四つも属性を付与するなんて、さすがだな! いよっ、四天王! ダークエルフはダテじゃないな!」
「くっ、瞬時にこの魔法矢の特性を見抜くとはっ……なんなんだ、おまえは」
メサは驚愕の表情を浮かべる。
魔法のエリートであるダークエルフに驚かれると、悪い気はしない。
「俺は、そうだな……時を巡る旅人――いや、時を巡る救世主といったところかな?世界を百回救ってきた英雄、名はナサトだ」
「わけのわからぬことをっ! ええいっ! ともかくこの魔法矢でおまえを屠る!」
具現化した魔法矢を強弓に番える。
黄金色に輝く瞳が――俺の姿を捉える。
「逃げられんぞ! 我の持てる力をすべてを注ぎこんだ矢で死ぬがいいっ! いけぇっ!」
そして、メサは矢を放つ瞬間に――さらなる魔法を付与していた。
それは――「追尾」。
「もう回避も飽きてきたところだからな。叩き斬ってやるぜ!」
俺は瞬時に魔剣を具現化。
迫りくる魔法矢に向かって、斬撃を叩きこんだ。
「なっ――!?」
真っ二つにしたのは矢だけではない。
付与されていた魔法ごと、一刀両断した。
相手の魔法を完全に打ち消す、『相殺』の魔法だ。
「バカなっ……! すべての属性が打ち消されただと!?」
「まあ、相殺魔法は難易度高い上に、消せても普通は一種類だもんな」
だが――。
「俺は普通じゃないからな」
俺は、存在自体がチート。
そんな俺の使う魔導斬撃が、普通のわけがないのだ。
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